9:三回戦目 VS篠藤
「圭太。僕がどうしてここに来たのか、分かるか?」
「知るか。帰れ、篠藤」
急に何を言い出すかと思えば、篠藤が口にしたのはそんな言葉だった。
俺を睨みつけている。額には青筋が走っていた。
「試合前に対戦相手を呼び出すとか何考えてんだ?職員の人たちも困ってたぞ。とっとと用を済ませて帰れ」
後ろには職員が、無表情ながらもじっと警戒しながらこちらを監視していた。当然だ。ここまで盛り上がった大会で、些細な個人的理由でケチを付けられたくないのだろう。
「言うじゃないか、圭太。流石、実力を隠して僕らを嘲笑っていた男にとっては、僕も既に過去の人間という訳かい?」
「縁を切ると言い出したのはそっちだったと思うけど」
「そうだったな。なら撤回するよ。でももちろん友達には戻らない。僕は、君を敵としてみなした。必ず潰す」
…そうなるのかぁ。俺は空を仰ぎたい気分になった。
過去の事だが、自分でも意外な事に、俺と篠藤、そして俺と愛原は中学生の頃は普通に仲が良かった。
休日はよく無意味に集まったし、篠藤の金でキャンプに連れて行かれたこともある。愛原が我儘を言って俺と篠藤が仕方なく付き合い、海や山に行くこともあった。逆に、俺が困ったら二人がそれとなく、文句を言いつつも手助けをしてくれたこともある。
愛原に至っては小さい頃から面倒を見てたから、互いの家に遊びに行くことも少なくなかった。
だけど、細かい所では俺達は全く理解し合えなかった。俺がいない場所では愛原と篠藤はあまり会話をしなかったし、むしろ俺がいなければ二人の相性は最悪だった。自分絶対主義の愛原と、完璧主義の篠藤では分かり合える点はほぼ無いに等しい。
逆に俺の場合は、二人とはそこそこ付き合えたが、愛原と二人きりのままだったら多分どこかで疎遠になっていただろうし(愛原は何故か俺に対して劣等感を持っているようだった。俺も注意していたが、いずれ我慢の限界が来ていたことだろう)、愛原がいなければ俺は篠藤とそもそも会話することすらなかった。
そしてこれははっきり言える事だが、俺達は俺達の関係に対して、三人とも執着していなかった。別になくなってもいいや。そんな気安さが、逆に俺達をなんとなく集めていた理由の一つなのだろう。
俺は多少友人として思っていたが、だからと言っていつまでもズルズルと一緒にいたいわけではなかった。例えば徐々に疎遠になっていったとしても、あの二人ならしょうがないかで片付ける事が出来た。
実際、縁切り宣言を受けた時も、縁を切られたこと自体に関しては俺はダメージはあまり受けなかった。
俺がショックを受けたのは、あの二人の口から汚い罵倒が出てきた事に対する失望からだ。根は良い奴だと思っていたから、勝手に裏切られた気分になっていた。まあ、それも数日経てば、勝手に期待して勝手に失望するとか、何やってんだ俺、と思い至って気にならなくなったが。
気にならなくなった時点で、俺の中ではそれが二人との関係の終わりだと思っていた。
俺と、篠藤や愛原は、なんというかカテゴリーが違う。生活圏が違う。むしろ今までどうしてつるんできたんだというくらい接点が無い間柄だったのだ。もう今後二度と話すことはないだろう、と。
だが縁とは口先一つの言葉で切れる程簡単なものではないらしい。少なくとも篠藤は俺に対してご執心のようだ。
どうでもいい相手なら、他人の振りをすればよかったのに。俺だってそうする予定だった。
「はあ…潰すとか言うなよ。俺達は次の試合の対戦相手同士なんだ。あまり強い言葉を言ったら、主催者側に目を付けられるぞ。ただでさえ今も監視されてるのに」
俺の言葉に、篠藤は若干苛立ちを深くした。
「余裕だね。僕なんか既に視界に入ってないって言いたいのかい?」
「一言もそんな事言ってないが。話にならないな、とにかくそれだけなら、とっとと帰れ」
「っ…待て、圭太!」
踵を返したら、篠藤が俺を呼び止めた。
「そうだ、賭け事でもしてみないか?僕と君、どっちが勝つか。賭けるのは、お互いの仲間だ」
「は?」
「勝ったら1人、仲間を奪えるとしよう。ここまで強くなったんだ、仲間の一人や二人いるんだろう?だったら、その仲間を賭けよう。それくらいの代償が無いと、僕らの決闘には見合わないだろう」
「何言ってんの。ぶっ飛ばすぞお前」
思わず俺は篠藤を睨みつけていた。そもそも決闘ってなんだ。いつの間にそんな話になった。
篠藤はそれを受けて、嬉しそうに笑った。
「はは、それだよ、僕が欲しかったのは!怒れ怒れ!そして、全力で掛かってこい…君の全力を、僕がさらに上から叩き潰す!これくらいはっきりさせなくちゃ、お互い満足できないだろ?」
「…下らない。勝手にやってろ」
それ以上篠藤と冷静に話していられる自信が一切なくなってしまった。俺はそう吐き捨てて会話を終わらせる。篠藤は「忘れるな!仲間を失いたくなかったら、全力で掛かってくるんだな!」と言い捨てて消えていった。
そもそも、仲間を賭けるってなんだ。そんな事出来る訳ないだろ、アホか。
他人様の事を景品扱いできる神経が俺には全く理解できなかった。
部屋まで戻ってきて、ため息を吐く。そしてテーブルに目をやると、そこには画面が光ったままの俺のスマフォがあった。
あー、忘れてた。俺は一声かけてスマフォに自分の顔を映す。
『あ、おかえりなさい、圭太君!見てください、タコ焼きがこんなに…あれ?…何かありましたか?』
「ああ、まあ、ちょっとな。…他の皆は?」
『丁度お昼になりましたので、お昼ご飯を買いに行きました。私は事前に買いすぎちゃったのでお留守番です。それで、圭太君?あの…話してくれます、よね…?』
「…実はな」
という訳で、俺はさっき起こった出来事を話した。
「ごめんな、気分悪くしただろ」
『いえ、私は大丈夫です。ただ、圭太君が…その、見たことない顔してるので…心配です』
「見たことない顔?」
俺は自分の顔を触った。よく分からない。
『…圭太君』
陽菜が俺に何か言いたそうに目を向けてきた。そして、意を決して口を開いた。
『私、その篠藤って人嫌いです。いつかぶっころします』
「…いや、今日俺がボコボコにするから、陽菜の分は残してやれないな」
『…ふふっ、そうですね。なら、楽しみにしてますね』
二ッと笑ってそう返した俺に、纏っていた黒いオーラを霧散させて、おかしそうに笑う陽菜。
『…もし圭太君が負けたら私どうなっちゃうんでしょうね?』
「あのなぁ、人を賭け事の商品に使うなんて、本気にするわけないだろ。アイツが勝手に言ってるだけだよ」
『否定しなかったんですよね?なら、向こうはそのつもりで動くかもしれませんよ?もしそうだったら、私達、大変な目にあうかも!』
そう言われて、正直ちょっとむっとしてしまった。
俺は気が付いたら口走っていた。
「誰にもやるわけないだろ、バカ」
…あれ?なんか陽菜が喋らなくなった。顔が真っ赤だ。
『ふぇっ…』
「…」
…ッスー…あれ、これ俺、死ぬほど恥ずかしい事をしてしまったのでは?
俺はカメラを手で押さえて慌てて弁明した。
「…い、今のはアレだ。仲間をよそにやる訳がないって意味な!それに、酔いの席で決まった事とは言え婚約者同士なんだし、その辺のことも考えると、お互い答えが出るまでは離れるつもりは少なくとも俺にはないってだけで、ほらリリアの事もあるしさ、とりあえず忘れてくれると嬉しいかな!」
『は、はい!わ、わ、分かりました…』
『ただいまー!あれ~、ヒナ何してるの?顔真っ赤っか~!』
『リリアちゃん、その、なんでもないから…』
俺はスマフォを置いて、音量をゼロにする。そして天井を仰ぎ見た。
逃避行動である。むしろ逃げざるを得なかったとも言う。
なんかもう死にたい。
その後、鬼月の第二試合があったのでまたもや通話越しに陽菜たちと一緒に観戦する。
次の相手はフォクシー・コボルトの『フォスカル』だった。レイピアを装備した二足歩行した狐だ。
彼は幻惑魔法と剣戟を織り交ぜた変則攻撃が得意だった。何体もの分身を生み出して一斉に攻撃を仕掛けるのだ。
しかし鬼月はこれを力業で対処して見せた。というのも、凄まじく速い連続刺突で、分身全員を即座に貫いたのだ。
フォスカルもこれにはたまらず身を捻って避けたが、出来た隙は大きく。槍によるリーチの有利もあり、後退したはずのフォスカルは鬼月の素早く伸びる一撃によって貫かれたのだった。
またもや鬼月の勝利に、俺達のテンションは有頂天になった。今度超高級焼き肉店に行くことが決定した瞬間でもあった。
そして、忘れてはいけないのが鬼月の決勝戦も明日だが、陽菜の魔力操作大会も最終日である明日にある。
絶対見逃さないようにしないと。俺はどうやら人生の推しに出会ってしまったらしい。陽菜も鬼月も、いい結果が出ると良いんだが。
とにもかくにも、明日が楽しみである。
尚、午後の試合についてはその時が来るまで考えないものとする。
9:三回戦目 VS篠藤
「顔が怖いよ、圭太。配信もされてるんだから、ちゃんと愛想を良くしないと駄目じゃないか」
「悪いが興味が無いな」
会場に上がって、俺は篠藤と対面していた。
「必死だね。もしかして、仲間を取られるかもと今更心配になったのかな?確かに可愛い子がいるみたいだ…君の恋人かい?」
篠藤が関係者席を見る。そこには当然陽菜達がいる。俺は思わず眉を顰める。
「だとしたら安心していいよ。恋愛的な意味で奪うつもりは一切無いからね。ほら、見てみなよ」
篠藤は自分の仲間たちがいる席を指さした。
「美女美少女がそろった良いパーティーメンバーだろ。でもだからって僕に複数の女性を愛する趣味は無いよ。ただ、僕のスキルにとってはああいうのがとても大切な要素なんだ」
「…」
「既に察しているかもしれないけど、僕は注目される事で自分を強化できる。だけど、このスキルは実は僕の意識次第でね。注目のされ方が、僕にとって『満足できるものかそうじゃないか』で効果が大きく変わってくる。例えば、男に応援されてもやる気は出ないけど、美女に応援されるとやる気が出る。それと同じ感じなんだ」
なんだこいつ。もしかして今、スキルの説明をしてるのか?これから戦うことになる相手に?
訳が分からないな。
「あくまで僕の解釈次第なんだ。僕に注目する対象が、僕にとって比率の高い人間であればあるほどバフの効果量はアップする。そうだな、例えば…君から奪い取った人間を仲間に加えたとあれば、僕は無類のパワーを発揮できるだろうね」
「…」
「まあつまり、僕にとってパーティーメンバーとは僕を上に押し上げてくれる道具でしかない訳だ。そして僕はそんな彼女たちに恋愛感情を向けることはない。だから、もし君が負けてあの子を僕に取られたとしても、恋愛は続ければいい。ただ、職場が彼女にふさわしい場所に変わるだけなんだ。」
「…長々と話してくれてどうもありがとう。で、なんでお前自分のスキルについて俺に教えてきたの?」
俺は刀を抜いて、体の具合を確かめた。
魔力はしっかり回復している。体力もみなぎっているし、準備は万全だ。
「教えても問題ないしね。それに、教えたうえで君を負かせば、僕はその分自分に自信が付く。強くなれる。メリットがあるから明かしただけだよ」
「ああ、そうかよ」
『全試合で観客の度肝を抜いてきた最強のダークホース!首狩りのカミノ選手!』
『対するは、輝く剣で敵を一刀両断してきた、今を時めく新星の一つ!最優の騎士、篠藤裕二選手!』
『またもや真宵手高校の生徒同士の試合となります!普段学業でしのぎを削る二人が、今日だけは剣で持って優劣を競い合う!勝利の女神は、果たしてどちらに微笑むのか!』
『―――では、試合開始!』
合図が鳴った途端、俺は刀を構えて風刃を纏わせ、更にそれを強化した。
「うおおおおおお!」
そして、篠藤もまた剣に光のオーラを纏わせて、強大なエネルギーの束を作り出す。
「―――風刃」
「【極光の剣よ、我が敵を打ち滅ぼせ フォースドライブ】!」
次の瞬間、風の魔力と光の魔力の高密度な奔流同士がぶつかり合い、爆発を引き起こした。
「はあああああ!」
俺は篠藤に押し負けて後ろに吹き飛ばされた。篠藤はそれを好機ととらえたのか跳び上がり、そして俺の真上から光の刃の斬撃を放ってきた。
「ははははは!僕は最強なんだ!勇者なんだあああ!」
俺に押し勝ったのが嬉しいのか、狂喜の声を上げながら弧状の斬撃を放ち続ける。俺はソレをスルスルと避けて、爆心地から離れた。
「さあ、会場の皆、僕に力を!」
剣を振りかざし、篠藤は光を集めてそのまま俺に特攻してきた。篠藤の凄まじい威力の斬撃を刀を沿わせて後ろへと流す。
「小癪な!【オーバードライブ】!」
魔力が収束し、光が膨らむ。俺は足を強化してその場から一瞬でいなくなった。次の瞬間、俺がさっきまでいた場所もろとも、舞台の足場のほぼ半分という広範囲を光の爆撃が舐った。
(すげー威力)
「逃げてばかりか!?圭太ァ!」
光の飛ぶ斬撃を上半身を反らして一回転して避ける。更に篠藤本体が切迫してきて、連撃を繰り出すので、俺はその全てに刀を沿わせてあらぬ方向へと流し続けた。
「っ、うおおおおおおおお!」
一気呵成に腕の筋肉を膨らませ、連撃の威力と速度を上げてくる篠藤。その速度と威力は目を見張るものがあった。
最後に渾身の力を込めた斬撃が放たれて、俺はソレを風刃を一瞬纏った刀で防いで後ろに吹っ飛んだ。空中で体勢を立て直して、音もなく地面に着地する。
「はあ…はあ…ははは、手も足も出ないか?避けてばかりいても、じり貧になるだけだぞ」
「…そうかもな」
「…っ、なんだ、その態度は!圭太、君やる気あるのか!?」
「やる気はあるぞ」
俺は息を深く吐き出して、刀を肩に担いだ。
「悪いな、どうしたもんかと悩んでたんだ。でももう大丈夫だ。こっからは俺も本気でいくよ」
「今まで本気じゃなかったって?強がりが、見苦しいんだよ!」
篠藤は額に青筋を立てて剣を振るった。俺はそれに対して、強化した刀を打ちあわせる。凄まじい衝撃が会場を揺らした。
篠藤の表情は驚愕に染まっていた。それはそうだ。今までつばぜり合いすらできない程、俺と篠藤の筋力には差があったのだから。だが、今はその差が縮んでいる。
つまり、篠藤はこの瞬間、弱体化したのだ。
「…どういう事だ、圭太…!」
「何がだ?」
「何故、僕を見ない!何故この土壇場で僕を無視できる!?」
剣を振るって俺を弾き飛ばす篠藤は、血走った眼で俺に叫んだ。
「だってお前、俺に意識されればされる程強くなるだろ?」
「君は僕を意識せざるを得ないはずだ…!何故必死にならない!?何故失うことに無頓着でいられるんだ!?」
「いや、そもそもあんな提案、飲むわけないだろ。…それに、思い出したんだ。俺の本来の目的を」
「目的、だと…?」
「俺の目的は、お前と喧嘩することじゃない。この大会で優勝までいくことだ」
俺は刀を構える。
篠藤のスキルは、篠藤の言葉を信じるならば『注目される事』がトリガーで、その効果量は『篠藤自身が満足できるかどうか』で増減する。
そして今の会場全体では、篠藤と俺を応援する声は大体5:5っぽい。どちらも話題性があるし、同い年だし、篠藤はイケメンで俺は意図したものではないが狐面というブランドがある。つまり、観客は現在、多くの人が俺と篠藤両方に注目しているはずだ。
むしろ、耳をすませば男連中からの『そのイケメンを打っ倒せ、狐面!』という悲痛に満ちた叫びが聞こえてくる分、軍配は俺に上がっている。
この状況で、篠藤が満足するとは思えない。恐らく篠藤の自己強化はこれまでの試合に比べて格段に堕ちる事だろう。
では、篠藤はどうしたか。篠藤は、俺が篠藤を注目するよう仕向けたのだ。
訳の分からない御託を並べて、あからさまな挑発で俺を乗せようとした。
俺がやったことは単純。そのテーブルから降りただけである。俺の目的はもっと先。篠藤を倒すことではなく、優勝することなのだから。
悩んだというのは、もととは言え腐れ縁だった篠藤に全力でぶつかるかどうかだった。乗ったうえで切り伏せるか、乗らずに確実に切り伏せるかのどちらかという事。
だが、優勝を目指すのであればここで全力を出すのは愚策すぎる。ただでさえ大門寺さんとの闘いで手の内を晒してしまったのだ。これ以上手の内を晒すのは綱渡りすぎる。
「悩んだけど、俺はお前じゃなくて自分の目的を優先することにした」
「…っ!」
「という訳で、とっととお前を倒して先に進ませてもらう事にする。ほら、掛かって来いよ篠藤。もう終わらせよう」
「僕は眼中にないってか…!僕の事なんてどうでもいいってか!?」
「ああ。そう言ってるが」
剣を振るわれるので、俺はそれを弾いて流してカウンターを入れる。篠藤はそれに何とか反応し、斬撃を繰り出しながら声を荒げた。
「君は知らないだろうけどね、僕は君に憧れてたんだ!」
「はあ?」
「君は中学生の時に僕に出会ったと勘違いしてるが、本当は小学生の時には既に僕は君を知っていた!」
斬撃同士がぶつかり合い、俺と篠藤は距離を取る。
「当時いじめられっ子だった僕は、君に助けられたんだ。覚えてないかい?君は僕を虐めていた中学生たちに水を浴びせ、その上から石灰を浴びせて僕を救い出してくれた」
「…」
そんなことあったか?あー…言われてみれば、そんな事もした気がする。
「小学生なのにそんな判断が出来る君に、僕は心底しびれたよ。その時は僕も逃げ出したから、君の顔位しか見れなかったけど…中学で君を見て、あああの時の少年だってすぐに分かった」
「…それがどうした?」
「僕にとって君はヒーローだったんだ!」
足を止めて、篠崎はそう叫んだ。
「…で?」
「そんな過去のヒーローを追い越して、僕はプロの冒険者になった!僕は君に直接縁を切ると宣言して、君に僕という存在を劣等感と共に刻みつけようとした!僕のヒーローである君が僕を一生注目し続けるように!」
「うえぇ…なんだそれ、気持ち悪い」
「ついでに愛原とか言う、君にとって害悪でしかない女を引き離してやることにした。愛原は君に劣等感を抱いていたからね!そそのかすのは簡単だったさ!」
俺は顔をしかめた。
「なんなの、お前…」
「なのに、そこまでしても君は僕に注目してくれない!理由はさっき分かったよ!あの女だ…あの女がいるから、君は僕を直視してくれない…!」
ヤバい事を言い出した。俺は思わず後ずさる。
「やめろ、俺にそっちのけは無いぞ」
「勘違いするな、僕だってノーマルだ!でもね、これだけは譲れないんだ…!君を打ち負かす。今度は確実に、僕という存在を君に刻み付けてやる。そしてあの女を奪って、邪魔をしないようにする。さあ、どうだ?ここまで言われて、君は僕に何も思う所はないのか!?」
…そんな事言われてもなあ。
俺は少し悩んで言葉を選んだ。そして口を開く。
「どうでもいいからとっとと来いよ。時間の無駄だ」
「…」
「プロの冒険者だろお前。世間を知らないガキでもあるまいし、俺に甘えてくるのも大概にしろ。縁を切ってきた奴にいつまでも執着する程、俺は暇じゃない。お前だってそうだろ?」
「…はは、はははは…」
笑い出した篠藤に、俺は刀を鞘に納めて腰を落とした。
もう終わりにしよう。正真正銘愛想も尽きた。
「―――アアアアアアアア!【オーバードライブ】ウウウウウウ!」
光の刃を輝かせ、篠藤は魔法を発動させようとした。
俺は足を強化して地面を蹴った。そして、篠藤の背後に着地して、抜いた刀を鞘に納め直す。
「お互い、今度こそ縁が切れると良いな」
次の瞬間、篠藤の首から魔素が噴き出して、篠藤はその場から消え去ったのだった。