第105話
某月某日、魔王専用会合場
「チェックメイト。」
「ぐぬぬ……」
俺の前には完全に詰んでいるチェスの盤面と対戦相手である小火狐with狐姫が座っている。
「主は本当に弱いのう。これで何敗目じゃ?」
「知るか。てかお前との勝負に関しては7:3ぐらいだろうが。」
フォッグwith俺は悔しそうな表情をしつつ狐姫にそう反論する。
さて、何故に俺と狐姫がチェスなんてものに興じているかと言うとその理由は割と複雑だ。
まず俺たちの配下(眷属、モンスター問わず)はその数を年々増やしており、基本的にはダンジョン内で待機をさせているし、様々な理由から狩られるなどしてその数を多少減らすのだがそれでもかなりの数が貯まってきている。
そのスピードと数はじきにダンジョン外にあふれ出て、かつての雪翁の配下たちがしたような暴走を引き起こしかねないレベルである。
で、貯めた以上はどこかで消費する必要があるわけなのだが、この消費方法がまた問題になる。
というのも、まず普通にダンジョン外で暮らしているレベル1の人間一人ではよほど優秀なスキルを所有していても薄靄狼と一対一でやり合うのが限度であり、そんなところに大量のモンスターを放出すれば確実に村や町単位で人間が死ぬ。これはさすがに殺し過ぎだ。
かといってダンジョン内に突入してくるような人間でもごく一部の規格外を除けば大量のモンスター、それも種類の違うモンスターが代わる代わる襲い掛かってくるような状況には対応できない。なので、ダンジョン内への過剰放出もダメ。
ならばとモンスターたちを無抵抗で殺させるなんてのは人間に対しての物資的な意味での施しでしかなく、魔王が人間にそんな施しを与えてやる謂れはない。というか絶対にごめんだ。
じゃあどうするかとなった時にここでこういう会話があった。
「のう霧王よ。」
「何だ?」
「模擬戦でもせんか?」
「模擬戦だぁ?」
「うむ。ルールを決めた上で互いに配下を出し合って外で戦争の真似事をするのじゃ。」
「あー、なるほどな。その内蛸王辺りが攻めてくるかもしれないしいい訓練になるかもな。というかそんな話を切り出すあたりそっちもアレか?」
「うむ。貯まりきっておる。」
「なら審判は雪翁と竜君の配下に頼むとしてだ……」
とまあ、あれよあれよと言う内に模擬戦を行う事が決定し、その事前練習として元来はそういう物として作られたというチェスや将棋を出してきて、冒頭の光景に至るわけである。
ちなみに、
盤上の模擬戦(チェスとか将棋)に関しては強い順に雪翁、狐姫、俺、竜君である。雪翁が強いのはまあ年の功としてだ。狐姫が意外に強い。その場その場の対応しかできない竜君は論外にしても、2,3手くらいなら先を読める俺相手に7:3で勝てるあたり人間時代から嗜んでいたのではないかとも思う。
まあいい、所詮は盤上の模擬戦であって実際の戦いではない。
仮想で千回負けようとも現実で一回勝てばいいのだ。そう!決してこれは負け惜しみではない!年下である狐姫に負け続けいるのが悔しいとかそういうことは無いのだ!
「いや、どう聞いても負け惜しみじゃぞそれは。」
狐姫が呆れ声でそう言う。
それに対して俺は
「ちくしょおおおぉぉぉ!今度の模擬戦で目に物見せてやらあぁ!!」
と答えるしかなかった。
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模擬戦のルールについて(簡易版)
1、模擬戦は二人の魔王の申し合わせによって開催が決定される。
1'、模擬戦中に発生したあらゆる事柄はお互い偶然の物だとして納得すること。
1''、当然ながら開催前に人間たちにある程度は話は通しておくこと。
2、模擬戦を行う魔王以外の魔王は審判役を務める。
2'、審判役の魔王は戦いの規模に合わせて自分の配下を審判役として参加させること。
3、戦闘日時は適当なものを審判役が出す。
3'、戦闘場所に集落などがあった場合はその場に住む人間は四魔王で協力して退去させ、模擬戦終了後に住居の修理を初めとして各種補償を行う事。
4、模擬戦に参加させる配下は大きく分けてキング、ナイト、ポーンの3つに分ける。
4'、キング:各陣営の目標であり、キングが撃破された側の陣営は敗北となる。キングには必ず魔性を用いり、魔王が常時フルコントロールして、
4''、ナイト:各陣営の眷属であり、最大10名まで参加させてよいが互いに数は揃えること。不幸な事故を出来る限り避けるために各員頭の上にマーカーをつけ、マーカーが破壊された時点で死亡したとして戦場外に撤退すること。
4'''、ポーン:各陣営の魔性であり、公平を規すために数に関してはお互い揃える事。種類や質に関しては問わない。原則戦場外への撤退は無し。
5、予め物品などを賭けていた場合は模擬戦終了後に模擬戦の結果に合わせて素直に相手に渡すこと。
5'、模擬戦終了後に大量に出ると思われる魔性の素材に関しては各員が持ち帰れる範囲で持ち帰り、残りは放置して人間たちに処分を任せる。
6、ルール改訂を行う際は多数決で半数以上の魔王の賛成が得られた場合のみ改訂がされる。
なお、残りの細かいルール運用などは高度な柔軟性を維持しつつ臨機応変に行う事。