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91、光之竜

 服を買おうとぶらぶらしていると若い冒険者パーティーに声をかけられた。

 ダンジョンに一緒に行こうというお誘いである。

 断ることは簡単だが、折角のお誘いだ。

 話しを聞こうか。

 あ、でも俺ってギルドカードはあるけどパーティー組めないんじゃなかったっけ?

 自分のステータスも開けないし…。



「⊆∃∑∵∃はダンジョンで得た∈Ω∇∶∉を∝∶Ω∂Ωで頭割り

 アイテムは売値で∠∂∝Ωするわ」


 ちょっと勝ち気そうな女の子が条件を提示している。

 粗末なローブと杖持ちだから魔術師系かな。


「おっちゃん、罠の∇η∂は俺たちがもらうが、若返りはおっちゃんが食らったら良いぜ!

 どうだい?」


 軽い調子で話しかけるのは軽装の男の子。

 なんとなく背伸びしてる感があってかわいく思える。

 しかし若返りとな?


「若返れるのか?」


「いいぜ、俺たちはリアルで若いからよ

 おっちゃんにやるよ!」


「あぁ…」


「でもこのおじさん、リュック持ってない…」


 ちょっと暗めの女の子は魔術師っぽい。

 黒魔術師だろう。


「リュック?

 あ〜、どっかの宿に置いてきたな…

 もう一個買うか」


 フウおすすめの宿を定宿にしてて、そこに荷物を置いてきたんだが、どこの街か分からん。

 分かったところで跳べないし!


「おじさん、気に障ったらごめんなさい

 その喋り方はこの辺りの⊆∃∋∶Ωなんですか?

 私たちは∧∷∃∆∂から来たばかりなので、分からないことが多くて…」


 俺の喋り方について訊いてきたのは、恐らく白魔術師のまじめそうな女の子だ。

 凛としていて、生徒会長タイプだな。


「ああ、俺はすごく田舎者で、しかも持たざる者だ

 喋りも変だし、聞き取るのも難しいところがある」


「「「ああ…」」」


 みんな驚いているようだが、憐れむでもなく蔑むでもなく、平静を装おうとする感じだ。

 差別はダメ、と教育を受けてきたような反応だな。


「大丈夫さ!

 ダンジョンで得たアイテムを運んでもらうだけなんだから!」


 最初に声をかけてくれた戦士風の男の子がニカッと屈託もなくに笑う。

 良い子〜。


「じゃ、このおっちゃんにリュックをプレゼントしてからダンジョン行こうぜ!」


「良いな、そうしよう」「うんうん!」


 軽い口調の男の子の意見にみんな同意する。

 俺はダンジョンで荷物を運ぶだけのようだ。

 いま手元に武器は八つ石しかないからちょうど良いかも。

 断るにも断り方が分からんし、お言葉に甘えよう。

 何だか若い子に混じって遠足行くみたな感じだが、楽しそうじゃないか。


「みんな、ありがとう

 俺は投神、宜しくな!」


「「「宜しく!」」」



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「ちょっとリュウジュ!

 ポーターを勝手に選ばないでくれる?

 投神さんは良い人っぽいけど、変な人だったらどうするのよ

 これからは皆んなに相談してよね」


「あ〜リファ、ごめんごめん!

 投神さんを見たときに、この人が良い!って思ったんだよ」


「…もお」


 私たちのパーティー“光之竜”の戦士であるリュウジュはいっつもこうだ。

 結果的には上手く行くことが多いので強く言えないのだけど、パーティーリーダーとしては注意しておかないと。


「まあまあポーターさんぐらいで目くじら立てるなって」


「ズィン!

 ポーター選びは大事だって冒険者学校で習ったでしょ!?」


 もう1人の戦士のズィンが軽口を叩く。

 根は良い奴なんだけど、わざと悪ぶるというか…。

 冒険者はこういう感じという憧れがあるのかも知れない。


「あの男は危険だわ…

 全てを破壊し、滅亡を運ぶ暗闇の使者…」


「ユアン様、不吉な言葉を軽々しく使ってはなりませんよ」


 黒魔術師ユアンのボソボソと呟く言葉をたしなめるのは白魔術師シーティ。

 ユアンは内向的でオカルト好きなところがあるけど、黒魔術師としての力量は学校でも抜きん出ていた。

 シーティは貴族であるが、冒険者に憧れて白魔術師になった、白魔術師部門ではトップの成績の才女だ。


「リュックはこっちに売っている」


 皆んなを先導してくれるのは斥候のジオウ。

 斥候は寡黙であるべきという、流儀を貫いている。


 私たちは王国中央の冒険者学校で優秀な成績を修めた生徒でパーティーを組んだ言わばドリームチームだ。

 凶悪なダンジョンと魔人との戦い、そして高ランクパーティーがひしめく辺境に憧れて、中央からこの辺境の中では一番大きい街のオウブルに来た。

 必ずこの戦争に打ち勝ち、光之竜というパーティー名を世界に轟かせるのよ!


「行くよ〜リファ」


 何も考えてないような顔のリュウジュが声をかけてくる。


「分かってるわよ!」


 アクの強いパーティーをリーダーの私がしっかりまとめていかないといけない。

 そう再認識して皆んなの後を追った。

 




「リュックはこのぐらいのサイズが良いんじゃない?」

「そうだな~投神のおっちゃん、結構ガタイがいいからもうちょい大きいのでもイケんじゃね?」


 皆んな楽しそうにリュックを物色している。

 辺境の市場というだけでテンションが上がってしまうのね。


「リュックをプレゼントするにしても、専属のポーターになって貰わなきゃ元がとれないわよ」


「リファ、これはぼくたちの気持ちだよ!」

「リュウジュの言う通りだぜ、リファ

 投神のおっちゃん、困ってんだからよ

 リュックぐらい買ってやろうぜ」


「それはそうだけど…

 でも私たちは大きな視点で人助けをすべきなのを忘れないでよね」


「うん!俺たちの手で戦争を終わらせるんだ」


 何の屈託もなくそう言えるリュウジュが眩しく感じてしまう。

 でもリュウジュなら本当にそうできると信じてしまいそうになる不思議な魅力がある…。


 今までも彼は不可能を可能にしてきたわ。

 パーティーランクを上げて、いずれSランクに。

 そしてEXダンジョンで強力なアイテムをゲットして、ダンジョンを攻略し、魔人に勝つ…。

 全人類の悲願である、異世界を退けるのよ!

 勇者と肩を並べるような英雄に…!

 光り輝く竜のような存在になるのが私たちの夢。

 リュウジュとなら、このパーティーなら叶えられるかも知れないと思ってしまったのよね…。


「もお

 …さっさと買ってダンジョンに挑みましょう」


「「はーい」」





「はい、投神のおっちゃん

 このリュックを使ってくれ」


「オオ、アリガトウ…」


 投神さんはコートの上からリュックを背負った。

 多分、コートの下は何も着ていない。

 健康そうだけど、大変な生活を送ってきたようね…。

 リュウジュは優しいから、きっと放っておけなかったのね。


「もお!

 皆んな、ダンジョンでしっかり稼ぐわよ!」


「「「おー!」」」




 オウブルの城壁外のゲートダンジョンに入る。


 投神さんはゲスト枠に追加して、最後尾についてもらう。


 私たちはまだ転移系の魔術は取得できていないから、歩いて初級ダンジョンに向かう。

 ゲートダンジョンでも稀に魔物は出現すると聞いているので、気は抜けない。


 先導するのは斥候のジオウ。

 まだまだレベルは低いが、なかなかの罠解除率を誇る。

 彼は転職せずに一角獣(ユニコーン)でいくつもりのようだ。


 私たち光之竜は基本的なパーティー編成をしている。

 前衛は戦士・戦士・斥候。

 後衛は白魔術師・黒魔術師・錬金術師である。

 初期はこうあるべきと冒険者学校で習ったし、合理的だと思えたからだ。


 そしてレベルを上げて中級職、上級職を目指す。


 リュウジュはいずれ竜騎士になると強く心に決めている。

 同じく戦士のズィンは軽戦士を経て魔剣士や侍を狙っているようだ。

 後衛組はパーティーバランスや、ダンジョンで得た装備を見て魔術師系を回していくつもり。

 個人的には最終は賢者に落ち着きたいかな?


 何はともあれ、レベルを上げなければ話にならない。

 ダンジョンで魔物を倒しまくるのよ!



「敵だ!不確定だが獣系の魔物!」


「みんな、戦闘配置について!」


「「おー!」」



 辺境での最初の戦い…。


 ここから私たちパーティーの快進撃が始まるのよ!



光之竜パーティー


リュウジュ・シウ・ミン/戦士/男

ズィン・シャン・シャヤー/戦士/男

ジオウ・プメイ・ナン/斥候/男

ユアン・ポン・メイ/黒/女

シーティ・ドゥン・イー/白/女

リファ・スゥ・リー/錬金/女/リーダー

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