■#03 ローファンタジー
さて──震えを断ち切るかのように顔を少し上げて、気を取り直し街の風景を見てみよう。
街行く人々の往来では様々な人種が世界の彩りに一層花を添えていた。
人間、エルフ、ドワーフ、獣人。
頭がディスプレイモニターになっている【ハコみたいな奴】。さっきの【絵文字母子】と同じように当然のように二本の足で街を練り歩いている。
長らく観察していると様々な形態模様があるらしい事に俺は気付いた。
奥行きのある古き懐かしきアナログ型。
美麗でスマートな液晶型。
更に美しい4Kらしき有機EL型。
大きさも様々で32型、40、52型くらいでかい頭もいる。果たして『人』を表すのにこの数字の羅列は正しいものなのかと疑問符が浮かんでくるが。どれも映画泥棒の亜種のようにしか見えない。
全身がドット絵みたいになっており、どうやって生きているのか全くわけわからん種族もいる。
ドット絵が人と同じ空間を普通に歩いているのはどういう理屈なんだ。3Dタイプならともかく、2Dタイプのやつもいるようで真正面から見たら一体全体どんな形になっているのか想像すらできない。
更にはホットドッグの被り物をしてるようなやつ。
可愛らしいキャラクターのようにデフォルメされた3等身のやつ。
宇宙人にしか見えないやつ。
勿論『コスプレだ』という可能性はいの一番に頭に浮かんだ。俺の拙ない文章力でキミにこの世界の情景が伝わっているか定かではないが。
だが、どうしても俺にはあれらがコスプレには到底見えないのだ。
レイヤーや仕立て屋の技術が年々と進化している今では『ドット絵』や『絵文字』人間を形に表すのはもはや可能なのかも知れない。
だが、掌サイズの妖精というものは身長をありったけ縮めでもしない限り、若しくはス●ンド能力でもない限り不可能だろう。
更には『空を飛び回っている人間をちらほら見る』という眼前の事実がある限り、これらをコスプレと割り切って捨てるには無理があるのだろう。
さて、ちょっと疲れてきたから人々を視界に入れないように、次は荘厳なる街の様形美に想いを馳せてみるとしよう。
中世世界に相応しき壮大なる蒼い空、ゴシック建築様式の教会のような佇まいのお城、活気ある露店──そんなものは何処にも存在していない。
代わりに、嫌が応にも視界に捉えさせられるのは──ビル群だ。【ナーロッパ】にあってはならない建造物の山。
現代日本となんら変わらない建物の羅列。
住んでいる人々を目にしていなければ、異世界転生したとさえ認識できないほどに現実なる日本の都である。
現代日本と差違があるとすれば……趣味の悪い原色がこれでもかとふんだんに、あちらこちらに使用されている事だ。
真紫色の道路。
パステルではない目に優しくないド派手なピンク色の壁。
普段なら街中に絶対存在しないオレンジの電柱。
そんなものが街中のビル壁やコンクリートに塗りたくられたように使われていて見るものを頭痛に悩ませる──まるで陣地を塗り潰して競い合うゲームの試合終了後の様相である。こんな街に住む人間の気持ちが知れない。陽気なアメリカ人でも無理だろう。
なにより、ファンタジーさも過分に点在しているというのだからなおの事に性質が悪いのだ。
遠目には日本人ならずともご存知のスカイツリーらしきものが望めるが……その上空にはまるでスカイツリーの偉大さを人々の目から奪い取るかのように【空に浮かぶ島】が佇んでいる。
なにこの世界。
【ナーロッパ】とは果たして。
いくら【ナーロッパ】が作者の都合によって如何様に景観を変えるとしてもここには【ナーロッパ】さの欠片もねぇ。
皆がスマホ持ってるし、ぴえんといった顔したやつとかノーモア映画泥棒だとかの種族もいるし。
スカイツリーどころかタワマンとかあるのに天空の城とかもありやがるし、普通のなろうみたいにエルフとかドワーフもいるし。
あべこべとは正にこのような光景を指すのだろうな。
『現代日本』と『ファンタジー世界』が融合した世界か? 逆に『異世界が日本に現れて数年……』のようなローファンタジー。
いや、それにしたってこんなサイバー感に溢れた未来都市みたいになるか普通。転生だけじゃなくタイムリープでもしたんかわしは。どんな欲張りセットだ。
唯一理解できたことといえば──ここは俺が待ち望んだものと真逆なほどにかけ離れた世界だということだけだ。
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