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第104話

第3章開幕にございます。

 夜。俺は墓場に来ていた。


「よし。誰も居ないな。」

 俺は周囲の気配を探ってからとある墓に近づいていく。


 その墓はこの墓場の中でも最も真新しいもので、汚れ一つなく花も飾られている。


「さてやるか。」

 俺は霧の体を細く伸ばして墓の壁を黒の霧の力で少しずつ削っていき、伸ばされた俺の体はやがて最近そこに納められた一つの壺に到達する。

 そこからさらに壺の側面を削って中にあるものを取り出す。


「よしっと。じゃあ≪霧爆≫。」

 俺は箱から取り出した物を小さな箱に納め、その箱の表面を≪霧爆≫で凍結して完全密閉する。


 この箱の中身が何時活かされるのかは分からない。それこそ俺が生きている間には全く活きない可能性だってある。

 それにいくらアレを打倒する鍵が秘められているかもしれないとは言え、本来ならば墓を暴くなどそれこそアレがやっているのと同じで忌み憎むべき行為だ。


「だが、それでもやるしかない。」

 俺は凍りついた箱を手に俺以外のあらゆる者の立ち入りを禁止したエリアに行き、その最深部に設置された厳重な扉を開け、その中にある保管庫に箱を置く。


「俺は俺の為に魔神を討つ。その為なら全てを利用する。俺を慕う者も憎む者も関心なき者も全てをだ。」

 俺は扉を閉じ、私室へと戻っていった。



■■■■■



「長きに渡る任務ご苦労じゃったな。ムギよ。」

「私如きには勿体のうお言葉ありがとうございます。狐姫様。」

 妾の前には十年以上前に『戦獣達の狐都』から二人の霧人について大陸へと旅立った妾の眷属の一人である不知火ムギが跪いている。


「それにしても逐一主から報告は受けていたが大陸の技術は真に興味深いのう。」

「はい。中には我々にとって生かせるものもあると思います。」

 今の制海権を奪われた状況でも船を出せる可能性に始まり、異なる複数のダンジョンに生息するモンスターの素材の組み合わせ方や、新たな料理。魔神に関する情報。

 ムギが妾にもたらした情報はいずれもが妾たちの益になっても害にはならぬものであり、生かし方次第では更なる発展も望めるものじゃった。


「さて、実際にどのように生かすかはまた後で考えるとしてムギよ。」

「何でしょうか。」

「恐らくこの先また主の力を借りる事もあるじゃろう。今はゆっくりと休むがよい。」

「はっ!」

 そう言ってムギは立ち上がり妾の前から去っていく。


「ふふふふふ。この先の世界は荒れそうじゃのう。じゃが生き残るのは妾じゃ。他の誰でもない。」

 妾は一人高笑いをしていた。



■■■■■



「ふう。」

 私は今日の祈りを終わらせて神殿の外に出ます。


 神殿の外は今日も強い日差しが射していて、このような体でもなければものの数分で日に焼け、場合によっては火傷が出来てしまうでしょう。

 ただ、私の体は普通ではありません。なので普通の人間では辛い場所でも平然と活動できるこの体もこういう時だけはありがたいものです。


 私が魔王になった日。私は信じるべきものがすでにこの世界を去っていることを教えられました。

 勿論最初はそのような言葉は戯言として私は変わらず祈りを続けていましたが、あの魔神と直接出会った日に本当に私の信じるものは居なくなってしまったのだと気づきました。


 私は私のダンジョン内でもある街中を歩いてその様子を観察します。

 子供がはしゃぎまわり、その母親たちが子供たちを見つつ談笑し、男たちが自らの仕事をこなす。

 とても平和な空気です。


 私は考えます。

 彼らは神が去ってしまったことを知らない。けれでも彼らは神が居るものとしてその信仰を今も続けている。

 このような平和を続かせ、彼らが彼らの信仰を守るために私はどうするべきなのかを、


 そして出た結論は


「戦う。それしか道はないのですか神よ……」

 私は天を仰ぎます。


 彼らを守るために平和を尊ぶ身でありながら平和を乱す戦いに手を出すという矛盾。

 しかし私は既に魔神によって穢され本来ならば神に仕えることなど許されなぬ身。そのような身でも真の信仰を持った者たちの礎になれるのならばそれは喜ぶことでしょう。


 願わくば魔神亡き後に我らが神がこの世にお戻りになられることを、



■■■■■



「準備は出来たか?」

「委細滞りなく。準備が完了したものから出ていっています。」

 そこは青い照明で照らし出されている岩で出来た洞窟だった。

 そこには二つの影が蠢いている。


「具体的には?」

 影の片方。洞窟の奥に鎮座していた側である巨大で複数の手足を持った側の影がもう片方の人型に何か尖ったものを付けた男に話しかける。


「東へは南北の大陸両方に沿岸部の一部を人間共から奪って拠点にし、維持するだけの戦力として各1000程。南極には牽制目的として大ダコを中心に500程。東南アジアとオーストラリア大陸にもやはり牽制として各500程。そして此度の目標であるあの国には4人いる魔王それぞれに対して上陸出来る魔性を中心に各2500程送らさせていただきました。」

 男は片膝をついたまま淡々と語っていく。


「追加の魔性は必要か?」

「ご心配には及びませぬ。必ずやあの国を我ら王である貴方様に捧げましょう。」

 男は頭を深く下げる。


「ふふふふふ。そうか。では我はしばしの休息を取るとしよう。我が寝ている間の事。任せたぞ。」

「ハッ!」

 そして巨大な影は眠りにつき、男は洞窟の外に出ていった。

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06/23 誤字訂正

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