87、尋問
投神殿はワシの威圧的な視線にも全く動じることはなかった。
恐れるでもなく反発するでもなく。
ロールを持たない者の胆力ではないな。
彼の元々の世界では優秀な冒険者だったんではなかろうか。
彼は俺の目をじっと見つめながら口を開いた。
「オレガコノセカイニキタノハ、グウゼンダ
デキレバマチニスマワセテホシイ」
「断ったら?」
「サガスシカアルマイ
ジブンヲウケイレテクレルバショヲ…」
ふむ…。
「投神殿は知らないかもしれないが、この世界は異世界である魔人の世界からの侵略を受けているのだ
お主も潜ったであろうダンジョンは魔人が住む世界からの侵略装置であり、その内部は半ば異世界なのだよ
異世界はダンジョンを通して魔物や魔人を送り込み、この世界を魔素で満たし、彼らの住みやすい世界へと作り替える気なのだ
だから我々は冒険者を組織し、ダンジョンを潰して異世界に対抗している
現在は膠着状態を何とか保っているが、少しでも歯車が狂えばたちまちこの世界は乗っ取られるだろう
夜空に浮かぶ虚ろに光る満月を見ろ
日に日に大きくなっておるだろう?
あれが奴らの世界だ
あの虚月と我々が住むこの星が重なるとき、奴らの侵略は完了すると云われておる
学者によればその猶予は1年とも…
我々は非常に危うい状況なのだ
そんな中、お主は異世界からやって来たという
あの侵略者である魔人の世界とは別のな
第三勢力の出現となれば世界を揺るがす事態だ
鑑定では善ということだが、属性を操れるアイテムもあると分かったいま、お主を調べさせてもらう必要があるのだ
解析と念話による調査をさせて頂く
よろしいな?」
『そうやって尋問して拷問にかける気だわ』
「滅相もない!
いくつか質問させて頂くだけでございます」
「カマワヌ
…ヨクワカランガ」
「よし
アオボを呼んでこい
アイテム造りに没頭しとるだろうから、異世界人を解析させてやると伝えろ」
「承知致しました」
忍者のカイファーが退出する。
『めんどくさいわね』
「投神殿に悪意がなくとも、もしこれから投神殿の世界から魔人のように大挙してやって来られたら、大変なことになります
ギルドとしては嘘のつけない念話で裏取りをしておきたいのですよ」
『投神はね、世界を救う為にきたのよ』
「ハァ?!」
『ヱ?オレガ?』
『そ、だって私の相棒なんだから
それぐらいやるわよ、ね?』
「ネッ、テイワレマシテモ…」
「………」
その時ノックもせずに扉が勢いよく開かれた。
「どこですか異世界人は!」
寝不足なのが見てとれる目の下の隈、ボサボサの髪の毛のアオボが血走った眼をギラギラとさせながら詰め寄ってきた。
「これは妖精族!
珍しい!…『鑑…』ふぎゃっ!」
断りもなしに鑑定をかけようとしたアオボに手元のペンを投げつけて後頭部に突き刺してやった。
「ナイスダ…!」
「申し訳ございません、チュイ様
ギルド付きの錬金術師が大変失礼を…」
何故か投神が親指を立てて深くうなづいている。
『ふん、どうせ弾いたけどね
今の世の中じゃマナー違反よ』
「はい、すみません…」
「…こっちが異世界人!
ギ、ギルド長、解析させて下さい!」
「落ち着けアオボ
挨拶ぐらいしたらどうだ」
「あ、はい
ギルド付き錬金術師のアオボでございます
お見知り置きを
それでは…………『解析』」
「…ったく!」
こいつは優秀な高レベル錬金術師なんだが、常識がなさ過ぎる。
まぁ常識に囚われないからこそ、新しいアイテムを創造したりできるのだが…。
「うひょー!これは興味深い!」
「…アオボ、結果を書き出せ」
「はいはい!」
無駄に美しい書体で投神殿の解析結果を紙に書き出した。
「お前たちからだいたいの内容は聞いてはいたが…、奇妙なステータスだな…」
「称号増えてるにゃ!」
「橙色の大道芸人?」
「投神殿は経験値を得ても仕方がないが…」
「アオボ、このステータスをどう見る?」
「おっほん、それでは解説させて頂きますね
先ず投神殿は職業を得ておられません
よってアイテムを装備できませんし、収納はありません
偽ろうにもアイテムを使用できないので、投神殿の属性は善で確定でございます
また、注目すべきは魔力が0というところです
魔声帯をお持ちでないのと、魔力が全く無いというのは別問題
魔人の世界由来の生物はすべからく魔力があります
よって投神殿は魔人の世界とは別の世界の出身ということが推察されます
しかも魔力がない、必要のないない文明が発達した世界のね
そして称号を見る限りでは何者かの意志を反映して、この世界に遣わされた使徒というような選ばれた存在、という訳ではなさそうに思います
偶発的に訪れた稀人、といったところではないでしょうか
ただ一つ怪しいのが、補正のカッコ神…
通常、カッコの中には弱中強、もしくは低級中級上級、そして特級などの表記が知られています
それらの上のランクという意味の『神級』という扱いなのか…
それとも、『神』の力そのもの、か…」
「ううむ…」
「投神殿は異世界不思議パワーと呼んでおられました」
投神を終絶の地で保護したパーティーのハルゥーカが発言する。
「なるほど…
神の意志で行う所業にしては、軽すぎる呼び名ですね」
確かに神が絡んでいるのなら、もう少し厳かな名称をつけるだろうが…。
「それではアオボ、念話で投神殿の意志を読み取ってくれ」
「念話ですか⁉
……了解致しました」
念話とは魔術師系の中級職以上で取得可能な魔術であるが、あの忌まわしい事件の後からはタブー視されているのだ。
アオボが少し嫌がるのも無理からぬことだが、ギルドとしては確認をとるべきだ。
「…それでは念話を使いますね」
こうしてアオボによる念話での調査が始まった。
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『あ、あー、コホン、投神殿、聞こえますか?』
『聞こえるぞ』
『良かった!念話なんて使うの久しぶりでしてね
ちゃんと通じるか不安だったんですよ』
『ちゃんと聞こえている』
『はい、それでは私アオボが質問させて頂きます
念話では嘘をつくと、嘘をついているという認識が伝わりますので、真実をお話し下さいね』
『承知』
投神殿からは穏やかで安定した感情が感じられる。
何度か念話を経験されているようだ。
『投神殿はこの世界をどうしたいですか?』
『どうしたい?
俺がどうこうできる訳がないだろう』
『出来るとすれば?』
『出来たとしても何もせん
俺は部外者であり、この世界に間借りして住まわせてもらう身だ
この世界の行く末は、この世界の者が担うべきだ』
『……では、質問を変えます
投神殿はこの世界の人々をどう思いますか?』
『…俺は人の住まう街に来たばかりで、知り合った人数は少ない
その少ない人数をもって、この世界の人々を語ることはできん
…ただ、その数少ないが出会った人々を見て思ったことは、同じだということだ』
『同じ…?』
『そうだ
前の世界の人々と同じだ
良い人もいれば、悪い人もいる
それは良い人でも悪い人でも、等しく良い面と悪い面が混在していて、相手によってその見え方は変わるものだ
完全な善などなく、完全な悪はなどない
魔人とやらは知らんがな』
『興味深い考え方ですね
我々は属性が善なら神から赦された善なる存在、悪なら存在を否定された悪なる存在と断定されます
そして悪なる存在は即、抹殺対象です』
『らしいな
戦時中の非常事態ならその方が分かりやすいだろう
その判断を神が下してくれるなら、なおさら気が楽だろうさ
人が人を裁くその責を、神が肩代わりしてくれるんだからな
だが俺が見た限り、悪のやつらにも信念があり、そのルールの中で精一杯生きている
お互いの立場が許容できないものなら、これからも戦うことになるだろう
ただそれだけだ』
『属性は関係ないと?』
『俺にはそれが見れんからな
俺はこの世界の法をことさら犯すつもりはないし、平和に暮らせればそれに越したことはない
だが、俺の信念に従い戦うこともあるだろう
その結果、この世界から悪とみなされようともな』
『…この世界の者としては、なかなか危険な考えをお持ち
と言わざるを得ませんね』
『だが概ね俺の善悪基準と相違ないと思うぞ
現時点での俺の属性とやらは善なのだろう?』
『はい、貴殿は善に属する者です』
『ダンジョンでモンスターを狩るのは、この世界の法に抵触するのか?』
『それはもちろん大丈夫です
むしろ我々としては有益な行為です』
『では、この世界に住まわせてもらう代償として、ダンジョンでモンスターと戦おう』
『なるほど、よく分かりました
そのようにギルド長に伝えましょう』
私は一度念話を切り、念話の内容をギルド長に報告する。
投神殿の精神は嘘を語るものではなく、自信に満ちていたことも併せて伝えましょう。
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現状能力
◇名前:投神 ◇種族:普人族 ◇年齢:29
◇職業:--- ◇階位:--- ◇属性:善
◇体力:10 ◇腕力:10 ◇敏捷:10
◇魔力:0 ◇信仰:10 ◇幸運:10
◇白魔術:0/0/0/0/0/0/0/0/0
◇黒魔術:0/0/0/0/0/0/0/0/0
◇錬金魔術:0/0/0/0/0/0/0/0/0
◇召喚魔術:0/0/0/0/0/0/0/0/0
属性攻撃率
◇地:0% ◇水:0% ◇火:0% ◇風:0% ◇空:0% ◇聖:100% ◇闇:0% ◇練:0% ◇竜:0%
属性防御率
◇地:0% ◇水:0% ◇火:0% ◇風:0% ◇空:0% ◇聖:0% ◇闇:100% ◇練:0% ◇竜:0%
状態異常発動率
◇睡眠:0% ◇猛毒:300%※ ◇沈黙:0% ◇混乱:0% ◇麻痺:0% ◇魅了:0% ◇石化:0% ◇消失:0% ◇即死:0%
※毒武器攻撃時のみ発動
状態異常抵抗率
◇睡眠:150% ◇猛毒:300% ◇沈黙:120% ◇混乱:150% ◇麻痺:120% ◇魅了:200% ◇石化:120% ◇消失:120% ◇即死:120%
◇魔技
◇灮闡能力
◇称号
『界を渡りし者』
詳細不明
『地形破壊者』
地形を破壊する場合、体力・腕力値に補正(小)
『孤軍奮闘』
単独で魔物と戦闘する場合、体力・腕力・敏捷値に補正(中)
『不死之王の呪いを破りし者』
聖属性攻撃率上昇。闇属性防御率上昇。一部の状態異常に対する抵抗力上昇。
『蠱毒の壺に残りし者』
全ての状態異常に対する抵抗力上昇。毒の武器を使用した場合のみ、猛毒の状態異常発動率上昇。
『異世界樹の守り人』
詳細不明
『橙色の大道芸人』
橙色の装備で神賑を行った場合、獲得する経験値が上昇。
◇その他
・投げることにのみ補正(神)
・吟遊詩人フウ・ユウ・エンと『芸能ユニット』契約中
・黒魔術師チュイ・ゾゾムと『妖精之契』契約中
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