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98、星を求める者ども

 門を塞いでいた瓦礫を破壊して玄室に入ってきたのは6人の魔族パーティーだった。

 全員に小さいながらも立派な角が生えているのが見て取れる。

 中央ではほぼ出会うことのない魔族に緊張が走る。


「邪魔する気はなかったのだが…

 戦いか、休息か」


 魔族パーティーのリーダーらしき落ち着いた黒い剣士が冒険者のルールに則って声を掛ける。


「我々は休息を望むわ」


 もちろん私は戦う意志がないことを伝えた。


「すまんな、ウチの侍が面倒臭がりでな

 門を塞いでいた瓦礫を吹き飛ばしてしまったのだ

 私はダーグ

 見ての通り魔族だ

 この“星を求める者ども”のパーティーリーダーをしている」


「星を求める者どもですって!

 あの超有名なSランクパーティーの…!」


 その魔族のみで構成された凄腕のパーティーは中央でもよく知られている。

 メンバーの全てが超越者であり、リーダーの魔剣士ダーグはレベル200目前と噂されている。

 “未だ見ぬ地平線”と共に辺境でいま最も勢いのあるパーティーなのだ。


「私たちは光之竜

 私はパーティーリーダーのリファよ

 それで、Sランクの貴方達が何故こんな中級ダンジョンなんかに…?」


 私の問いにダーグは少し目を細めた。


「中級と侮っていては命を落とすぞ…

 我らは必要なアイテムがあってここに潜っている

 万全の用意をして、な」


「…………」


「ってゆーかお前たち、見た感じルーキーじゃねーか

 そんな装備でよく中級の奥にまで潜ってんな

 戦闘不能の前衛もいるし、もう詰んでんじゃね?」


 瓦礫を吹き飛ばしたという侍が軽い調子で指摘する。


「はい…、その通りです…

 街に戻ったら必ず対価をお支払いしますので、どうか私たちを助けてもらえませんか?!」


 この魔族のパーティーは魔族の悪いイメージを払拭しようと積極的にダンジョンで活躍し、善行を積んでいるとされている。

 私たちを助けてくれるに違いない。



 私たち“人”と呼ばれる存在には、普人族や耳長族、獣人族など多くの種族がある。

 そのなかでごく最近“人”に加えられたのが魔族だ。

 その種族のルーツには全人類の敵である“魔人”が絡んでいるとされ、忌み嫌われてきた歴史がある。

 現在では中央では勇者たちによる啓蒙活動により、善に属する者は人として神に認められた存在であると建前上は認知されている。

 しかし辺境ではいまだ迫害の対象であると聞く。

 その魔族の立場を憂いて立ち上がったのが、この星を求める者どもというパーティーである。


「駆け出しの冒険者よ

 対価はそれに見合ったものを、その場で出すのが冒険者のルールだ

 助けることは吝かではないが、今お前たちに出せる物をもって交渉すべきだ」


「そ、それは…」


「釣り合っていない取引はお互いに悪がアッドされちまうぜ?」


 侍がそう指摘する。


「お主たちがここに居るのは事故ではないか?」


「ルーキーあるある

 自分の力を過信して、実力以上のダンジョンに潜ってしまう…」


 忍者の問に、暗い感じの後衛職の女性魔族が続く。


「しかし彼らはストーンゴーレムを倒したみたいよ」


 彼女はたぶん錬金魔術師ね。

 しかも恐ろしく高レベルの…。


 ストーンゴーレムが還元されて消えた後には、魔石と見たことがない鉱石が落ちていた。


「よく、あなた達に倒せましたわね

 その鉱石のインゴットを頂けるなら、彼を回復致しますわ

 いかがかしら?」


 賢者らしき女性魔族が提案する。


「その鉱石で私たちを街に運んでもらうことは出来ないでしょうか?」


「それは無理な相談ね

 私たちはまだまだ潜る予定なの」


「では!帰還用アイテムと交換してもらえませんか?」


「それも無理ね

 帰還用アイテムは命綱

 私たちはダンジョンに潜る際、常に最悪のことを考えるわ

 脱出手段は常に余裕を持つ

 だから私たちは生き残ってきたのよ」


「………」


 Sランクパーティーでさえ、この中級ダンジョンへ潜るときにそれ程の備えを怠らない。

 これが辺境の冒険者…!


「おや…?」


 魔剣士のダーグが何かに気がつく。


「後ろのポーターは…!」

「アイツはっ!」

「確か投神…!」

「持たざる者が何故ここに?」


 ダーグたちは投神さんを見て驚いている…。

 投神さんを知っているようだ。

 私は後方に控えていた投神さんを呼び寄せた。





「また会ったな、投神殿」


「エッ…アア…ウン」


 仲が良い訳では無さそうだが、敵対している訳でもなさそうた。


「アノコハゲンキカ」


「セリシアのことだな

 無論、彼女は元気だ

 彼女はいま……、まぁ私の方からは何も言うまい

 貴殿が街に来たことは彼女に伝えておこう」


「???…ソウカ」


「アンタ、よく終絶に至る道を越えられたな!」

「耳長族のコートなんか着てるから分からなかったわ」

「あの時は済まなかった

 セリシアを先ず安全な所に保護したくてね」


 “終絶に至る道”ですって?

 辺境の果て、魔境に接する虚無の地と恐れられる終絶の地に繋がる超難関ゲートダンジョンじゃない!

 投神さんはそこを越えてきた…?


「カレヲタスケテヤッテクレ」


 投神さんはリュウジュを指差す。


「良いけど、対価としてあの鉱石を貰うわよ」


「ヨイゾ」


「ちょっと投神さん、勝手に決めないで…」


「マニアワナクナルゾ」


 よく見るとリュウジュの顔色が真っ青だ。

 内臓の損傷が酷いのかもしれない。


「投神殿の言う通りだ

 彼の生命は尽きようとしている

 ホワイン、ゾゾ、頼む」


「承知致しました」「りょ…」


 賢者の女性がリュウジュに近付き、呪文を唱える。


「なんていう魔力量なの…!」


 圧倒的な量の魔素が完全に賢者の制御下に置かれ、一つの術式を形成していく…。

 学校の先生方では足元にも及ばないレベルの高さだわ。


「………『復活』」


 輝く多重式の魔法陣は鍵呪文を受けて直視できない程の光を放つ。

 光が収まると無傷のリュウジュが穏やかな顔で寝転がっていた。


「次は私の番…、はいっ『高級回復薬』ね」


 彼女は“薬師”か!

 神秘的な薬を調合することができる唯一の職業である薬師。

 薬師によって薬を使用されると、その効果が跳ね上がるという…。


 リュウジュは薬師に薬を飲ませてもらった。

 途端に顔色が戻る。


「彼はもう大丈夫だろう」


「アリガトウ」


「正当な取引だ、礼は要らん

 鉱石を貰うぞ」


「アア」


「投神さん『解析』させて」


 錬金魔術師が突然割り込む。

 同じ錬金魔術師として、何故か少し恥ずかしい。


「ツオ、辞めておけ」


「…はぁーい」


 投神さんは確かに不思議な力を持っている。

 解析を使いたくなる気持ちは分かるわ。

 私にはまだ鑑定しか使えないけど…。


「星を求める者どもの皆様、リュウジュを助けて下さりありがとうございました」


 パーティーリーダーとして謝意を伝える。

 復活の上にあの高級回復薬では、多分だがあの鉱石一つでは賄えない程の価値があると思う。

 彼らなりの厚意、激励なのではないだろうか。


「構わん

 それよりお前たちはこれからどうするのだ?」


「はい…

 すぐにでも街に帰還したいところなのですが…」


「ここがどの辺りかも分かっていない、か…

 転移の罠を踏んだな」

「ルーキーあるある」

「お前たちはどこの街の所属だ?

 こんな危険なダンジョンアタックを許したギルド長にはクレームを入れてやる!」


「あ、その、私たちは中央の冒険者学校を出て、辺境に入ってすぐにダンジョンに来てしまって…」


「…………」

「げっ!最悪…」

「一番やっちゃ駄目なやつ」

「生きてるだけで奇跡ですわね…」


 辛辣な言葉が投げかけられる。

 確かにどれ程無謀なことだったかは、今となっては理解できるわ。


「冒険者カードは持ってるのか?」


「はい…

 冒険者学校を卒業する際に取得しました」


「オレモアルゾ」


「えっ?」「はっ?」「なにぃっ?」


「エッ…ダメ…?」


 投神さんは皆んなに驚かれたことに驚いてる。


「持たざる者でポーターの投神さんが、何で冒険者カード持ってるのよー!」


 ダンジョンの中、Sランクパーティーの前で私は大声を上げてしまったのであった…。



Sランク魔族PT「星を求める者ども」

魔剣士/男:ダーグ

忍者/男:イーシィ

侍/男:ムー

賢者/女:ホワイン

錬金術師/女:ツオ

薬師/女:ゾゾ 

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