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■#09 真相

「ぁっ……あてゃしとっ……お付き合いしてくださいっ!!」


 噛みまくりだった事を気にしたのか、娘はもう一度同じ台詞を放った。

 その表情は真っ赤で……桔梗の髪色と、インナーカラーの桃色とのコントラストが絶妙にマッチしていた──なんて、そんなどうでもいい事を考えている場合ではなかった。


 なんて?

 なんで?

 まず第一に考えられるのは、『罠』。

 それはそうだろう、出会って●秒で合体じゃあるまいしそんな都合良い展開は現実世界に存在しない。なにかしらの絵画とかなにかしらの壺とかを俺に買わせるために送り込まれた刺客であると考えるのが自然だ。

 そして、第二の可能性が『罰ゲーム』。

 学生時代によくあったあれだ。陰キャの希望や尊厳を踏みにじるやつ。

 あとは『呪文』『悪魔の契約』なども考えられるな。『はい』と返事すると魂とかもってかれるやつ。

 ──大体そんなところか、ふぅ、危ない危ない。冷静になれて良かった。学生時代ならともかく……こちとら伊達に中年まで齢を重ねてはいない、甘く見るなよ小娘が。


 なんて思考を一瞬で繰り広げたのちに俺が出す言葉は決まっていた。



「よろしくお願いします」


 駄目だった。

 それはもう自然に口からOKの返事が出ていた。だってそうだろう?

 『推し』そっくりなやつに言い寄られて断れる人、おる?


「~~~~~~~~っ!!!!!」


 俺の返答に、娘は小さくガッツポーズをしながら目を『><』こんな風に、口を『~~』こんな風にして足を小刻みにバタバタさせている。どんな感情であるのか……少なくとも嫌がってはいなさそうだし、『はい、ドッキリでしたバーカ』なんて言い出す様子もない。


「でも、どうしてだ? 会ったばかりなのに」


 だが、流石にそう聞かずにはいられなかった。男に備わっている本能が最後の一線を越えさせる前に警告を発してくれたのだろうか。

 少し強めに、タメ口で、手綱はこちらが握ると言わんばかりに思わず主張していた。


「…………あ…………あの、引かないでね……?」


 娘はその圧を感じたのかそうでないのか……少したじろぎながらそう前置きしたのちに話し始める。


「あてゃし……キスケさんとは初めて会ったって気がしなくて………上手く言えないけど……何十年も傍で寄り添ってくれてたみたいなそんな感じがして………あてゃしが泣きたい時も辛い時もずっと見放さないで応援してくれてたたみたいな………ぃひひ、そんなわけないのにね」


 切ないような、嬉しいような、そんな複雑な表情を交えながら娘は続けた。


「さっき……あてゃしが挨拶に行って手土産を渡そうとして渡せなかった時………ずっと何も言わず黙って待っててくれたでしょ……? その時に昔もキスケさんが同じように待っててくれた気がして………それからずっと………しょ、初対面なはずなのに変な事言ってごめんなさい………」

「………………」


 その台詞を聞いて、俺は()()()()を得た。

 やはりこの娘は『推し』だった【小湊みかずき】本人だ。そして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「……すまん、連絡先を教えてほしいんだけどスマホ充電しっ放しだから持ってきていいか?」

「あっ、うん。待ってるから勝手に入ってきていいよ」


 初対面にも関わらず、まるで何年も付き合っている彼氏彼女のようなあべこべな会話に少し興奮しつつも……名残惜しみながら共用 廊下に出る。 自分の部屋の扉の表札には()()()()()()()()()()()事を確認しつつ部屋へと入り、財布に入っていた免許証を見た。


「やっぱり………」


 彼女の言った通り、この世界の俺の名前は【忍音目木輔(しののめきすけ)】となっていた。

 何故、ペンネームとして使用していた名が俺の名となっているのか。

 何故、推しVtuberだった【小湊みかずき】がこの世界に存在しているのか。

 何故、小湊みかずきが俺の苗字だけでペンネームを言い当てたのか。


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 こういう経緯で俺はPCからの投稿を再開させているわけだが………彼女を待たせているのでここは一旦打ち切ろうと思う。

 俺の考えが正しければ、次回までには答え合わせができるはずだ。確証はないが……ここが『あの世界』だと仮定すれば起きた全ての事柄がぴたりと当てはまる。


 俺は充電の完了したスマホを持って、これから彼女の部屋へと向かう──彼女からも聞いてみよう。この謎の世界について。




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