第103話
「さて、お互いにこの十年に何があったかを一つ一つ話していこうか。」
ホウキの葬儀が終わり、俺たちは第4階層の奥に作った一般人立ち入り禁止エリアに来ていた。
そしてそこで俺はイチコとリョウを慰めつつ、二人からこの十年の間に有った事を一つずつ聞いていった。
そして、俺も二人が居ない間に起きた事を一つずつ話していった。
で、懲罰房の事は可能な限りボカして話したはずなんだが……
「つまりはアレですか。私たちが命がけで頑張っている間クロキリはずっと乳繰り合っていたと。」
「ふふふふふ。この女の敵はどうやっても許せませんわね。どう始末しましょうか。」
思いっきりばれてイチコからはチョークスリーパー(左腕の籠手に≪霧魔法付与≫をして触れるようになっている。)を、リョウからはアイアンクロー(こっちは≪霧平手≫の応用らしい。)を現在進行形で受けている。
魔王のステータスの高さとリョウの攻撃は眷属だから完全無効化され、イチコの攻撃は半魔王のおかげで対して痛くはないが息苦しいことこの上ない。
ちなみに霧状態になってもスキルの効果でしっかりとホールドされたままである。
「えーと、二人ともそろそろ離してくれますか?ぐっ……」
「私たちの気が済みましたらね。」
「そうですわね。」
「はー、しょうがない。じゃあ魔王権限使用。」
「なっ!」「あっ!」
で、やむを得ず魔王権限を使用。リョウを強制的に離れさせ、イチコの拘束を緩めさせる。そのままちょいとばかしお仕置きをする。
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「うう。いつかの様な気分です……。」
「魔神も許せませんけど、クロキリもやっぱり許せませんわ……。」
さて互いに素っ裸だが、話を進めるとしよう。
「それにしても極妃の奴がそんな技術を持っていたとはな。どうやって南極からアフリカに渡ったのかが不思議だったんだがそう言う方法だったのか。」
「ええ、私も予想外の方法でした。尤もそこまで高い効果が得られるわけでもないようですが、」
「ガンジス河でも似たような技術がありましたわね。もしかしなくても有用な技術になりそうですわ。」
まずイチコが南極からアフリカ大陸に渡った方法だが、これはリョウたちがガンジス河で見た技術とほぼ同じもの。
つまりは船底にそこに生息するモンスターたちの素材を張り付けることによって海中のモンスターたちからの認識を阻害した船を使うという方法だ。この方法の利点には襲われにくくなるだけでなく、船自体の強度が大きく上がるというものもある。
ただ、この方法で誤魔化せるのはモンスターたちの索敵系スキルによる認識だけで、直接視認されたり、大きな音を立てたりするとバレてしまうらしい。
そのためイチコが実際にアフリカ大陸に渡った際には時には所属ダンジョンの異なるモンスター同士を遭遇させ、互いに争っている間に逃げるという手段も必要になったらしい。
「この方法をうまく使えば『這い寄る混沌の蛸王』の討伐も出来るかもな。」
「そうですね。」
「ですわね。」
この技術の有用性は高いと俺は思う。上手くいけば海路、空路の利用が再開できるかもしれない。
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「リョウお嬢様がホウキさんの砲撃から私を逃がすのに使ったあの剣。あれは一体なんだったのですか?」
「あれですか。あれは『魄剣』という『魄込める呪の道士』の素材から作った武器の一部ですわ。」
「そう言えばお前そんなの回収してたな。」
さて、正確に言うとイチコを助ける時にリョウが使ったのは『魄剣』というよりは『魄剣』の力の残滓らしい。
そのために一度効果を発揮したところで砕け散ってしまったそうだ。
ただ、この辺りの話って俺は直接見てなくて後から報告を受けただけだからよく分からないんだよな。
「それにしても魔王素材ってのはすごいな。俺の骨も一本ぐらい生成系のスキルを持っている奴に融通してみるのもアリか?それぐらいなら簡単に再生できるし。」
「どうせなら股間のそれをもぎ取って精力増強装備にすればいいですわ。」
「おい。」
リョウの暴言に思わずツッコミを入れる。
「駄目ですよリョウお嬢様。素材にするなら下半身全てです。」
「おいいいぃぃぃ!?」
そしてイチコの更なる暴言に思わず叫ぶ。
二人の暴言に再びのお仕置きを敢行しようかと思って身構えた瞬間。
「まあ、実際の所生きた魔王から剥ぎ取った素材では大した物は出来ませんけどね。」
「あらそうですの。」
「極妃が少し検証に手伝ってくれましたから。」
「いつかイチコさんのためにそこまでしてくれた極妃に恩返しをしてあげたいですわね。」
「ですねー」
話をすり替えられてお仕置きするタイミングを逃すことになった。
ちっ、覚えてろ。話が終わったらたっぷりヤッてやる。
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「で、私的には左腕がやけに細いのもそうですがそれ以上に気になるのは……」
そう言ってイチコが俺の眼帯を指差す。
「どうしてクロキリが眼帯なんて着けているんですか?」
「ああそれは私も気になっていましたわ。どうしてですの?」
二人揃って俺の眼帯を見つめてくる。
ふふふ。そんなに見つめるなよ、照れ……
ドゴオッ!
「うぷっ……」
「とっとと話を進めてもらえますか。」
「はい……。」
キザったらしくしてたらイチコから≪霧魔法付与≫付きの腹パンを喰らった。おのれ……。
まあいい。話を進めるか。
「これはスキルの代償だよ。左腕もな。」
「スキルの代償……ですか。」
リョウが深刻そうな顔をする。んな心配しなくても大丈夫だっての。
「と言っても普通のスキルじゃなくてアウタースキルの代償だ。だから普通にスキルを使ってるうちは問題ねえよ。」
「治る見込みは?」
イチコが自分もアウタースキルを使うからなのか心配そうな目で見つめてくる。
「左腕は目下再生中。左目は治る見込み無しだな。完全に失った。」
「「!?」」
俺の言葉に二人とも驚きの顔を隠せないようである。とりあえず励まさないとな。
「んな顔すんなって、俺は元々前線に立つ立場じゃねえし、このスキルのおかげで便利なものも手に入ったから何も問題ねえよ。」
「そ、そういう問題ではないでしょうが!」
リョウが俺の左目に手を当てて≪治癒≫を使いながらそんな事を言う。
だから効果ないっての。
「そうですよ!バカなんですか!バカなんですね!」
イチコが俺に抱き着きながら罵倒してくる。うーむ。愛い奴め。
「まっ、何にしてもだ。俺はこの先も魔神を打倒するために無茶をする。お前らはどうするんだ?」
俺は今までと打って変わって真剣な顔をして二人に問いかける。
その問いに二人は、
「私も魔神を放置する気はありません。手伝います。」
「ホウキの仇ですもの。私も手伝いますわ。」
そう笑顔で言った。
で、
「じゃ、とりあえず今後の英気を養うためにも今夜はたっぷり楽しもうか。」
「なっ!結局そう言うオチですか!」
「この卑怯者ーーー!!」
たっぷり今夜は楽しむことにした。
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うーん。久しぶりに見たけどリョウ姉ちゃん強くなってたな。それにイチコさんも。あ、これがクロキリさんを含んだ三人のステータスね。
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Name:クロキリ(蝕む黒霧の王)
Class:魔王 Race:蝕む黒霧の王
Level:5
HP:2020/2020
MP:2330/2330
SP:2260/2260
Status
筋力 40
器用 55
敏捷 57
感知 45
知力 64
精神 74
幸運 10
Skill
≪迷宮創生≫≪魔性創生≫≪蝕む黒の霧≫≪循環≫≪霧爆≫≪幻惑の霧≫≪
Title
≪蝕む黒霧の王≫≪白霧の奇襲者≫≪霧人達の主≫≪外を見た魔王≫≪鬼殺し≫≪魔王を討ちし者≫≪奇跡を騙るもの≫≪霧人達の王≫≪扇動者≫≪甘い毒の言葉使い≫≪霧の粛清者≫≪魔神と遭遇せし者≫≪日ノ本の統治者≫ etc.
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Name:那須 リョウ
Class:癒し手 Race:霧人
Level:9
HP:462/462
MP:519/519
SP:486/486
Status
筋力 16
器用 24
敏捷 24
感知 16
知力 35
精神 32
幸運 10
Skill
≪治癒≫≪霧の衣≫≪治療習熟Ⅰ≫≪解毒≫≪解痺≫≪解幻≫≪
Title
≪黒霧の王の眷族≫≪白霧の癒し手≫≪眷属を率いる者≫≪霧の傭兵団≫≪霧の傭兵団・団長≫≪霧の招き手≫≪食の探究者≫≪無償の慈悲≫≪勇者殺し≫≪魔神と遭遇せし者≫ etc.
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Name:イチコ(定まらぬ剣の刃姫)
Class:半魔王 Race:定まらぬ剣の刃姫・半霧人
Level:10
HP:1160/1160
MP:1015/1015
SP:1065/1065
Status
筋力 30
器用 45
敏捷 57
感知 56
知力 21
精神 26
幸運 10
Skill
≪形無き王の剣・弱≫≪霧の衣・薄≫≪魔性創生・下位≫≪短剣習熟Ⅰ≫≪首切り≫≪キーンエッジ≫≪ロングエッジ≫≪主は我を道に力を行使す≫≪
Title
≪黒霧の王の眷族≫≪白霧の暗殺者≫≪鬼殺し≫≪霧王の依り代≫≪霧王の寵姫≫≪定まらぬ剣の刃姫≫≪魔神と遭遇せし者≫≪首切り姫≫≪極圏到達者≫≪魔王と親交を結びし者≫≪魔王を討ちし者≫ etc.
第2章完です。
でもまだ続きます。