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18 魔導師マリアンヌ

 マリアンヌへのドット達の能力や説明も兼ねて、ドットはこれまでのいきさつを話した。

 俄かには信じがたい話ではあったかもしれないが、ドットのステータスの画面を見せるとその異常さからすぐに話している事が嘘偽りのない真実である事を信じてくれた。


「確認した限りだと、新たに増えたのは《SETest:Enable》と《AllAbilityUsed:Enable》の二つのようだな。見ての通り、私の能力は黒衣の魔導師の混沌の力を取り除く度に増えている」

「それよりも……なんだか色々とごちゃごちゃしていて見にくいわね……」

「まあその通りで、正直増えた能力は必ずしも良い物ばかりではない、というのが難点だな。説明らしきものも無いため全部確かめてみるしかないのが本当に面倒なのだ……」

「そういう点は私の能力に似てるわね」


 マリアンヌに残った異常な能力、それはマリアンヌが手に取った物はどんなものでもその瞬間に別の物に変化するというものだ。


「だから例えば私が回復薬ポーションを使う場合、これを一度置いてから手に取って使うの」

「これは……毒消し草?」

「そう。因みにこれも元はスプーンよ。これを一度置いて、手に取ると」

「本当に手に取った瞬間に回復薬ポーションに変わった……。確かに錬金術みたいに錬成陣も必要とせず、魔力も使っていない……。確かに目の前で見せられるとその異常性がよく分かるな」


 マリアンヌが仲間に加わった以上、彼女の消耗品もドットが管理するのが一番効率がいいため、受け渡す際に変換される元となるアイテムを追加する事となったが、一つ問題が発生した。

 というのも、回復薬ポーション活力薬エーテルは彼女も元々使っていたため把握しているのだが、霊薬エリクサーとなってくると話が変わる。

 そのためマリアンヌの能力の有用性を図る事も兼ねて、全員の技量の把握と戦術を構築するために一度郊外へ移動する事にした。


「お、いたいた。ライオネッタ。教区長から召喚命令が出てたぞ」

「え? 俺? なんで?」

「なんで……って、そりゃあおめぇ、その態度以外に何があるよ?」


 ギルドを出ようとした所、受付の傍にいた男性にライオネッタが呼び止められた。

 男性の指差した先にある依頼書が所狭しと張り付けられた隅の方に、召喚令状が貼られていた。

 元々依頼掲示板クエストボードは最も人の出入りの多い場所であるため、誰かから誰かへの伝言等が貼られているのが普通だったが、今やその使い方は名残として残っている程度だ。


「嘘だろ……?」

「だから何回も言ったじゃないですか……淑女らしい行動を取るべきだと」

「マジでか……」

「……この調子ですと教区長の前でも何かしでかしてくれそうですね。大聖堂は聖職者のみしか入れないので、私が同行してなんとかライオネッタさんの補佐をしてきますよ」

「すみませんアンドリューさん。ライオネッタさんもこれに懲りたら身の振り方にもう少し気を遣ってくださいよ? あ、それと念の為これを渡しておきますね」


 結局ライオネッタとアンドリューは大聖堂へと向かう事になり、残されたメンバーだけでは戦術を組み立てる事も出来ないため、能力の確認だけ先に済ませる事となった。

 道具屋から八百屋まで見て回り、その品ぞろえの良さと活気に再びコストーラの生活水準の高さと豊かさに驚かされたが、一通り簡単に手に入る素材を一つずつ買い集めた。

 そして念のためマリアンヌの能力で騒ぎが起きないようにするために郊外へと移動し、アイテムの変換法則を見出してゆく。


「……そういえば一つ聞きたかったんだけど、ドットってライオネッタさんとどういう関係なの?」

「え? ああ、何と言ったらいいのか……。以前説明した通り、中身はライオネスさんなんですよね」

「さっきのやり取りを見てその辺りは納得したわ。噂だと聖騎士の中でも敬謙な人で、聖典が人の形をしているとまで言われるほどの人物だったって話だったし。ちょっとギャップがありすぎるもの」


 マリアンヌの能力検証は一つずつ確かめては紙に記入してゆく簡単な作業であるため、雑談をしながら進めていたがやはりライオネッタの話題となり、ドットはがっくりと肩を落としていた。


「ライオネスさんは父上とも肩を並べて戦った、豪快で快活な絵に描いたような冒険者ですからね……。その強さや父上に一目置かれている所に一個人として尊敬の念を抱いている。という所なのですが……一向にライオネッタさんらしさを身に着けようとしていなかったのは私としても気になっていたのです」

「……もしかしてドットって結構いい身分の人だったりする?」

「え? ええ、一応ハロルド家の嫡男ですが」

「ハロルド……って!? 冒険者から貴族に成り上がった超有名な家系じゃないの!? どうしよう!? 貴族相手に結構無礼な態度をとっちゃったんだけど!?」

「気にしなくていいですよ。貴族といえど私は二世ですし、父上の功績あっての家名ですので。私自身はまだ何一つ武勲を立てていません」

「本当に大丈夫なのでありましょうか? 平民だし、貴族と触れ合うような機会がございませんでしたので敬語だとかが全く分からのうて……」

「前のままでいいですよ。というか下手に聞きかじった知識のせいで逆に何を言ってるのか分からないです」

「そ、そういうことなら……。でもやっぱり湯水の如くお金を使ったり、身なりとか言葉遣いとかでなんとな~くそんな気はしてたのよねぇ」


 そう言うとマリアンヌも同じように深い溜息を吐きながら、目の前に並ぶ色々な物を手に取っては地面に置いてゆく。


「ドットもマリアンヌも疲れたの?」


 仲良く方を落として溜息を吐く様子を見て、それまで自由気ままにしていたワワムが気になったのかそう聞いてきた。


「いや別に……。そういえばワワムちゃんってどういう関係なの? この子だけなんか本能のままに生きてるって感じがするけれど」

「本人曰く、山奥にある少数部族の出身らしい。世間知らずどころか世間と隔絶された存在だからその認識で間違ってないと思うな」


 ドットの言葉を聞くとマリアンヌは納得したのかゆっくりと首を縦に振りながらワワムの方へと視線を動かす。

 作戦会議や難しい会話の時は大体隅の方で終わるまで眠ってるか、ステーキを食べているかのどちらかで、自分から会話に参加する事が無いため既にマリアンヌにも何となく彼女の感覚が掴めていたようだ。


「因みにドットとしてはワワムちゃんは?」

「え?」

「よく撫でてるけど、結構関係が進んでたりするの?」

「まさか。本人は成人したと言ってますが十四歳ですよ? 良くて妹だけれど、あの見た目に本能に忠実な感じのせいでよく懐いた犬にしか見えないですからねぇ……」


 ワワムの仔細を聞いた上でマリアンヌはかなり興味津々に関係性を聞いてきたが、ドットは呆れた様子でそう答えた。


「ワワムはドットの事好きだよ! おっきな街にも連れてきてくれたし、沢山褒めてくれるし、美味しいお肉も沢山食べさせてくれる!」

「あの調子ですからね」

「確かに可愛いのは可愛いけどアレは別の意味ね」


 そう言って二人で嬉しそうに尻尾を揺らすワワムの様子を見ていると、何故見つめられているのか分かっていないのか小首を傾げていた。

 次々に道具を手に取っては書き記しながら、マリアンヌは今一度小難しそうに何かを考え込み、薔薇の花からワーウルフの牙に変わった物をその場に置き、一度咳払いをしてからドットの方へと向き直す。


「因みにドットって既に奥さんだったり、婚約者の方だったりは居たりする?」

「単刀直入ですねぇ。婚約者は居ないですよ。今の私は色恋にうつつを抜かしている状況ではないですからね。早く武勲を立て、私自身が一人の騎士として大成せねばハロルドの家名に泥を塗る事になってしまいますからね」

「……もしかして話してた混沌の魔獣の討伐って」

「お察しの通りですよ。私の能力であれば混沌の魔獣を無力化した上で討伐ができる。そうともなれば私自身にも泊が付きますし、皆も不安が取り除かれる。というのは少々傲慢が過ぎますかね?」

「いいんじゃない? 冒険者ってのはみんな欲の塊。大金が欲しい。貴族になりたい。農民として人生を終えたくない……。でもその欲を叶えるにはそれに見合った努力と実力がいる。出来る限りのことはするけれど、貴方も欲に押し潰されないようにね」

「心に留めておきますよ」


 そんな会話を続ける内、漸くエリクサーへと変換される物が刻まれた魔法式によって力が僅かに上昇する力の指輪だと判明した事で、手持ちに力の指輪を三つほど加えて今日の検証は終わりとなった。

 なお、検証に使った物が増えてしまわないようにマリアンヌに預けていたのだが、自分以外が持っている道具も復元対象に含まれてしまっている事に気が付いたのは二日後の事だった。


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