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40 広がる異変

 宴の後、ドットのパラメーターの調整を終えた一行は今一度コストーラのギルドへと足を運んだ。


「改めて……私も今回の新たな能力のおかげで戦えるようにはなりましたが、元凶である能力値が戦闘中のみ固定化されるという部分は未だ続いています。同じようにアンドリューさんは今も時々おかしくなりますし、ライオネッタさんも精神だけはライオネスさんのまま、マリアンヌさんの持ち物が別の物に変わるのも、ワワムが身体だけ魔族と同じ状態というのもそのままです」

「黒衣の魔導師の奴が魔物に混沌の力を与えてるのも確定したし、俺達の動向を何処かから探ってるのも分かってるが……そのせいか逃げ回られてて足取りは一向に掴めずだが、打倒黒衣の魔導師が俺達の最終目標なのには変わりない」

「その事なんだけど、黒衣の魔導師の目撃情報は相変わらず無いんだけれど、どうも世界各地で変な場所や物が増えてるみたいよ」

「変な物?」

「なんでも見えない壁や宙に浮いたままのリンゴだとかの明らかに異質だけど、特段危険というわけではない物ですね。その為各地の司祭にも要警戒の報が入っている状態になっています」

「……これは恐らく」

「あれだけ警告してきてたんだ。主戦力を失った今、黒衣の魔導師が仕掛けてきたと見て間違いなさそうだな」


 話題の中心は当然黒衣の魔導師。

 混沌の魔獣四体の討伐も完了した今、明確な目的はあってもそれを行動に移すための手段が無いという状態だったが、それと時を同じくして世界中で異変が見られるようになったという。

 原因として考えられるのは黒衣の魔導師が何かしらの警告としてまた行動を開始したという可能性もあるため、一度ドット達はその異変を確認しに行くことにした。

 現状コストーラで話題になっているのは謎の黒い壁で、市街地のかなり狭い住宅と住宅の隙間を埋める様にそれが急に出現したのだという。

 それの目的が何なのかは分からないが、誤って触れた人も何人か存在するものの、現状特に混沌の魔獣のような何かしらの異常性を与えてくるというような代物ではないらしく、警戒のために周辺を騎士が囲んでいても遠巻きに民衆が見に来ているためちょっとした観光名所状態になっている。


「すみません。その黒い壁に関して、少し調べさせていただいてもいいでしょうか?」

「もしや……ドット様でしょうか? 申し訳ありません。国王の厳命で誰も近寄らせるなと仰せつかっているので……。とはいえ混沌の魔獣を討伐したドット様ならばすぐに許可を出していただけると思いますので、一度王宮の方へ伺っていただけると」

「それでしたら教皇様にご報告に行った際にこちらの調査をさせてほしいと申し出て許可を頂いています。恐らく国王様にも報は入っているかと」


 そう言いながらドットはアンドリューとライオネッタをもう暫く度に同行させてほしいと進言しにいった際、謎の黒い壁の調査をさせてもらいたいとも言っていたため、既に受け取っていた通行証となる首飾りを見せた。

 騎士も既に通行証があるのであればとすぐに通してくれた事ですんなりと件の黒い壁の調査をさせてもらえたのは偏にドット達も最早コストーラで知らぬ者はいない程の知名度を得ていたためだろう。

 黒い壁、と言っているだけあってドット以外の目にもそれははっきりと映っており、家と家の間、軽装であればギリギリ一人が通れそうというぐらいの幅だが、確かにそこに屋根まで続く長い黒い壁があった。


「なんでこんなところにこんな訳の分からない壁を立てたのかすら分からないんですが、材質も誰が何の目的で建てたのかも一切不明なので念のため……という状況ですね」

「なるほどな。ドット……殿、この壁について何か分かる事はありますか?」

「……恐らく、これも混沌の力の類だとは思いますね」


 ドットの目にはその黒い壁にあの独特な黒い靄が纏わりついているのが見えていたため、手で触れると軽い衝撃と共に黒い壁ごとその靄は消失した。

 消滅の瞬間を見ていた騎士達は少しだけ感嘆の声を漏らしていたが、ドットにだけはその現象に違和感を覚えていた。


『何故他の人にも黒い壁が見えていたんだ? 確か以前は私にしかこういった異常は見えていなかった気がするが……』


 以前、似たような壁の異常性を発見した時は、ドットには壁に見えていた部分を悠然と盗人が通り抜けていた。

 だが今回は何もない空間に発生していた謎の黒い壁だったが、他の者にも見えていてちゃんと壁として認識していたというのがドットとしては気掛かりだったのだ。

 騎士達を見てもその壁が消えた事を認識しているようだったため、ドットはもう一つの心当たりを確かめるために自らのステータスを開いてみた。


『……能力が増えていない。という事はもしかするとアンドリューさんの身に起きているような何度も発生する異常性なのか……?』


 これまで靄を取り除けば必ず増えていた新たな項目が増えていなかったため、ドットはそう判断したが、まだ断定するには判断材料が少ない。


「確か、あと幾つかコストーラ内でもこんな感じの異常性が発見されていましたよね?」

「ええ、よければご案内致しますが」


 ドットが騎士にそう訊ねると案内を申し出てくれたため、素直についてゆくことにした。

 現状コストーラ内で見つかっているものはあと二つあり、一つは謎の明滅する地面。

 現場に向かうとそこはよりにもよって通りの真ん中という厄介な位置に発生しており、立ち止まっていると何ともないが、少しでも動いているとジラジラと極彩色に輝くという以前の壁によく似た現象が起きていた。

 だが今回も違うのは皆がそれを認識しており、騎士達が念のため近寄らないようにと規制してるという点。

 こちらもドットが触れると即座に異常性が消え、それを観衆達も含め全員が認識しており、ドットの能力には変化がないという点まで一致している。

 二つ目の方も家を貫通するように木が生えているというなんとも不思議な光景が広がっているが、同じくドットが触れるとすぐに木が消滅して普通の家に戻った。


「ありがとうございます! これで一先ずは異変は解決ですね。国王には私共からご報告させていただきます」

「よろしくお願い致します。もし何か分かればご報告に向かわせていただくともお伝え頂ければ」

「承知致しました。それでは我々はこれで」


 そう言って突然の奇妙な事件に駆り出された騎士達は王宮の方へと戻っていった。


「何か分かったか?」

「やはり今回起きている異変の数々、その全てがアンドリューさんの身に起きていたような再発する可能性の高い異常性だと思われます」

「そいつは厄介だな……」

「なんで? ちょっと邪魔なぐらいでしょ?」

「現状はそうですが、もしも同じ場所に同じ異常性が発生し続けるだけなら特に気にする必要はないですが、アンドリューさんと同じように再発するのなら、次また同じ異常性が引き起こされるとは限りません」

「あ! 確かにアンドリューも毎回違ったわね」

「そうなんですよ。だからこそもしまた再発した際に危険な異常性だった場合、市民に被害が出てしまうので可能な限り早急に黒衣の魔導師を探す必要が出てきましたね……」


 そう言ってドットは最も懸念している事をマリアンヌに伝えた。

 だがどうにかしようにもギルドにも冒険者達の間でも噂にはなっておらず、宿屋や商店の主人にも聞き込みの幅を広げたが特に成果はない。

 このまま手を拱いていれば本当にドットが想定している最悪の事態を引く可能性がある以上、少しずつ焦りも出てくる。


「クソッ! 結局黒衣の魔導師の目撃情報はあのわざと情報を掴まされた時の一回だけだ」

「帝都内では強力な魔法とかは全部封じられているはずなのに一体どうやって姿を晦まして私達を監視してるのかしら」

「そこだよ! こっちからじゃ分からねぇってのに向こうは俺達の事を把握してるってのが気に食わねぇ!」

「私から一つ提案なのですが、ワワムさんの察知能力の高さに頼ってみるのはいかがでしょうか?」


 アンドリューがそう提言すると全員が口を揃えて「それだっ!」と叫ぶほど、それは妙案だった。

 洞窟内で見せたワワムの危機察知能力はかなりずば抜けたものだったため、早速ずっと何かを食べ続けているワワムに周囲を索敵してもらう。


「う~~~~ん……。ドット達が言うようなずっとこっちを見てる人はいなさそうだよ」

「ダメかぁ~」

「となるとやはり、混沌の力を使って私達の位置を把握していると考えるのが妥当ですね」


 ドットが深いため息を吐いてそう言った時、ワワムの耳がピンと立った。


「あ、誰かがこっちに近寄ってきてるのは分かるよ!」

「誰かって誰だ?」

「分かんない! でも魔物とかじゃなさそう!」

「い……いたーっ!!」


 ワワムがそういうが早いか、ドット達の方へ向かってきていた人物は相当急いでいたのか、息を切らしながら駆け寄ってドットを指差していた。


「カーマ!? なんでこんなところに!?」


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