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14 パーティ結成

 帝都にドットとワワムが到着してから十日、新たにライオネッタを加えた三人のパーティで基本戦術を組み立てながら、街を観光したり、なかなか食べる機会の無い料理に舌鼓を打ち、束の間の自由を謳歌した。

 陣形や戦術の確認もしっかりとでき、いつ旅立っても大丈夫だと自信を持って言えるようになった頃、遂にドットの指輪が発光して司祭が調査を終えた事を告げた。

 改めて大聖堂前へ向かうと、そこには相も変わらず人の群れが出来ており、司祭らしき人物が何人も集まっているのが分かる。


「あっ! ドット様! こちらです!」

「すみません。大変お待たせしました」

「ドット様! そちらにおりましたか!」

「大分時間が掛かってしまい申し訳ありません」


 そう思ったのも束の間、そこにいた司祭の群れが一斉にドットを見つけると動いてきて同じような内容を話しかけてきた。


「待て待て待て待て!? 何が起きた!?」

「「「「どうかされましたか? ドット様」」」」


 そこに並んでいる無数の司祭はどれもこれも全く同じ顔をしており、ドットの言葉に呼応するように返事をした声までもが全く同じ物だったせいで言葉が反響しているかのように連なって聞こえてきた。

 別段威圧感を放っているわけではなかったのだが、同じ人間が何人もそこに並んでいるという光景はあまりにも不気味で、ドットは思わず後ずさったが、そっと手を伸ばして司祭の内の一人の肩に手を触れると今度は衝撃を伴わずにパッと最初からなにも居なかったかのように一人を残して全員消えてしまった。


「司祭様……何事も無いですかね……?」

「その様子ですと……また何かありましたか?」

「……どうやら司祭様も混沌の力の影響が残っていそうですね」



     ◇     ◇     ◇     ◇     ◇



 場所をまた大樹亭の個室へ移し、司祭にもこれまでの経緯とライオネッタの事を話した。

 今回は全員事情を知っているという事もあり、ワワムは話し合いの間も肉が食べられて満足そうだ。


「なるほど……。だから黒衣の魔導師のスキルの詳細の調査も依頼されたのですね」

「ええ。因みに何か分かりましたか?」

「残念ながら分かった事はあまり無いですが、ドット様が仰っていたように、過去にも相互関係のあるユニークスキルは存在したようですね」

「おお!」

「とはいえドット様のスキルであるデバッグのようなステータスに大きな影響を及ぼすスキルや、黒衣の魔導師のスキルのような他人に混沌の力を与えるスキルというものはやはり前例すら存在しませんでした」

「やはり前例はありませんでしたか……」

「お時間を頂いたのにお力になれず、申し訳ない限りです……」


 そう言って司祭は改めて深く頭を下げたが、分からないものをこれ以上調べる方法も無ければ、元々分かるかもしれないという程度の情報であった以上、それを調べる事が出来なかった司祭に非があるわけではないためドットも特に司祭を責める事は無かった。


「とりあえず、今の目標は黒衣の魔導師がこれ以上混沌の力を振り撒くのを止めるためにも接触を行うのが最優先だな」

「その件についてなんだが、俺に接触した魔導師の特徴としてドットが教えてくれた奴、ここいらじゃちょいと有名な魔女に似ているな」

「そうなんですか!? 何か行方等の情報は!?」

「噂だから確かな話じゃあないが、呪術が云々とかでパーティと揉めて、今は『迷いの森』に身を潜めてるって噂だ。あそこなら隠れるのにはうってつけだからな」

「噂でも確かめる価値は十分にありますよ」

「あのー……ドット様、一つお尋ねしたいのですが」


 話も纏まりそうだった所で司祭がそう言ってドットに質問を投げかけてきた。


「私の見間違いでなければ、この方はライオネッタさんでお間違いないですよね?」

「ええ。それがどうかされましたか?」

「いえ……その……。去年お会いした時とはなんというか……こう、申し訳ないのですが、少し品が無くなったというか……」


 それを聞くと同時にドットとライオネッタが同時に深い溜息を吐いた。


「だから言ったではないですか! ライオネッタさんの品位を貶めないためにも人目に付く時は礼節を弁えた行動を取るべきだと!」

「うるせぇなぁ……。俺はそういう礼儀だとか作法だとかが嫌だから貴族になんてなりたくなかったってのによぉ……。よりにもよってこんな形でユージンにもその倅にまで説教されるとはなぁ……」


 そう言い放つライオネッタは椅子の背もたれに深く腰を掛け、分厚いステーキをジョッキビールでかっくらい、肩肘をひじ掛けに突き、脚を組んで座っているのでとてもではないが淑女からは縁遠い存在になっている。

 それこそ見た目が筋骨隆々の厳つい男ならば多少行儀は悪くても、これほどまでに悪印象は与えていなかっただろう。


「あーそうだ。ドットよぉ、敬語止めねぇか? 俺は堅っ苦しいのが苦手なんだよ」

「私は昔からこの言葉遣いで慣れていますので今更崩す方が慣れないですよ」

「やだねぇ……御貴族様ってのは」

「とにかく、今はライオネッタとしての自覚ある行動を心掛けていただけると」

「わーったよ」

「ライオネッタさん!」

「分かりましたことよ」

「……まあ、色々あってこの方は見た目こそライオネッタさんなのですが、精神はライオネスさんなのでこういうちぐはぐな状態になっていまして……」

「なるほど……。今は見なかった事にしておいた方が良さそうですね」


 そう言うと司祭とドットは苦笑いを浮かべて、お互い納得し合っていた。


「それでは司祭様、色々とお世話になりました。また父上の元に戻る事がありましたら、司祭様の事情は私から話しておきますので、安心してください」

「え? それはありがたいのですが……今から迷いの森に向かうのではないのですか?」

「え? 司祭様も同行されるのですか?」

「もちろんですとも! ハロルド家の方々には多大な迷惑をお掛けしたうえ、何も助力できないとあっては一生の恥です。武力としては心許ないかもしれませんが、回復や補助魔法であれば微力ながらお力になれますので!」

「という事なんですが、ライオネッタさんはどう思われますか?」

「あ? そりゃあ構わないだろ。そいつも俺達の事情には詳しいんだ。問題になる事は無いだろうよ」

「でしたら! 改めてよろしくお願い致します。司祭様」

「アンドリューと申します。気安く呼び捨てで構いませんので」

「分かりました。今後ともよろしくお願いします! アンドリューさん」


 そうして司祭、アンドリューもドット一行に加わり、一行は迷いの森へと向かうための最後の準備を整えてから早速コストーラを後にした。

 セントリア山脈。

 帝都コストーラからそう距離の無い場所に存在する高い山々の連なる土地であり、その麓には山から齎される豊かな魔力により、鬱蒼とした森林が広がっている。

 その森林地帯は山脈の名を取ってセントリア森林地帯と呼ばれており、濃密な魔力によって育った森林地帯から生成される空気にも同様に魔力が豊富に含まれるが故、常に霧がかったような視界の悪さが付き纏う。

 そのため付いた通称は『迷いの森』。

 濃密な魔力の恩恵で沢山の薬草や魔石等の資源が潤沢に手に入る一方、魔力に惹かれた魔物も多く、それと同じぐらいコストーラで問題を起こしたお尋ね者が霧のおかげで身を隠しやすいため、素材収集等で度々冒険者や商人が立ち寄る者達が襲撃される事も少なくはない。

 危険と隣り合わせながら後ろ暗い者にとっては足取りを掴みにくいため、野盗団等の拠点にもなっているまさに黒衣の魔導師が隠れ潜むにはうってつけの土地である。


「さて……ドット、俺の知る限り一番デカい盗賊団のアジトはこの先にあるが、本当に行くんだな?」

「土地勘が無い以上、無暗に探すよりは確実ですから。交渉の為の資金も潤沢にありますので」

「俺は止めておいた方がいいと思うけどねぇ……」


 昼でも薄暗い林道に続く松明の灯りを頼りに、ドット達は盗賊団のアジトへと向かった。

 周囲にその存在を晒しているのはそれ即ち、居場所がバレたとしても問題が無いという自信の表れでもある。

 だが同時に無法者と謂えどルールが存在しないわけではない。

 欲で動く彼等とは交渉材料たり得る金があれば、無駄な血を流す必要もない。


「お前ら冒険者か? 何の用だ」

「この森の詳細な地図が欲しい。ちゃんと金も用意している」


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