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92、辺境のダンジョン

 先行していたジオウが走って戻ってきたあと、すぐに現れたのはのは1匹の灰色魔狼!

 一見普通の動物の狼に見えるが牙が長く伸びていて、普人族の肉など容易く切り裂いてしまう危険な魔物だ。


「前衛は囲むように広がって!

 お互いにカバーし合うように!」


 私たちはまだまだ低レベル。

 魔術使用可能回数が少なく、低階位の魔術しか取得できていない。

 だからこの程度の敵には、後衛は魔術を使わずに杖で隙をみてダメージを与えていくしかない。


「おらおらっ!『二重撃』!」


 ギャンッ!


 ズィンが魔技を使って灰色魔狼に痛撃を与えた。

 まだ本番のダンジョンに辿り着いてないのに!


「ズィン、スキルを無駄遣いしないで!」


「ちっ、わかってるよ!」


 回数制限のある魔技は強敵の為に残しておくのが冒険者のセオリー。

 戦いの本番である辺境に来て戦意(テンション)が上がり過ぎてんのね。

 リーダーとして引き締めないと。


「皆んな、こんな狼一匹に貴重な魔術やスキルは必要ないわ

 落ち着いて確実に仕留めるのよ!」


「「「おー!」」」


 そこからは派手さはないけど堅実な攻防で事故ることなく仕留めることができたわ。



「はぁはぁはぁ、どうだ!

 すげぇだろ!?投神のおっちゃん!」


「ヨクガンバッタナ」


「へへっ、何か上から目線だな〜。」


「皆んな怪我はない?」


「「大丈夫だ」」


 皆んなの自信に繋がる戦いだったわ。

 でもまだここはゲートダンジョン。

 これからよ!


「皆んな、始まったばかりよ

 気を緩めないで

 アイテムを回収したらすぐに出発するわよ」


「「了解」」


 灰色魔狼の肉体はダンジョン内に還元されていき、水と小さな魔石が残された。


「魔石だけか…」


「下位の魔物はアイテムが残りにくいのよ

 魔石はとりあえず私がもっておくわ

 では出発!」




 しばらくして分岐点に着いた。

 初級と中級の入り口に分かれているのだ。

 私たちが進むのはもちろん初級ダンジョン。

 実力に見合ったダンジョンを選ばないと事故るだけ。


 初級ダンジョンは下位のゴブリンやスライムなどがメインに出現するダンジョンで、罠も少ない。

 先ずはここで経験値とアイテムを稼ぐのよ。

 それが冒険者のセオリー…!


「初級なんてかったりーぜ、中級だ中級!」

「そうだな!僕の直感もこっちだって言ってる!」

「初級程度は学校で散々こなしましたわね

 中級で問題ございませんわ」

「我が暗黒の黒魔術の真髄を見せてやるわ……ククククッ」





「ミンナイッテシマッタゾ」


「あいつら!

 リーダーを置いていくってどういうことよ!!」


 私と投神さんを置いて、皆んなはさっさと中級のダンジョンに入ってしまった。

 確かに冒険者学校では初級に相当するダンジョンで訓練を積んできたけど、本場辺境のダンジョンは初めてなのに!


「もおっ!仕方ないわね…

 行きましょ、投神さん」


「アア

 ……モシ、タスケガヒツヨウナラ、ナゲロト、イエ」


「えっ…?

 あぁ、ありがとう…」


 ポーターの彼に戦闘をさせてはいけないし、そんな状況に陥るということは既に攻略は破綻しているのよ。

 もし冒険者ではないポーターがダンジョンで傷付くことがあれば、連れてきた冒険者にペナルティとして悪にアッドされると云われている。

 そんなカルマ値の話しじゃなく、私たちのプライドが許さないわ。

 でも気持ちだけは有り難く受け取っておくわ、投神さん。






「あなた達ねー!

 慢心してたら痛い目にあ…」


「敵だ、リファ!」

「不確定だがゴブリンが数体!」


「戦闘配置!」


 現れたのは6体のゴブリン!

 しかもただのゴブリンではない、ゴブリンファイターだ!


「ヤバいの来たな…!」

「大丈夫!皆んなで力を合わせれば切り抜ける!」

「やはり投神さんは破滅を呼ぶ使者なんだわ…」

「穢らわしいゴブリンども!

 殲滅有るのみわ!」


 リュウジュと白魔術師シーティだけがやたらやる気に満ちていて、他は怯えが見える。

 整えないと!


「皆んな落ち着いて!

 ゴブリンファイターは1体では大した力はないはず!

 いつも通りの連携でいけば、負けることはないっ!

 1対多数にならないように!

 逆に数人で1体を速攻で倒すのよ!」


 皆んなを鼓舞し、状況を有利なものに運ぶように指示を飛ばす。

 冒険者学校時代からの連携は体に染み付いていて、指示通りに陣形を整えられた。

 突出したゴブリンファイターに前衛の三人が攻撃を加える!


 ガキィ!


「何だと?!」


 ズィンの素早い攻撃がゴブリンファイターを捉えたように見えたが、横合いから別のゴブリンファイターかそれを防いだ…!


「これは連携…!」


 敵が私たち冒険者と同じように連携を使うなんて!

 …焦ってはダメ!

 同じ種族が群れを形成している場合、連携することがあるって習ったじゃない!


「相手は連携する

 悪の冒険者パーティーと戦っていると思って行動して!」


「「お、おお!」」


 6対6で数は同じ。

 違いは向こうは全員が戦士系。

 全員がウチの前衛と同じぐらいの力量をもってるようね。


「打破するのには… 

 ユアン、火の壁で敵を分断して!」


「えっ……味方を巻き込む未来が視えるわ…」


 ユアンは切羽詰まるとすぐに悲観的になって動かなくなるのだ。

 黒魔術師としての才能は素晴らしいんだけど…。

 第九位階の黒魔術が取得できたら、すぐに転職させてやる!


「ユアン、巻き込んでも()()()()()()壁を作るのよ!」


「えっ…!」

「ちょっ…ひでぇ!」

「リファ様、それはあんまりでは?」


「いいのよ!

 このままではジリ貧なのっ!」


 少し乱戦になりつつある今、範囲攻撃魔術は重大な事故の元だし、私たち後衛の直接攻撃は牽制にもならない。


 ここでカードを切るしかないんだわ!


「ククククッ…全てを燃やしてやるわ…!

 …………『火之壁』!」


 ゴオウゥ…!


 薄暗いダンジョン内が火の壁により煌々と照らされる。


 ギャッ!グゲゲゲ…!


「あちっ?!あちちち!

 何をしやがるんだ、ユアン!」


 火の壁は敵を横断し、2と4に分断することができた。

 ズィンが少し焼かれたみたいだが、白魔術で治せる範囲の傷だろう。


「…ちっ」

「なんで残念そうなんだよ!」

「ハハハッ!丸焼けになるところだったね!」


「火の壁が効いている内に、2体の敵を倒しきるわよ!」


「「「おおー!」」」




 私たちは6対2の状況を作り出し、先ず2体を倒すことに成功した。

 火の壁が消える頃に残りの4体も火の壁で分断して有利な状況で戦うことができ、何とか全滅させることに成功した。




「はぁはぁはぁ、やったぜ…!」

「みんな!頑張ったな!」

「強敵でしたわね…」

「我が黒魔術の前に敵は存在せず…ククク」


「皆んな、中級ダンジョンは私たちには早すぎない?」


 6体のゴブリンファイターがこのダンジョンの平均的な強さなら何とかなるかもしれないけど、もしさっきの敵が最低レベルなら私たちでは太刀打ちできないダンジョンだわ。


「大丈夫に決まってんじゃんかよ、リファ

 6体のゴブリンファイターに大したダメージもなく勝利したんだぜ、俺たちは!」

「俺たちは!強い!」

「ま、一番のダメージはユアンにやられたんだがよ!」

「はっはっはっは」「うふふふふ…」


 皆んなが、楽しそうに笑う。

 でも、私は笑えない。

 ダンジョンの怖さを私は知っているもの…。


「皆んな、アイテムが残ったぞ!」


 斥候のジオウが私たちを呼ぶ。

 見るとアイテムが3つも残されている。


「剣だ!」

「長剣と小剣と盾か!やったな!」

「これは…幸先がよろしいですわね」

「杖が良かった…」

「ゴブリンファイターは杖を持ってなかったから仕方あるまい…」


「ちょちょちょ、これは鑑定しないといけないわ!

 呪われているかもしれないし!」


 今まで得たことのない装備品に心が踊る!

 どれぐらいの攻撃力があって、どんな効果を持っているのか?

 秘密を解き明かすのは私よ!


「あ〜、錬金術師だもんな…」

「でも!今使っている武器より良いものなら交換すれば!」

「探索が楽になりますわね…」

「じゃあリーダー、鑑定頼むわ」


「まっかせなさい!」


 ますはその最も高品位に見える長剣からよ!


「…………『鑑定』!

 …きゃあ!」


 弾かれた!

 鑑定を失敗したの…!?

 冒険者学校では一度もミスったことはないのに!


「あ〜、やっちまったか…」

「しょうがない!レベルを上げよう!」

「呪われましたか?それとも状態異常?」


 白魔術師のシーティが心配そうに訊いてくる。

 鑑定に失敗するとペナルティが発生する場合がある。

 多くは宿に戻るまで再度鑑定系を使えないというものだか、装備品が呪われていた場合は呪いもらうことがあるらしい。


「呪いは大丈夫みたい…

 状態異常にも掛かってないわ」


「そう、それは良かったですわ」

「じゃあ鑑定は街に戻ってからか…

 能力が分からねぇし、とりあえず収納に入れとくか」

「そうだな!僕はこの剣で十分に戦える!」

「…魔石は全て回収した

 出発するか?」


 ジオウに問いかけられるが鑑定をミスったことに衝撃を受けていて、返事が出来ないでいた。


「おう、行こうぜ!」

「もっと良いものが!手に入る気がする!」

「冒険者学校を代表するチームとしては、少しでも探索を進めたいところですわね」





「……イッテシマッタゾ」


「はっ!?…あいつら!

 待ちなさい!

 私がリーダーよ!」



 勝手に先へと進むメンバーを追って、ダンジョンの奥へと進むのであった。


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