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6:日常と災害

 陽菜がレベル7になったから、俺達もすぐに足並みをそろえたいものだ。


 という訳で次の一週間はレベリングに時間を費やすことにした。鬼月とリリアはともかく流石に平日も陽菜に付き合ってもらうのは気が引けたのだが、陽菜は陽菜でそろそろ装備を買い替えたいと考えていたらしく、お金稼ぎのために付き合ってくれた。


 という訳で平日は畑ダンジョンで狩りをして、金曜日にダンジョンボスの『ゴブリンキング』を討伐。さらに、土曜日の朝に数回中層ダンジョンで戦闘をこなした時点で、俺と鬼月が同時にレベルアップした。




――――――――――――――――――

神野圭太

Lv.7

近接:47

遠距離:24

魔法:31

技巧:39+1

敏捷:35

《スキル》

【塞翁が馬】

【刀剣術Lv4】

【風刃】

【強化】

【予知】

【契約:鬼月Lv6】

【契約:リリアLv9】

――――――――――――――――――



――――――――――――――――――

鬼月 (ゴブリン)

Lv.6

近接:25

防衛:41

遠距離:12

魔法:13

技巧:37

敏捷:18

《スキル》

【防衛術Lv4】

【守護方陣】

【主従転移】

【槍術Lv1】

――――――――――――――――――



 まず俺だが、ステータスが大幅に上昇してくれた。近接の上がり幅が特に多い。魔法も大きく上がってくれたのが嬉しい。風刃の火力不足は少しでも無くしておきたい。


 また、刀剣術がレベル4に上がっている。



【刀剣術Lv4】

・刀による攻撃に対し若干の威力補正(Lv1)

・技巧に補正(Lv2)

・『第一剣技:一閃』(Lv3)

・刀を装備して戦闘している間、思考能力が向上する(Lv4)



 と、地味にありがたい効果が発動してくれるようになった。実際にどうなるかというと、戦闘中に広い視野を持てるようになった。更に、目で見た一瞬一瞬の光景を瞬時に読み取れるようになったというか…処理が早くなったと言った方がいいのか。


 ギフテットの子どもが、目に見えない速度で移り変わる数字を理解して瞬時に暗算する、みたいな動画をたまに見かけるが、それを少しだけ理解できた気がする。


 戦闘に大きく関わる効果なので、出来るだけ早く慣れて最大限活用できるようにしておきたいものだ。


 さて、鬼月に関しては、ステータスが大幅に上昇。さらに新しいスキルである【槍術Lv1】を取得していた。


 俺の【刀剣術】や要さんの【杖術】のように、使っている武器によって覚えるスキルもある。大体それほど派手な効果はしていないが、得意な武器をより得意に使うことができるようになるのは大きいだろう。



【槍術Lv1】

・槍による攻撃に対し若干の威力補正(Lv1)



 火力が乏しかった鬼月にとって、このスキルの獲得はかなり大きな意味を持つかもしれない。


 それから防衛術のレベルも一つ上がっていた



【防衛術Lv4】

・ステータスに防衛を追加する(Lv1)

・防衛行動を行った瞬間のみ、防衛に関する思考能力が少し上がる(Lv2)

・盾を用いた『防衛術』を設定可能(Lv3)

・防衛に補正(Lv4) 



 シンプルながらにありがたい効果だ。鬼月がまた一段と硬くなってくれた。ちなみにレベル3での技設定は、一応どういう風にするかは決めており、今は反復練習中らしい。俺みたいに土壇場で決めずにしっかり考えて決めているが、本来は鬼月のやり方が基本で俺の時は邪道みたいなものだ。


 実際、俺の『一閃』は威力はあるものの魔力消費とタメがデカすぎて割と使えない。ここぞという時でないと真価を発揮できない。どうにか使いこなせるようにならないとと思うのだが…。


 さて、レベルアップは達成したため、流石にその時点で探索を切り上げ、中層ダンジョンから脱出することにした。二週間連続で土日ダンジョンは体力的にも精神的にもしんどいし、よしんば大丈夫だとしても休みは入れるべきだ。


 ダンジョンを出ると丁度昼頃だった。昼飯をどうしようか悩んでいたら、丁度近くにファミレスがあったので4人で入ることにした。


 リリアがお子様ランチ、鬼月がうどん定食、陽菜はオムライスで俺はサイコロステーキ定食を注文。


 久しぶりにファミレスに来たけど、やっぱ食材アイテムには勝てないな。でもまあこれはこれでうまいんだけどさ。


「リリアちゃん、お口ついてますよ」

『ん~…』

「あはは、そうしてると親子みたいだなあ」

『だとするとケイタが父親になるのカ?確かに微笑ましい光景だナ』

『わーい、パパとママだ!』

「あ、あのなあ…」

「あはは…わ、私は平気ですよ?」


 という訳でしばらく陽菜と目が合わせられなくなったのだが、リリアが妙にこの設定を気に入ってしまったらしく、レストランを出た後ずっと俺と陽菜の間に挟まって手をつないできた。鬼月もついでに陽菜と手をつないでいた。


 正直恥ずかしくてどうにかなりそうだった。今後は安易な発言には気を付けよう。死にかねない。


 その後、聖架のショッピングモールの本屋で買い物をしていると、陽菜がリリアと鬼月に引っ張られてどこかへと行ってしまった。俺は俺でちょっと買いたいものがあったので別行動を取る。


 冒険者準二級に上がるには、申請を出して、指定のダンジョンを攻略する必要がある。だが、それとは他に筆記試験もあるのである。


 内容は冒険者の責任や、有事の際の動き方、規則など。とはいえそこまで硬いテストではなく、ダンジョン攻略を終えた日から一定期間、何度も受け直し可の緩い試験だ。その代わり90点以上出さないと駄目なのだが、暗記で行ける類の問題ばかりなのだという。


 とはいえ時間のロスになるので一度でクリアしておきたい。受けるためには協会までいかなきゃならないしな。


 という訳で今のうちに参考書を買おうと思ったのだ。大学受験の際の赤本みたいに、一角に冒険者用の参考書コーナーがあったのでそれを物色する。


「…あの、すみません。今いいですか?」


 と、その時だった。話しかけられてそちらに目を向けると、そこには長髪の少女が立っていた。


「俺ですか?えっと、何でしょうか…?」

「私は、橘陽菜の知り合いの、志津 美波という者なんですが…あの、今お時間よろしいでしょうか」

「…知り合い、って言うと、どういった関係で?」

「…橘さんが以前所属していたパーティーの、リーダーを務めている者です」

「…わかりました」


 俺は陽菜の携帯に少し外すという連絡を入れて、その人に付いて行った。本屋を出て、ベンチに座る。


「で、何の用ですか?あ、一応俺は同い年だと思うので、そこまで硬くならなくていいですよ」

「…分かった。じゃあ敬語は無しで行こう」

「了解」

「…用って言うのは、どうしても聞きたいことがあったんだ。今日は偶然見かけたんだが…君は陽菜の新しい仲間なのか?」


 どうやら一人になった所を見計らって話しかけてきたらしい。まあ、顔を合わせたくはないわな。


「どうしてそう思ったのか聞いても?」

「イレギュラーを連れていたから、そうなのではと思った。陽菜も学校で新しいパーティーに入ったと言っていたから、推測するに君がその仲間なのかなと」

「…まあ、そうだよ。俺は陽菜の仲間だ。で?陽菜を追放したパーティーのリーダーが、俺に何の用があって話しかけてきたんだ?」


 多少言葉に刺があるのは仕方のない話だ。志津さんは少し間を開けて話し出した。


「実は、学校で陽菜と話す機会があった。その時、陽菜はレベルアップしたと聞いた。…変な事を聞くようで悪いが、レベルアップした時の、陽菜の様子を教えてはくれないだろうか」

「様子?」


 なんだそれ。レベルアップ時の様子って、そんなもん気にしてどうするんだ?怪訝な目で志津さんを見てみるが、志津さんは真面目な顔をしていつつも、少しだけ不安な色が見て取れた。


 俺は少し考えて、口を開く。


「様子って言ってもね。普通だったと思うけど…」


 …鎌かけてみるか?


「でも、パーティーに入って冒険に出てすぐにレベルが上がったのには正直びっくりしたけどな。偶然にしてはタイミングよすぎると思った」

「…っ、そうか。ありがとう、聞きたいことは聞けたから、もう行くとする」


 志津さんは顔を思いっきりこわばらせて、逃げ出すように立ち上がって歩き出した。


「待って、志津さん!」

「…なんだ」

「…その、連絡先交換しない?」

「…」


 志津さんは無言で携帯を取り出した。支援デバイスではなく、普通のスマートフォンだ。俺は通話アプリのIDを交換する。志津さんは「…それじゃあ」と呟いて行ってしまった。


 何か知ってる様子だったな、あの人。出来ればもっと詳しく聞き出したかったが…仕方ない。また後日にしよう。


 それにしても陽菜、本当に学校では大丈夫なのだろうか。これ以上陽菜がトラブルに巻き込まれなければいいんだが。


 まあとにかく、突然の事で驚いたが、とりあえず情報源の確保は出来た。陽菜関連で何かあればこの人から聞いてみるとしよう。


 俺は遅れて立ち上がって、本屋へと戻っていったのだった。


 


6:日常と災害




 ゆったりと過ごした土日が終わり、平日がまた始まってしまった。放課後になって、俺は帰路についていたのだが、バス停のすぐ傍まで来てから見知った顔の奴と出くわした。


「…っ、テメエ、神野…!」

「…うわ」


 まさかの田淵とのエンカウントだった。周囲には仲間もそろっている。田淵含めて男が二人、ギャル風味の女が二人。


 だが、クラスメートではない。見たことない顔ぶれだ。


「田淵、誰この人ー?」

「ああ!?前話しただろうが!調子に乗ってるクソ陰キャ野郎だよ!」

「へえ~。確かになんか地味そう…なのかなぁ?」


 なんで疑問形なんだろう。


「ははは、ちょうどいい機会だ。学校じゃ随分と調子に乗ってくれたな、神野ぉ…!テメエ、覚悟はできてんだろうな…!?」

「は?ボコすの?それはヤバくねえ?俺ら冒険者だけど…」

「バレなきゃいいんだよ!路地裏でやりゃ問題ねえって…!おい、神野、こいつら俺のパーティーメンバーなんだぜ?ボッチのテメエじゃ一生できない仲間ってやつだ!今日は格の違いってやつを教えてやるからよぉ、面貸せや!」

「ええ~、怠ーい…」


 うわ、面倒臭い事になった。どうしたもんかな…。


 そう思っていた、次の瞬間だった。


 不意にすさまじい不穏な気配を感じて思わず戦闘態勢を取った。


「…なんだ…?」


 気づけば、空の色が変わっていた。そして空気中に満ちる何かによって、俺の身体能力が徐々に上がっていっている事に気が付いた。


 これは魔素だ。そして、ステータスが発動したのである。こんな街中でだ。


『グオオオオオオオ!』


 そして、遅れてすさまじい咆哮が街中に響き渡った。空を飛ぶのは…あれは、ワイバーンか!?


 さらに、破壊音が響き渡った。遠くの方で黒煙が立ち上る。


 人の悲鳴は、けたたましく鳴り響いた街中のサイレンが掻き消した。


『真宵手市にて、崩壊性ダンジョンが出現いたしました。住民の皆様は直ちにロードマップに従い、避難所へ避難するか、遠くへ逃げてください。繰り返します。真宵手市にて、崩壊性ダンジョンが出現いたしました―――』


 更に、支援デバイスでもアラームが鳴る。慌てて画面を開く。


『真宵手市にいる全冒険者に通達。崩壊性ダンジョンが出現しました。四級、もしくは三級冒険者は異常事態時のマニュアルに従って、一般住民の避難と護衛を行ってください。準二級以上の冒険者は、モンスターの討伐、ダンジョンの攻略を行ってください』


 おいおいおい、こんな事、今まで一度も無かったはずなのに…!


 俺は一瞬戸惑った。だけどすぐに自分の足をぶん殴って正気に戻す。固まっていた身体を無理やり動かして、今すべきことは何かを全力で探る。


 向こうの道路で、曲がり角から黒煙を放った自動車が宙を舞って躍り出てきた。そして、人の叫び声が聞こえてくる。


「え?えっ…な、なんだこれ…?」

「ちっ…!おい、お前らは避難してろ!」

「えっ!?」


 俺は悲鳴が聞こえる方向へと駆け出していた。車よりも速く、瞬く間に道路を駆けあがり、信号機の柱を思いっきり歪ませて方向転換、曲がり角を曲がる。そして、そこにいた、人を踏みつぶそうとしていたサイのモンスターの横っ面に、強化した足を思いっきりめり込ませていた。

評価、ご感想の程よろしくお願いいたします。

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