前へ次へ   更新
109/157

第108話

今回は模擬戦の後日談や裏の話などです。

「いやー、案外あっさり決着がついたな。」

 俺たちの前でアルパカが建材を運び、牛頭霧がその建材を使って家を建てる。


「そうじゃのう。ま、お互いポーンの数も少なかったし、初めてという事で凝った戦略も無かったしの。」

 そんな中で俺と狐姫はお茶を飲みながら談笑している。


「しかしムギの行動と火力には驚かされたな。味方を巻き込んであの威力の攻撃を放つのは予想外だった。」

「泥人形の中に沼飛魚を仕込んでおくような奴が何を言うか。」

 談笑の内容はもちろん今回の模擬戦についてである。

 と言っても今回は短時間で模擬戦が終わってしまったのでそこまで語る事も無いのだが。


「ただ一番大変だったのは準備だな。」

「そうじゃのう。まさか立ち退きにここまで時間がかかるとは思わんかったわ。」

 そう言って俺たちは立ち退き時の騒ぎを思い出す。


 いやー、あの時は本当に大変だった。

 当然と言えば当然なんだけど、事前に連絡をしておいたはずなのに村人総出で抵抗してきてね、殺さずに気絶で済ませて連れ出すのが本当に大変だった。

 ちなみに強制退去作戦のMVPはイチコである。人間離れした筋力と敏捷。それに加えて転移能力持ち。それを生かして特に抵抗が強かった人間を影から手刀一発で気絶させてくれたおかげでかなり手間が省けた。

 次点では元『霧の傭兵団』のメンバーかな。今は希望者は霧人や狐人にして、各ダンジョンに所属してもらっているわけだけど、連携・恫喝・説得いずれも上手くやってた。


「ただあの手間を考えると次の開催地は人間が居ないところでやりたいところだな。」

「壊した物の修理も手間じゃしなぁ。次は開催前から人が居ないところの方がいいのう。」

 はっはっは。と黒い笑顔を多少浮かべつつも俺たちは笑う。


 まあ実際問題。模擬戦開催前(・・・・・・)に人が住んでなければ例え模擬戦の最中にどれだけ建物が壊れても何も直す必要なんて無いんだよな。

 うん。問題ないったら問題ない。


「何、黒い笑みを浮かべているんですか。」

 イチコが俺たちの方に呆れた顔をしながら近づいてくる。


「おうイチコか。終わったのか?」

「はい。粗方の建物の建て直しは完了し、畑の状態も9割方元に戻りました。」

 イチコの言葉を受けて俺は村の方を見る。確かに俺たちが来る前の状態にほぼ戻っている。


「素材の回収の方はどうじゃ?」

「そちらも滞りありません。まあ多少は補償も兼ねてわざと残してありますが。」

 よく見ると今回生き残ったモンスターたちが仲間たちの死骸を集めて背負い、移動の準備を整え終わっている。


「となると後は補償の問題か。」

「村長から要求などは来ておるかの?」

「今のところは過度な要求などはありませんね。精々が問題なくここ一年ぐらい生活できるように食料の援助は求められていますが。」

「まあ想定の範囲内だわな。犬肉を時折送ればいいだろ。」

「なら妾の所からは牛肉を送ればよいかの。」

 そのぐらいの要求は想定済みなので問題ない。というかむしろそのぐらいの要求をしてもらった方が後が色々と楽だ。

 なにせ一度補償の要求に応じてやったならそれ以上の要求は無視して構わんからな。


「まっ、なんにせよ。やるべき事はやったし帰るか。」

「じゃな。」

 そうして俺たちは後始末を終えてそれぞれのダンジョンへと帰っていった。



■■■■■



 その日は本当に酷かった。

 夜が明ける前にお母さんに叩き起こされたと思ったらお母さんは顔を真っ青にしていた。


「どうしたの?」

 と、僕がお母さんに聞いたら、


「逃げるわよ!」

 と言ってお母さんは僕の手を取って家の外に駆け出そうとする。

 そして家の外に出た所で突然大きな影が僕たちの上にかかった。

 僕は自分の頭の上を見る。そこには巨大な牛の頭の化け物が居た。


「ひぃ……あっ……」

 お母さんはその化け物を前にぼくを抱えて震えている。

 化け物がこちらに手を伸ばしてくる。


 そして化け物は……



 僕たちを避難場所と書かれた場所に連れて行った。



「え?」

 母さんが驚いた顔をしている。

 周りの大人たちも大体同じような顔している。


 そしてそんなこんなの内にそれから始まった化け物同士の戦いは凄まじいと言うほかなかった。

 轟音と共に化け物が殴り合い、赤い噴水が立ち上り、色とりどりの光が飛び交うと同時にそこかしこで爆発が起きる。

 でもその中で僕が一番驚いたのは戦いの最後に使われた白と茶のマーブル模様が特徴的な魔法の矢。

 あれからは凄い力を感じた。


 僕はまだスキルに目覚めていないけど、いつかあれぐらい強い力に目覚めたい。


 僕は幼いながらもそう思った。



■■■■■



「ん。さすがにいい資料が集まったな。」

 俺は自室で外に出た連中が戻ってくるのを待ちつつそんな事を呟く。


「『法析の瞳』と俺自身の視界をリンクさせるのは難儀だったがその成果はあったな。」

 実を言えば今回の模擬戦は勝っても負けても俺にとっては良かった。

 俺にとって今回の模擬戦の目的は勝つことではなく出来る限り多くのスキルを目にし、『法析の瞳』で解析することだったからだ。

 そしてその目的は果たされた。


 これで俺のスキル研究は随分と捗るだろう。


 ふふふ。楽しみだ。

06/29 誤字修正

 前へ次へ 目次  更新