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第110話

「それで結局、さっきのスキルは何だったんですか?」

 俺の下に居るイチコが不満げな顔をしながら先程俺が使った『白の縛鎖』について聞いてくる。


「あれか?秘密……」

 秘密にしようとしたらイチコが睨んできた。

 むう。しょうがない。


「しょうがない。誰にも言うなよ?」

 そう前置きをしてから俺は説明を始める。

 まあ、前回のそれぞれの十年間を語り合う際には省いた『法析の目』と『検魔の行燈』の機能とその機能を使って何をしたかを話しただけだけどな。


 具体的に言うと『法析の瞳』で今日までの間に俺の覚えている≪霧爆≫≪幻惑の霧≫≪尖水柱≫≪循環≫の4つのスキルと、配下のモンスターたちが使う≪霧の矢≫≪泥の矢≫≪泥の壁≫等の一部スキル。それに加えて封技の鉄枷Ⅰ等の一部設備を解析。

 解析結果としてはまずどのスキルにもほぼ共通する構文が最下層に存在し、その上に属性、消費量、形状、範囲、その他諸々の具体的にスキルの中身を決定する構文が存在している。そしてその上が実際にそれが現実空間にどうやって出力しているかを表す構文になっている。


 で。そこまで分かったなら後はその構文を自分の手で組み立てればいいわけで、『白の縛鎖』なら霧を鎖に変えて射出、絡み付かせる構文に加えて絡み付かせた相手のスキルを封じる効果も含ませてある。その分、作成も発動もそれなりにキツかったけどな。


「それで組み上げた結果がアレですか。」

「そう言うこったな。」

 俺の説明にイチコはとんでもない。と言った顔をしている。

 まあ実際にとんでもない技能ではあるな。なにせそれぞれの構文が何を意味しているかを知れれば好きなスキルを自由に生み出せる訳だしな。


 ただそうは問屋が卸さない。


 イチコにはまだ話さないが全スキルに共通している最下層の構文。これがなかなかに厄介なのだ。


 最下層構文が示しているのはそのスキルを習得するための条件や前提となる法則。そしてこの中には妙な構文が潜んでいるのだが、その構文のおかげで俺達はHP等を消費するだけでスキルが使えるようになっている。


 そう。本来ならばスキルと言うものはもっと様々な物を消費して使うものなのである。


 では、足りない分の力は一体どこから流れてきているのか。


 ここで思い出されるのが以前の光景の一つ。

 それは俺のクロキリノコが防御の姿勢すら取っていなかった魔神に通用しなかった事。


 何故通用しなかったのか。単純に魔神の防御力に対して俺の攻撃力が足りなかったという可能性も考えたが、あの時の手応えはそんなものではなかった。

 恐らくは最下層の構文にはこういう意味のある言葉が書かれているのだろう。


『消費する力の一端は魔神が請け負い、その代償として魔神に害を及ぼすことが出来ない。』


 と、


 それならばあの光景にも納得が出来るし、魔神ならこれぐらいの仕込みはしていてもおかしくない。

 ただまあ、これが事実だとすると魔神にはこの世界でスキルを使う何百億と言う存在の消費を賄えるだけの何かがあるという恐ろしい事実が新たに浮かび上がるわけだが。


 それはさておいて今回俺が使った『白の縛鎖』は今までのアウタースキルと違ってこの最下層の構文から弄ってある。

 で、その結果として魔神に対しても一応の効果が得られるようになったのだが……代わりに何か妙なもの消費するようになった。


 多分あれだろうな。魂的な何かを消費したんだろう。


 今回は試しに使ってみたがあれは乱用していいものではないと思う。

 というか乱用したら確実に死ぬ。


 で、そんな風に自分の思考に専念していたらイチコが俺の顔を下から見上げつつ体を掴んでいた。

 うん。すっごく可愛い。でも会話を進めないとな。


「あー、どうしたイチコ?」

「前々から馬鹿でクズだと思っていましたけど、ここまでのものとは思いませんでした。」

 ん?どういうこった?


「だってそうでしょうが!その左目をどうして失ったのか忘れたんですか!無茶をして妙なアウタースキルを使ったからでしょうが!」

 イチコが涙目になりながらそう言う。


「あー、言っておくが『白の縛鎖』のリスクなら左目を失った原因のスキルよりもはるかに低いぞ?」

 嘘だけどな。実際は構文の組み立ても含めて、準備から使用まで危険だらけだ。

 でもそれを知られる訳には……


「嘘です!」

 ばれてーら。


「半魔王になった今なら分かります。強い力にはそれ相応のリスクがある。そして『白の縛鎖』は恐らくですが魔神にも通用する可能性のあるスキルです。そんなものがリスクも無く使えるはずがありません。」

 むー。完璧にばれてる。


「使うなとは言いません。けれど使うならもっと研究を進めてからにしてください。私も協力しますから。協力には理由が必要ですか?それなら言います。そうです。私にとってクロキリは……」

「ん。それ以上は言わんでくれ。」

 俺は顔を真っ赤にして暴走し始めているイチコの口を封じる。

 それ以上言われるのは色々と気まずい。というか言わせたらダメな気がする。その発言はイチコの原点を覆すことになる。今でもだいぶアレだが、初心を完全に忘れるのは拙い。


「分かったよ。ならこれからはイチコも手伝ってくれ。」

「はい。」

 そうして、俺とイチコは二人一緒にスキルの研究をすることになった。

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