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レッスン31『ラスト・ダンス』
まるで世界が荒廃したような、そんな錯覚を覚える。
人類はとっくに滅亡に追いやられて、もう――誰もいなくなったような。
「……いくよ」
心臓が飛び跳ねた。彼女の声に呼応するように。
「――ああ!」
少し遅れて大地を蹴った。間もなくして轟音が鳴り響く。
地震だろうか?
しかしどうしても違和感がある。
俺達はこうして地面の上を動けている。
何よりもその轟音は――”下”からじゃない!
遙か頭上からの暴力だった。見上げると光のベールに包まれた巨大な矢のようなものが降り注いでくるのが見えた。そしてそれは間違えなく俺を標的としている。
まだ地面に到達するまでの距離はある。しかし上空から舞い降りる光の矢に当たったものなら粉々にされてしまうだろう。死へのカウントダウンを告げられたようなものだ。
「こりゃあ死ぬかもしれないわね」
彼女がボソリと呟いた。ここに来るまでに何度も葛藤したのかもしれない。でも、きっとここに来た時点で腹は括って命なんて惜しくないんだろう。
そんな邪推をした過去までの自分を殴りたい。
彼女は今も乗り越え続けているんだ。今日で最期になるかもしれない。もう家族にも大切な人にも会えないかもしれない。内から次々と込み上げる恐怖に。
彼女は抗い続けているんだ。覚悟なんて言葉でいうほど容易いものじゃない。
――俺だってそうなのに、なんで彼女だけ違うだなんて勘違いしていたんだろう。
「……信条さん!」
彼女の背中に向けて呼び掛ける。
返事はない。足音だけが響く。
「――この闘いが終わったらさ、一緒にダンスしよう!」
走る彼女の肩がぴくりと揺れた。
「――ま」
「……え?」
彼女は何度か呼吸を整えると、弾んだ声でこう言った。
「いまやろ! そしてダダンダンとかいうイカレ野郎に見せつけてやろ!」