■#02 ナーロッパ、じゃない?
「なにこれ」
俺の夢と希望はすぐに困惑へと変化する事となる。目に見えて明らかな【問題】が立ち塞がっていたからだ。
『俺にはなんのスキルも与えられなかった』だとか『難易度がヘルモードだった』とか『飯がくそ不味い』等のありふれた理由では決してない。では、その困惑の原因は何であるのか。
俺は今現在、まさに『異世界転生』を果たしてこの想いと現状をこうしてキミに送っている……リアルタイムで語る異世界転生というやつだ。
『何故、スマートフォンを所有し、更に基地局もない世界で使えるのか』なんてのはもはや誰も気にしないだろう?
それに『何故?』と問われても知らんがな。重ねて言うが何故なら俺も今、異世界へ到着したばかりだからな。誰よりも俺が一番混乱し困惑しているんだ。
本来ならばすぐに警察にヘルプしてみたり、●ちゃんねるで実況スレをたてたりしたいところなのだが……とりあえず一服したい俺はベンチに腰掛けて、こうして現状を記録しているというわけである。緊急時に記録を残しておくという事は大事だろう?
ちなみに──異世界で目を覚ました際に降り立った場所はモンスターが跋扈する草原でもなくドラゴンの住む洞窟でもなく『普通に街の中』だった。
広場だろうか……数々の建物を遠景に捉えられられる少し拓けたその空間は、めっちゃ動揺した俺の心をほんの少しだけ平静へと近づけてくれたと言えよう。
「ママー、スマホ買ってー」
広場を行き交う人々の声が、爽やかな風と共に耳を通り抜けていく。
小学生くらいであろうの背丈の女児とスカートを履いた母親であろう女性が手を繋いで平和なこの街を象徴するかのように闊歩していた。恐らく母子だろうか。女児は女性にスマホをねだっているようだが……母親らしき女性は『まだ早いわよ』などと女児をあしらっているようにも見える。
買い物にでも向かっているのだろう──なんにせよ、こうして文章に書き起こして切り取って見れば単なる和やかな風景描写となりえるなんてことのない日常だ。
だが、その光景を直に視覚へ捉えている俺にはそんな気分に到底なれなかった。再び混乱と困惑が俺の心を掻き乱し、ざわつかせていく。
さて、ここで前述した『問題』へと繋がるわけだが……君らはこの明らかな【異常】をお分かり頂けただろうか?
答えの一つは──そう、【スマホ】だ。
異世界にあるべくはずもない、転生してきた俺にしか所有しえない現代文明の結晶とも言うべき【スマホ】を異世界の住民であろう女児がねだっているという事実。
母親なる女性の反応からも察するに、【スマホ】はなんらこの世界の異物たりえないという事が窺える。
まぁ確かに昨今の異世界転生の思想を鑑みると『スマホのある世界』だとか『転生者が他にもいる』だとかの背景も浮かび上がってくるかもしれない──そう、ただこれだけであったならば俺もそこまで不思議に思わなかっただろうて。
じゃあ次は、俺の視点から得た困惑する問題を文字に書き起こしてみるとしよう。
さっきから何故、俺が『くらいであろう背丈』だとか『スカートを履いた』だとか『だろう~恐らく』だとか無駄とも思える母子の人物描写をくどい程に書き連ねているのか。
その答えこそが俺を困惑させている問題そのものだからだ。
その答えは単純にその母子が【全く見た事もない生物なので性別がわからない】からに他ならない。
例えばこれが【ナーロッパ】によくいる【亜人】とかいうものだったらまだ良かった。そういった者を現実では見た事はなくとも漫画やアニメではよく目にしていたのだから多少なり性の判別くらいはついた筈だ。
だが──黄色い肌。
着ぐるみみたいな丸い頭。
表情に中途半端な感情を表すような機微はなく──喜怒哀楽をまるでスタンプでも張り付けるように表情は一瞬で変化する。
だというのに──身体は人間。
全身が黄色。
まるで全身タイツを肌に着て、ぬいぐるみの頭だけを被っているかのようなアンバランスな佇まいはB級ホラー映画の殺人鬼役そのものであり思わず会いたくて震える。
これを見た誰か教えてくれ。
このような種族、人種は【ナーロッパ】では何て言うのか?
結局スマホの購入を母親らしき女性にやんわりと退けられたのだろうか、女児の瞳は光源を取り込んだかのように潤み、目下には汗のマークのような涙が張りつけられた。あんな感じのスタンプ、SNS上ではよく目にしたような気がする。ぴえんだ。
だが女児は癇癪を起こすというような事もなく、母と手を繋いだまま街中の喧騒へと溶け込んでいった。きっと仲の良い母子なのだろう。ほっこり風景だ。
だけど誰か教えて欲しい。
俺の知識にはない、あの人種の正体。
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