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■#08 早展開

 

 ちなみにだがスマホを充電している時、この文章はPCで書き込んで投稿している。

 何が言いたいかと言うと、この投稿はできるだけリアルタイムな現状を伝えているとはいえ……タイムラグというものが存在しているのを承知してもらいたい。

 つまりこの文章は前回起きた『悲鳴とその原因』を既に究明して解決したのちに作成したものだという事だ。

 これから先もPCでの作成中にハプニングが起きた時などは一旦区切って報告するので一つの投稿が短くなったりリアルタイムでの報告ができない可能性があるが大目に見て欲しい。


 そして、つい先ほどまで独り身だった俺に()()()()()ということも承知しておいてくれ。


 サラッと言ってるけど一体何があったんだ!? って?

 報告しよう、悲鳴の先に起きた顛末を。



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 風呂に入ろうとしたら突然に悲鳴が聞こえた俺はすぐさまに部屋を飛び出した。

 これがおっさんの悲鳴であれば無視したが、どう脳内で反芻(はんすう)しても先ほど会ったばかりの『推し』の声だったからだ。部屋に不審者でもいたのだろうか。

 共用廊下に出て走ろうとした矢先──ほぼ同タイミングで推しの娘も血相変えて自室を飛び出してきた。明らかに緊急事態のようで涙を浮かべていたが……後回しにして俺はあらゆる可能性を脳内で模索した。

 侵入者等の事件ならばこのまま推しの娘を連れて警察へ~とか、なんかしらのトラブルならば確認をとりつつ部屋に入り~など瞬時に思考を張り巡らせていたら──推しの娘が走ってそのまま抱きついてきた。


 小さな身体とは裏腹に、胸は立派な娘に勢いよく抱きつかれたので腹の辺りが反動で跳ね返りそうだった……などと(よこしま)な考えを振り払ってひとまず落ち着かせて尋ねてみる。


「どうした? 何があった?」

「ぁ………ぅ、その………ゴキっ……ゴキブリが……部屋にぃて………ぁぁうっ………」



 なるほど、それは緊急事態だ。

 仮に隣人が男でそんな事を言ってきていたらゴキジ●ットを顔面に噴射していたかも知れないが、勿論『推し』にそんな事はしない。


 俺は推しの娘に部屋に入っていいか確認したのちにGを処理した。この辺りを詳しく描写する必要はないだろう。


「ぁ………ありがとう……ございます」


 様子を陰で見ていた推しの娘は俺が処理を終えると安心したようで側に駆け寄ってきた。出会ったころ(ついさっきだが)よりもATフィー●ドを薄めてくれたようで声量も普通となり、距離感も縮めてくれている気がする。


「あ」


 そういえば推しが部屋に来たときに俺は名乗っていなかったことを思い出し、ふと声が漏れた。なんと失礼な事であろうかと改めて自己紹介しようとしたんだ。

 だが、推しの娘は声を挙げた俺を不思議そうな顔で見て言った。


「? どうかしましたか?【忍音目(しののめ)】さん」



 一瞬、俺は困惑した。

 脳が破壊され──いや、脳がついていかなかった。

 何故、推しの娘は名乗ってもいないのに()()()()()を知っているのか。しかも、正確に言うと本名ではなく……いわゆるペンネーム的に使っていた名前だったのだ。


「あ……ごめんなさい。表札にそう書いてあったから……【忍音目(しののめ)木輔(きすけ)】さんで合ってますよね……?」


 なんだ表札を見ただけか──とその場は脳を修復して『そうだよ』と微笑みながら誤魔化し、新たに浮かんだ謎をとりあえず脇に置いておくことにした。

 何故かって? 決まっているだろう。

『推し』そのものな娘と会話しているのに【世界の謎】などを優先して考える馬鹿はいないからだ。


「さっき会ったばかりなのに……助けてもらってすみません……あてゃし、虫だけはどうしてもダメで………ぃや、暗いのとかお化けとかも全部ダメなんですけどね……ぃひひ……」


 コミュ障であるのが嘘のように、推しの娘は独りで独白し始める。舌っ足らずで一人称が『あてゃし』に聞こえるところなんかも地球で見ていた推しそのものだ。


「えーっと、小湊さん……は」

「あっ、『みかずき』って呼んでくれて構わないよ? 他の男の人だったら嫌だけど……キスケさんなら……あっ、ぃひひ……初対面なのに何言ってんだろあてゃし……」


 一人漫才でもしてるかのように推しは饒舌(じょうぜつ)になり、頬を紅く染めて照れ笑いをした。そこで俺は多少の違和感を抱く。


 何かがおかしい。

 いきなりタメ口になっているし(いや、全然構わないんだが)、こんな距離を詰め方ができるような娘だっただろうか(いや、自分相手なら全然構わないんだが)。地球での推しは他のVtuber相手でも打ち解けるのに三年は時間を要していたというのに。俺の推しが初対面の男相手にこんなに話せるはずがない(何度でも言うが俺相手だったのなら全然構わないんだけど)。

 まぁ、そもそも俺が『推し』とこの娘を勝手に重ねていただけで同一人物だというのもただの希望でしかない。


 やはり、このそっくりな娘は『推し』の娘とは違う──そう思いかけた時だった。


「あっ、あっ、あのっ…………………も、もし良ければっ………あた、あてゃしと………結婚を前提におっ!! お付き合いっ!!………してっ、してくらひゃいっ!!」


 そんな娘の声が耳に届いた。




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