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第100話

「十分……」

「くっ、降ろしなさいイズミ!」

 イズミはイチコ姉ちゃんに言われたとおりにリョウお姉ちゃんを連れて戦いの場から離れ、十分距離が取れた所でリョウお姉ちゃんを地面に降ろします。


「いったいシガンの奴は何をやったんだい……」

「分からないネ。でもアレはヤバいヨ。」

 傭兵団の皆もイズミたちの周りに集まってきます。

 と、ホウキお姉ちゃんの武器に力が集まっていくのが見え、イチコ姉ちゃんが武器を跳ね上げた瞬間。


ドオオオオン!!


 という轟音と共にホウキお姉ちゃんの武器から信じられないような強さの力の波動が放たれました。

 その一撃にイズミも含めて傭兵団の皆が一斉に地面に伏せて耐えます。


「っつ……はっ、何て一撃ですの……。」

「どう見てもホウキ自身の力じゃないね。これは。」

 皆、今の一撃に驚いています。人によっては腰が抜けて立てないようです。


「……。全員聞きなさい。」

 リョウお姉ちゃんが何かを覚悟したような目をして武器を構えます。


「シガンがどうしてどうやってホウキをあのような姿にしたのかは分かりません。ですが今私たちがやるべきことはイチコさんを助ける事です。全員行き……」

「悪いですが全員は行かせられません。」

 リョウお姉ちゃんが号令をかけようとした瞬間、聞き覚えのない男性の声が聞こえました。

 イズミは声がした方を慌てて向きます。


「あの戦いに関わっていいと言われているのは貴女と彼女だけです。那須リョウさん。」

 声がした方に居たのは高位の司祭様が身に着けるようなローブを身に着け、鉄仮面と両手両足に鉄製の防具をつけて右手に長大な錫杖を持つ人の姿をした何か。


「何者ですの……」

 突然現れた男に対して皆の警戒度が一気に増します。


「私の名前は魔王『絶対平和を尊ぶ神官』。とある方の命令により那須リョウさん以外の方があの戦いに参戦するのを阻止させていただきます。」

 そう言って神官さんは右手の錫杖を軽く振り、それと同時にリョウお姉ちゃん以外の皆を囲うように光の檻が張られていきます。


「これは……!?」

「ご安心を、ただの結界系スキルです。内からも外からもまず破れませんけどね。さて、これで貴方方が何もしなければ私の仕事はもう終わりですね。私には貴方方を攻撃する理由はありませんし。」

 神官さんは腕を組んでそう言います。


「くっ……ムギ。皆をお願いしますわ。」

「分かったよ。」

 リョウお姉ちゃんはムギお姉ちゃんにイズミたちの事を任せると、イチコ姉ちゃんとホウキお姉ちゃんが戦っている場に向かって駆け出していきます。

 神官さんの言葉通りならイズミたちがこのまま何もしなければ神官さんも何もしないのだと思います。でも、イズミは……


「≪生体武器生成・斧≫」

「イズミ!?」

「ほう。やる気ですか。」

 イチコ姉ちゃんが戦っているのを黙って見てるなんてできない。


「まあ、やれるだけやって見なさい。その中に居る限り私は何もしませんし、外に出ても戦いに参戦しようとする人にしか実力行使はしませんから。それに私の≪光子格子(フォトンケージ)≫はただの眷属が破れる様なものでもありませんしね。」

 神官さんはそう言ってイズミの方を見ています。


「……。」

 イズミは≪腕力強化≫をかけた上で斧を全力で≪光子格子≫に叩きつけます。でも、バチバチと言うだけでヒビ一つ入りません。

 それなら……、


「おや?何を……」

「≪生体武器作成・斧≫カスタム-『千節連斧刃』」

 イズミは一本の斧を作ります。その斧の柄には次の斧が関節のように繋げてあって、その斧の柄もまた次の斧に繋がっています。そしてイズミはそれを出せるだけ出します。

 イズミの周囲には大量の骨で出来た斧が次の斧に繋がった状態で転がっていて、一番根元にある斧はイズミの腕から直接生えた状態で止めてあります。


「≪腕力強化≫」

 ≪腕力強化≫を自分にかけてからイズミは全力でその場で回転しながら腕を振り上げます。それによってイズミの腕と繋がった斧は回転のスピードが上がっていくのにつれて増す遠心力によって徐々に浮き上がり、そして限界までスピードが増したところで……


「インパクト!!」

「なっ!?」

 生成を途中で止めていた根元の斧を完全に生成。生成された斧はその身にかかっていた遠心力に従って風切り音と共に≪光子格子≫に猛スピードで衝突し、


ガシャアアアアアァァァァァァン!!


 刃の自壊と引き換えに≪光子格子≫を破壊します。


「馬鹿な……はっ!?」

 神官さんはこの光景が信じられないのか唖然としています。もちろんイズミはそんな隙を逃さずに接近。全力で新たに作り出した斧を叩きつけようとしますが錫杖によってガードされます。


「まさか≪光子格子≫を破るとは……私もまだまだ精進が足りませんね。」

「通して……」

「通せませんよ。そう言う命令ですから。」

 イズミは神官さんに斧を向けつつそう言いますが、神官さんには道を譲る気はないようです。


「なら……押し通る!」

「だからさせませんて。≪光子拘束(フォトンバインド)≫」

「!?」

 神官さんに2撃目を加えようとするイズミに光で出来た鎖が絡み付いてきて動きが封じられます。


「すみませんが貴方を自由にさせておくのは危険なようです。なので、こうして拘束させていただきますよ。」

 イズミは全力で鎖を引きちぎろうとしますがまるで動けず、やがてミノムシのようにされて地面に転がされてしまいます。


「どうして……こんなことを……」

 イズミは≪生体武器生成・斧≫を使い、斧が出る勢いで鎖を押し広げようとしますが徐々に押し負け、やがて体に力を込めることも出来ない体勢になってしまいました。こうなればせめて情報だけでも探らないといけません。


「どうしてと言われても私も命令されただけですから。そこに私の意思はありませんよ。」

「命令……?」

 イズミには不思議でしょうがありませんでした。一体誰が魔王である神官さんに命令できるのでしょうか?


「そう命令です。命令主は貴方方が真能守シガンと呼ぶ少女。彼女……いえ、アレの命令に今の私は縛られています。」

「!?」

 シガンが魔王に命令!?でもそんなどうやって……


「恐らく魔王とはアレにとっての眷属の様なものなのでしょうね。私のスキルの効果範囲を誤認させるような結界も張れるようですし、その力は絶大と評すしかないでしょう。まあ、この世界を今の世界へと変えた張本人ですから当然と言えば当然ですが。何にしてもあの力はまるでそう……」

 何なのそれ……それじゃあまるで……


「神の力ですよ。」

 イズミは神官さんの言葉に体を震わせることしかできませんでした。

 何でイズミがシガンから嫌な気配を今まで感じ続けていたのかその理由と、十年前のあの日に誰がイチコ姉ちゃんを飛ばして、クロキリ兄ちゃんを下したかが分かったからです。


「さて、世界はこれからどうなっていくのでしょうね。」

 そう言う神官さんの目はとても悲しそうで、イズミには何も出来る事はありませんでした。

祝第100話でございます。

皆様いつも応援ありがとうございます。


記念すべき回なのに主人公のクロキリは影も形もなかったり、絶賛戦闘中だったりしますがこれからもよろしくお願いします。


ボソッ(実際にはプロローグがあるので101話目だったり)

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