99、帰還の翼
「はい、異世界からこんにちは!
徹底投擲チャンネルの投神ですっ
ただいま現地冒険者たちから絶賛ツッコミの嵐を受けております
冒険者カードをちょっと自慢しただけなのに…ぴえん
みんな早口なもんで聞き取れませんっ
おちつけー
そうだ
こんな時は俺の投芸を見て落ち着いてもらおう
それでは、世界を投げ投げ!」
取り出したるは八つ石でござい。
それと杖を合わせて、いきなりマックスの数でいっちゃうよ!
みんなついてきて!
「はっはっはっー、どうですか〜みなさん!」
良い具合にみんなボッカーンとしとりますがな!
「キャハハハ…!」
おうおう、背中の娘っこだけは無邪気に楽しんでる。
佳きかな佳きかな。
石を落としそうにして杖でキャッチ!
片足を上げて石をくぐらしたりもしちゃうよ。
フウがいてくれたらもっと盛り上がるのにな…。
あ、チュイもいてくれたらもっとトリッキーな展開ができるんじゃね?
ふふふっ…出来るっ!
俺には視えるぞ!
この投げで!この異世界のエンタメを支配してやる!
ふはははははーっ!
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「フハハハハハーッ」
投神さんの突然の奇行に皆んな呆気にとられて思考停止していた…。
「投神さん…調子に乗ってるわね…」
「投神さん!凄い!」
いつの間にか完全に元気を取り戻したリュウジュが投神さんのパフォーマンスに見惚れてる。
あなた、さっきまで死にかけてたんですけど…。
でも助かって本当に良かった…。
まだこのダンジョンを脱出する術が見つからないんだけどね。
何としてでも星を求める者どもさんのご助力を得ないと…。
最悪寄生するしか生き延びる術はない。
恥ずべき行為だけど、リーダーとして汚名を被ってでも皆んなを生き残らせるわ。
「ダーグさん、お教え下さい
私たちが街に戻るにはどれくらいの時間が必要でしょうか?」
「……最適ルートを選んだとして、お前たちの足では丸一日かかるのではないか?」
「丸一日…!」
「そんなにかかるのか…」
「………」
「リュウジュ様が復活されましたが、魔技使用回数までは回復しませんし…」
「ダーグさん、恥を忍んで申し上げます!
私たちが追随することをお許し下さいませんか?」
追随…、後追いは冒険者にとってダンジョン内ではタブー視される行為だ。
先行するパーティーに戦闘や罠の解除をさせて安全に移動する。
隙をみてアイテムを掻っ攫ったり、疲弊したところを襲う悪のパーティーもいるという。
そういう輩に誤解されないように、充分に距離をあけて進むのがマナーなのだ。
その恥ずべき行為を申し出る。
例えダーグさんに罵られようと、皆んなが生き残れるなら構わないわ!
「……生き残る為に足掻く
冒険者としては正しい姿勢だ
ダンジョンに潜る前に気付くべきだが…
ふむ…
帰還の為に交渉するのは私ではない
先ずあの男にすべきだろう」
「えっ?投神さん…?」
「彼が履いている靴は“靴”ではないぞ…」
「なんですか、そのなぞなぞみたいな…
って、あっ!」
「「「き、“帰還の翼”!」」」
「なんで履いてるのよっ!」
ダンジョン内にまたもや大きな叫び声が響いた…。
投神さんに履いている帰還の翼を譲ってもらうよう交渉する。
帰還の翼は最後に訪れたギルドに転移できる消費アイテムだ。
上級冒険者になれば常に何個かは収納内に所持しているという、高額だが必須アイテムらしい。
靴の形をしているのだが、実際に履く人はいない。
いないと思っていたが、履いてる人が身近にいるとは…。
破損していなければ良いのだが。
投神さんは何故靴が必要なのか分かっていないようだが、交渉に応じてくれた。
このダンジョンで得たアイテムは全て投神さんのものとした。
生きて帰れるなら安いものだ。
「それでは我らは行くぞ」
取引が成立したのを見届けて、星を求める者どもの皆さんは玄室を出ていった。
人とは相容れない存在である魔人の血を引くという魔族。
額には角も生えていて恐ろしく感じてしまうが、少なくとも彼らはとても良い人たちだと思った…。
投神さんのギルドカードはオウブルで作成されたもので、多分そこに帰還されると思われる。
一刻も早くダンジョンを脱出したい。
投神さんから帰還の翼を受け取ると消費アイテムとして使用する。
「……『帰還』」
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「こぅぉのヒヨッコどもがぁーーー!!」
オウブルのギルド中にギルド長の大喝が轟く。
命からがらギルドに戻ってきた私たちの様子を察してギルド長室に呼び出し、詳しい事情を説明させられたのだ。
すると恐ろしい顔つきのギルド長の顔がさらに恐ろしくなり、火系の上位オウガのように真っ赤な顔で厳しい叱責を受けた。
なんという迫力だ…。
いつもは飄々としているズィンでさえ、足がガクガクと震えている。
オウブルのギルド長ジャハン様のお話しは至極当然のもので、自分たちの冒険者としての至らなさを再認識させるものである。
なのだが、中央ではこんなに激しく叱られたことがないので戸惑うばかりなのだ。
中央は貴族が多く、冒険者学校にも多くの貴族の子供が入学している。
だから角が立つような指導や生命の危険が伴うような授業内容は行われない。
ギルド長は冒険者からの叩き上げの人らしく、中央の生ぬるい冒険者学校に対する不満を抱えているようにも思える。
現にこうして卒業生の私たちが問題を起こしてしまっているし、実際の戦いの現場にはそぐわない育成機関なのかもしれない…。
「投神殿は投げるのを辞めんかっ!」
「ナゼダ」
「このっ…!」
光之竜のメンバーが小さくなっているのをよそに、投神さんだけはいつものように石をクルクルと投げている。
「ちょっと目を離した隙にポーターのフリしてこんなヒヨッコどもについて行くなど!」
「ワルイノカ」
「悪くはねえ!
悪くはねえんだが、チュイ殿はどこ行ったんだ!」
「キエタ」
「消えた!?
妖精界に還ったか…
やっぱアテになんねぇな…」
「ソレヨリ、セナカノコノチリョウ」
「むっ…、そうだな
ダンジョンと同化しちまった足は辛かろう
教会で治療してもらえ
治療費はワシが出してやる」
「良いんですか?」
「あぁ、その代わりオウブルのギルドでみっちり働いてもらうぜ!」
「え゛っ…」
獰猛な笑みを浮かべるギルド長…。
上位オウガも裸足で逃げ出す程の恐ろしさだ!
「ありがとう!ギルド長!宜しく!」
リュウジュが明るく答える。
「ふんっ!
さっさと行け」
「はい、ありがとうございました」
辛そうなユアンを連れて部屋を辞そうとする。
「投神殿は残れ、話しがある」
「ヨイゾ」
ギルド長は投神さんだけを呼びとめた。
ギルド長は何となく投神さんに気を遣っているように感じるときがあるのだが…、何故なんだろう。
「それと、光之竜よ」
「は、はい!」
「ようこそ辺境の地、オウブルへ
歓迎するぜ
頑張んな」
「…はいっ!」
こうして私たちパーティーの初のダンジョンアタックは惨敗ながらも、奇跡的に終えることができたのであった…。