□#なんか謎世界05
まって。
ふるえる手でなんとかメモしてるけど本当マジで意味わかんないなにがどうなってこうなってるの。正直パニクって今は何も考えられないからとりあえずマンションについて私の部屋に入ったところからなんとか思い出して書こうと思います。
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異世界でも特に変わり映えしていなかった私の住むマンションに安堵しつつ、エレベーターに乗り込んだ私はこれからどうするか少しだけ考えた。
スマホを充電してPCで配信視聴が終わったらとりあえずお母さんにL●NE電話して何か変わったことはないかそれとなく聞いて問題なさそうだったら推し活グッズの確認、そしたら私自身がこれからどうするか考えよう。勿論剣牙の過去配信を流しながら──なんて甘い考えは自室のドアを開けてすぐに崩れ落ちた。
部屋自体は何も変わってなかった。ベッドやテレビの位置も使ってる歯ブラシや洗顔や香水や化粧品の銘柄もなんとなく置いてある観葉植物の成長具合もそのまんまだった。
けど、剣牙の推し活グッズは全て消え去っていた。
ポスターも、ぬいも、クリアファイルもアクスタもフィギュアも、マウスパッドも抱き枕も等身大パネルも何もかも全部。
錯乱して発狂しかけた。
剣牙と共に過ごした日々が全て無くなってしまったような喪失感が心を蝕んだ。
けど、まだそこはこらえられた。
とりあえず盗んだ泥棒は必ず探し出して地獄に落ちてもらうのは当然としても、まだ私の推し活グッズが無くなっただけだったから。
私がそうやって剣牙にお布施した事実は変わらないし、剣牙が貧乏になるわけでも人気が落ちるわけでもないから。貧乏になるのは私だけだと思ったから。
問題はその後だった。
気を落ち着かせてスマホに充電器を差してPCを起動して、いつも通り動画投稿サイトを開いた時だった。
Vtuber夜月剣牙のアカウントも消滅していた。
アカどころじゃない、切り抜きもアーカイブもどれだけ検索しても出てこなかった。まるで夜月剣牙が最初から存在していなかったかのように。
そして、事態はそれだけに留まらなかった。
剣牙だけじゃなく【V-tuber】というコンテンツがまるごと無くなってた。
剣牙とも仲良しな同箱のホストもヴァンパイアもピエロも。
どれだけの経済損失だよ──なんて崩壊していく自我の片隅で思ったりもした。
生理痛よりも酷い吐き気と腹痛、あと頭痛と心臓痛が一挙に襲いかかってきて一旦トイレに駆け込んだ。ひとしきり吐いた後は脱力感だけが身体の隅々を支配した。薄い視界と意識の中で、私は何も考えられなかった。
そうしてからどれくらい経っただろう、すっかり暗くなった部屋の灯りもつけれなくて私はただベッドに倒れた。柔らかい布団だけが心をほんのちょっと軽くしてくれた。
けどそうすると、何も考えられなかった思考は一転したかのように様々な考えを脳内へと張り巡らせ始めた。
なんなのこの世界。
私に死ねと?
こっからどうやって動けと?
妙に日本都市風で変なコスプレ人間達と変な色の建物と空で剣牙その他Vtuberが消滅してる異世界ってなんなんだよ。
どんな異世界転生? わけわかんねーっつーの。
元の世界に帰りたい。
そうだ、元の世界に帰ればいいんだ。
探さなきゃ、今度は元の世界に帰る方法を。
でも今は身体が動かない。疲れた。
とりあえず一旦寝て、明日どうするか考えよう。
その時──インターホンが鳴った。
やめて、こんなタイミングで新聞屋とかN●Kとか訪問販売とか宗教勧誘とかだったらたぶんその人殺しちゃう。
正直、出る気なんか欠片もなかった。
けど何故か私は自然に起き上がり玄関の方へ向かっていた。
何が私を動かしたのか自分でもわからなかった。ただただ救いを求めるように──ゾンビに思考能力はないにも関わらず人を襲うかの如く生存本能だけが働いたのかもしれない。
誰か助けて。
元の世界に帰るまでたった一つでもいいからこの世界に救いを下さい。そうじゃなきゃとても耐えられません生き抜けられません剣牙の代わりになるものなんてないけど繋ぎでもいいから希望を与えて──そんな思考状態だったせいもあってか、インターホンのモニターを確認もせずふらふらと玄関に行って躊躇いもなくドアを開けた。今になって思えば防犯意識ゼロのめっちゃ危ない事してたと思う。
チェーンロックを外して扉を開けたその瞬間──ドアの隙間から黒い革靴が飛び込んできたのを下を向いていた私の視界が捉えた。開いた扉を閉めさせないかのように来訪者が差し込んだ……そう理解した時にはもう遅かった。私よりも数段強い力で引かれたであろうドアはすぐに外の光を暗い室内へと目一杯取り込んだ。
『あ、死んだ。よくて乱暴される。でもそんな事されるなら目ぇくらい潰して道連れにしてやる地獄で会おうぜ』って感じで防衛本能のあるがままに侵入者に素早く目潰しをかまそうとした私の時間は──刹那に発せられた声で止まる事になる。
「無礼を承知で失礼致します、ミスイお嬢様。私と共にお帰り下さい」
訪問者はとてもイケボで執事服姿の二次元系青年だった。
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