23:ダンジョン探索十三日目 リザルト
『グガアアアアア!』
現れたミノタウロス率いるモンスターの群れに、俺は風刃を飛ばして最前列のゴブリンを減らして、更に刀を振るってミノタウロスまでの道を開けた。
左右に散らばったゴブリン達が攻撃を仕掛けようとするが、俺はソレよりも早く強化した足で加速し、ミノタウロスの足を切り落とし、そのまま通り抜けた。
「『ファイアボール』!」
『ブモオオオオ!?』
陽菜が唱えた魔法が発動し、移動できなくなったミノタウロスと、残っていたゴブリンを爆炎が包み込んだ。
最後にまだ生き残っていたミノタウロスの首を斬って、戦闘を終了する。
俺は彼らの装備を思い返して呟いた。
「武装してたし、そもそも俺達を探してたよな」
『ダンジョンボスは、人語を話す程度の知恵を持っていル。明らかに僕ら対策だろウ』
「えっ…モンスターが人語を?」
『イレギュラーの僕らも喋ることができるだろウ?モンスターの一部も同じように人語を介すことがあル。ただ、言葉が出来るからと言って、話しが通じる訳ではないけどネ』
「高難易度ダンジョンだと、モンスターが意味の無い単語を喋る事はあると聞いたことはありますけど…ここは多分、素の難易度は初心者用ダンジョンとあまり変わりませんよね?」
「陽菜さんがそう感じるなら、多分そうだろうな。まあ、何事にも例外はあるってことじゃないか?」
「…圭太君?」
「え?…あ!陽菜、陽菜です」
「正解です」
とりあえず、陽菜にはもっと地図や道標の杖に注視してもらうことにした。また、魔素払いの結晶の子機もしっかり注意をして置いていく事にする。
第五の集落が見えてきた。どうやら岩山の上に陣取っているらしい。
生身の人間相手なら難攻不落な地形だが、冒険者は当たり前のように崖を登るし数mジャンプする。地形の踏破性能はレベルが上がれば上がるほどよくなっていく。
ただ、魔法使いはやはり身体能力が上がらない傾向にある為、陽菜さんはレベル6ではあるがプロの登山家レベルの速度だ。
ある程度近づいてから、陽菜さんの魔法で先制攻撃をしてもらいたいので登りたいのだが…ゆっくり登っていると気づかれて攻撃される可能性もある。
「という訳で、鬼月、陽菜を頼む」
『僕は身長的に厳しいし、登っている二人を僕が守った方が役割分担できるだろウ。ヒナもそれでいいよネ?』
「はい、もちろんです」
という訳で俺が陽菜さんを抱えて山を登ることになった。下から集落へ上る登山道は使わず、迂回して側面から山肌を登る。
「しっかり捕まってて」
「はい!」
背中にギュッと捕まってくる陽菜を全力で意識しないよう頑張って、鬼月と二人でスルスルと登っていく。
ある程度登って、敵よりも高地に陣取った俺達は早速動き出す。と言っても前の集落でやったのと同じことだ。
敵の数は武装したゴブリンが多数にとホブゴブリンが数匹、ミノタウロスが1体。更に、鍛冶を行っているミノタウロスが2体。その他作業中のゴブリンやホブゴブがいくらかいる。
さらに、ゴブリンシャーマンが広場の中央でむにゃむにゃと瞑想中だった。
陽菜の魔力に反応して、ゴブリンシャーマンはすぐに気が付くだろう。
だが、それはそれで好都合だ。俺は一人離れて集落のそばまで行って、陽菜に手で合図した。
杖を構えて詠唱を始める陽菜。ゴブリンシャーマンがすぐに目を開き、陽菜の方へ目を向けた。
その隙をついて、俺は集落に進入。後ろからゴブリンシャーマンの首を刈り取った。
『ブルァ!』
ミノタウロスがすぐに気が付き、斧を振り上げて攻撃してくる。避けて距離を取れば、広場の上空に新しく一体ゴブリンシャーマンが転移してきたではないか。
(マジか…)
足と刀を強化し、地面を蹴る。シャーマンに真っすぐ向かって攻撃をしようとするが、ミノタウロスが前に出てきて斧で攻撃を受け止められた。
『ブモオオオオ!』
俺を受け止めて後ろに追いやられるも、ミノタウロスは余裕で受けきった。そして攻撃を仕掛けてくる。
俺はそれを避けて、カウンターの一撃で片腕を取った。その後着地するとゴブリン達が襲い掛かってくるが、足止めにもならない。切り裂いて魔素に還す。
『;gぇ:l~~』
むにゃむにゃと呪文を終わらせたシャーマンが、手のひらから火の玉を生み出した。
そして、陽菜の放ったチャージブラストに向けて、火の玉を放った。火の玉は枝分かれした雷のいくらかを上空で爆発させて打ち消した。
俺はゴロゴロと転がって魔法の当たらない場所へと向かう。陽菜の魔法は集落のゴブリンを焼き尽くし、ホブゴブに戦闘不能レベルの火傷を負わせる。
だが、肝心のミノとシャーマンは無傷だ。
そして、魔法の手数はシャーマンの方が上だったらしい。火の玉をさらに生み出して、数発分使って陽菜へと打ち出した…のだが、当然鬼月の盾の効果で防がれた。
『;lgl~』
ゴブリンシャーマンが杖を動かして、陽菜と鬼月の足元に見た事のあるゲートを生み出した。
「うわ、危ないです!」
陽菜はそれを杖の先端で突き刺して、魔力を流して打ち消していた。
俺はソレを後目に見ながら、ミノタウロスへと走った。そして刀と風刃を同時に振るって、二発同時の斬撃。風刃で片目を潰し、怯んだところで首を落とした。
返す刀でシャーマンを狙うが、またゲートが生み出される。俺は慌てて風刃でそのゲートを切り裂いて、失速して崩れた歩調を回転して整えて、振り返り様に刀を振り下ろす。肩から腹まで袈裟切りにしてシャーマンを倒した。
「…さて、今回は何が出るかな?」
魔素が集中して現れたのは、またもやモーロックだった。
『ブモッ!?』
だが、その顔にファイアボールが即座に命中する。陽菜がどうやら詠唱を済ませていたらしい。
俺は跳びあがり、風刃を纏った刃で同じように首を刈った。
宝箱を回収して、陽菜と鬼月と合流する。
「モーロック、初動を潰したら割と何とかなるな」
『一度暴れ出したら手に負えなくなル。少なくとも足場が悪いここでは戦いたくない相手だったし、良い判断だったと思うゾ』
「魔素の塊が大きかったので、あてずっぽうでやっちゃいました…当たってよかったです…」
どうやら勇み足だったらしい。まあ結果良ければって言うし、と陽菜を慰めて、丁度高い所に来たので周囲を見渡してみた。
「…集落なくね?」
「ここで最後だったみたいですね」
こうして高い所から見ると、割と全体を見渡すことができた。他の岩山の影になっている所は既に探索済みの所で、未探索エリアはもう既に3分の1も無い。
そして、その3分の1というのが、封印のある塔であり、ダンジョンボスがいると思われる場所だった。
ここからはそこをある程度見ることができた。
「…双眼鏡とか持ってくればよかった」
目を凝らしてそこを見ると、どうやら塔の足元は大きな遺跡が広がっているようで、その真ん中にはカースドデーモンを太らせて巨大化させたようなモンスターがいた。
遺跡のど真ん中で寝転がっている。そして、その後ろでは、塔に入る事の出来る唯一の入口である、巨大な門に対し、ホブゴブやゴブリン達が延々と門を壊そうと破壊活動を行っていた。
『あれがダンジョンボスダ。間違いなイ』
「大きい…」
陽菜が小さくつぶやいた。
確かに巨体だ。
『アスモデウス。上級デーモン種で、近接も魔法も高度に使いこなすことができるんダ。あれはそのアスモデウスの強化種だヨ』
「うわ…手ごわそうだな」
俺がそう呟いた、その時だった。ジロリ、と奴が顔を向けてきて、目と目が合う。
だが、奴はそれ以上何をするでもなく、寝転がったまま、ふい、と視線を外してあくびをした。
「…曲者っぽいなぁ…」
アイツと戦うには、今の装備じゃちょっと心もとないな。
そろそろ考えるべきかもしれない。オーダーメイドの注文を。
もう既に出来るだけの金額は貯めてある。それに、死蔵していた鍛冶アイテム達もそろそろ活用してやりたい。
そういう訳で、俺達はひとまずダンジョン探索を取りやめ、脱出することにしたのだった。
22:ダンジョン探索十三日目 リザルト
脱出すると、既に昼時となっていた。
俺達はひとまず倉庫でアイテムの整理をして、一旦陽菜と別れて昼食を取った。その後、鈴野鑑定所に予約を入れる。
少しして合流してきた陽菜と雑談をしていると、聞き慣れたエンジン音が聞こえてくる。そしてすぐに綾さんが顔を出した。
「圭太君、こんばんわ~。鈴野鑑定所、出張買取でーす…ってあれ?人が増えてる」
「あ、初めまして。圭太君とパーティーを組んでる橘陽菜と申します。圭太君とはクラスメート、何ですよね?なら同い年です!よろしくお願いしますね」
「へ~!私は圭太君のクラスメートで、専属鑑定士をやってる鈴野綾って言います!こっちこそよろしくね、橘さん!」
という訳で、綾さんに鑑定を行ってもらう。これまで貯めに貯めた売却用アイテムと、鑑定してほしいアイテムを一つ一つ鑑定してもらう。
「多いよ~!魔素ボトルが空になっちゃう!」
と、嬉しい悲鳴を上げていた。
という訳で、まず俺と鬼月だけで攻略してた時の換金額は一人130万に上った。下層に移り、報酬が目に見えて豪華になった結果だった。
更に、陽菜を加えた今日一日では一人150万円程度となる。こちらは武装したモンスターが増えたのと、遭遇戦の分宝箱の取得機会が増えたので報酬がさらにアップした。
「前のパーティーでは月20万稼げたらいいほうだったのに、凄すぎます…」
とは目を回す陽菜の言葉だった。
加えて、カースドアイテムを除いたマジックアイテムも正式に装備に入る事となった。
まず、下層で手に入れていたアイテム。
《ドワーフの鎧磨き》
・レア度1
・魔力が込められている。金属製の鎧に使用することで、耐久度の減りを減少させる。
《力のルビーの腕輪》
・レア度1
・魔力が込められている。近接の数値にプラス2
《魔水晶のペンデュラム》
・レア度1
・魔力が込められている。人体に使用することで、状態異常のある部位を探知し、呪いを解除する
腕輪は俺が装備することになり、代わりに魔法の腕輪を陽菜に渡すことになった。
ペンデュラムは万一の場合に備えて鬼月のバッグに収納した。
更に、初心者ダンジョンで手に入れたアイテム。
《深緑のスカーフ》
・レア度1
・魔力が込められている。気配を遮断する効果を持つ。森の中で使うと効果が向上する。
《迷宮鬼灯のランプ》
・レア度1
・魔力が込められている。フィールドを作り出し、中にいる味方全員にドライアドの祝福を授ける。【ドライアドの祝福:防御アップ&防毒】
《若枝のタクト》
・レア度1
・魔力が込められている。小鳥の妖精を呼び出し、操る事が出来る。
スカーフは俺が、ランプやタクトは陽菜が持つことになった。
武器防具類は、今日は全て売ることになった。レア度の低い現時点では、ダンジョン産の武器防具よりもオーダーメイドの武器防具の方が信用度が高い。
レア度が上がれば、ダンジョン産装備とオーダーメイド装備の関係は逆になるのだが、まあ今は良いだろう。
「もうオーダーメイドかぁ。早いねえ。誰に依頼するかはもう決めてるの?」
「いや、実はまだ…今日はその事で綾さんに相談しようかと思って」
「なるほどね。そういう事なら、圭太君が装備してる刀。それを鍛えた鍛冶師さんならどうかな?腕は保証するよ!」
「まあ、実はそれもいいかなと考えてはいた」
「じゃあ決定!明日早速会いに行ってみる?」
「え?良いの?」
「うん!工房うちの店の近くだし、全然大丈夫だと思うよ!」
綾さんの言葉に、俺は頷いた。
「それじゃ、頼むよ」
「あ、私も見学に行っていいですか?」
「もちろん!それじゃ話は通しておくから安心してね!あ、私もう次のシフトあるから!それじゃあまたのご利用お待ちしております!」
綾さんがマジックバッグを持って駆けていく。その後ろ姿に手を振った。
「鍛冶師さん…どんな人なんでしょうね!」
「腕が良いのは確かだし、楽しみだ」
『僕も、早く会ってみたいナ』
そう言えば、鬼月の装備している防具も同じ人の作品だっけ。どんな人が作ったんだろうな。
さて、そういう訳でその日は解散となった。
そう言えばもう8月に入って一週間と半ばくらいか。宿題はもうある程度終わらせたし、後は悠々自適にダンジョン探索しながら娯楽につぎ込めるけど、あいつ…幼馴染の加奈子は大丈夫なんだろうか。今年は珍しく全く連絡が来てない。
まあ、もう高校生なんだし、写させるのもアイツのためにもならないし別にいいか。
俺は久しぶりに思い出した幼馴染の事を片隅にやって、その日はゆったりと過ごしたのだった。