83、破壊者
強烈な光を伴う大爆発を受けて、俺は木っ端微塵に吹き飛ばされた……かと思ったが、何かの力に守られたようで何とか命は助かった。
しかし身体中に重度の火傷を負い、左半身はズタズタに破壊されてしまった。
痛みで意識を手放しそうだが、いま気絶すればそのまま二度と目を覚ますことはない。
全身の神経が焼き切れそうだけど、目を閉じることはできない。
フウ…は…、フウはどうなった?
辺りは塵が巻き起こり、視界が悪い。
目にも損傷があるようではっきり見えないが、フウは地面に倒れ伏していて、意識を失っている。
九ノ一も同様に倒れているが、二人ともかろうじて生きているようだ。
ダンジョンの壁は大きく崩れていて、爆発の威力の凄まじさを物語っている。
3人の身体がバラバラになっていないのが、かえって不思議な程だ。
よく見ると俺たち3人が立っていた場所の周囲だけ地面が崩れていない。
もしかしたらフウか九ノ一がバリヤ的なものを使ってくれたのかも知れない。
だが、このままではどの道ヤられてしまう。
片手でアクエルオー様のキャップを開けて水を飲む。
魔法のようには急激には治らないが、ジワジワと効いてくる筈だ。
「フウ…、飲めるか?」
応えはない。
とりあえず体に水をかけておく。
「九ノ一、飲めるか?」
こちらも応えはないので、水をかけた。
経験上、水を飲むのが一番効果があるので、無理やりにでも飲ませよう。
水を口に含み、フウに口移しで水を与える。
同じように九ノ一にも飲ませてやった。
緊急事態なので下心はない。
何せみんな死にかけのボロボロだ。
生き残ってくれよと祈るばかりだ。
この世界のルールは依然分からない。
善悪の基準もだ。
前回、あいつらに襲われた時は状況がよく分からないから生命を奪うまではしていない。
でも今回は違う。
自分の生命を、大切な者を守る為に戦わずして何とする!
例えその行為の結果、この世界で悪の烙印を押されようとも、俺は甘んじて受けてやる!
生きる為に殺す。
本当の意味で、これが俺の最初の戦いだ。
「投神、参る」
ビニール袋に手を突っ込む。
もう感触だけでどの石かわかるようになった。
俺にとって一番厄介なのは魔法、魔術だ。
物理化学法則を無視した力に理解が追いつかない。
今はビニール傘や槍などの長物は携帯してないから魔法、魔術を防ぐことができない。
あの凶悪な爆発の魔術をもう一度打たれれば、軽く全滅だ。
このハツ石で魔術師を殲滅しないといけない。
あ、そういえばコレも持って来てたな…。
せっかくだから使ってやろう。
お返しだ!
「両頭の巨大犬の爆弾肉玉、喰らいやがれ!」
シュンッ! ドッゴオオオオォォォーーーーンッッ!
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「ゴフッ…な、何が起こった……?!」
初っ端に最終究極魔術爆発をブチ込んでやって、奴らには甚大なダメージを与えた筈だ。
魔素が落ち着いてからもう一発撃ち込んでやろうと身構えていたら、大爆発。
奴らは無職と吟遊詩人と忍者のパーティー。
あの気色の悪い吟遊詩人は黒魔術師を使えるようだが、ダメージを喰らってこんな最終究極魔術爆発と同程度の威力の魔術が使える訳がない。
「エンマ!チョンティ!」
ちっ!黒魔術師のエンマと賢者のチョンティがヤられたか。
さっきの爆発は魔術攻撃じゃねーな。
耐魔術防御が高くて、物理防御が低い奴らのダメージがでけぇ。
何らかのアーティファクトを使いやがったな。
「ティシィ、回復しろ!」
「承知致しました……『配給』」
家政婦ティシィが持つ上級回復薬を全員の頭上に配らせる。
各自薬を飲み干し、HPを全快させた。
2人ヤられたが、こっちは魔剣士の俺と家政婦、狩人、召喚魔術師がいる。
向こうは回復役がいねぇから余裕だ!
「ッハァ!ジンシャ、乱れ打ちだ!」
視界が悪いが矢の乱れ打ちなら丁度良い。
ハリネズミになりやがれ!
「…『乱れ打ち』」
狩人の魔技により、弓矢によるランダムな遠距離全体攻撃が発動し数十本の矢が間断なく打ち込まれた。
この視界の悪い中では躱すことは不可能だ。
シュシュシュシュルルルル…!
「…ヤハナゲルモノ」
ザクッ!ザクザクッ!
「ぐっ!矢が打ち返されただと?!」
砂煙の中から今しがた放たれた矢が跳ね返ってきて、俺らのパーティーに襲いかかった!
そんな魔技は聞いたことがねえ!
こん訳が分からん攻撃は投神の野郎だ。
砂煙が邪魔だ!
「魔剣、『風之障壁』付与、オラァ!」
矢と砂煙を吹き飛ばす為に魔剣を使う。
視界が晴れた。
そこにはボロボロの二人をかばうように立つ、さらにボロボロの投神がいた。
「投神ぃぃ〜!」
こいつを見ると何故か心がざわつく。
匂いでわかる、こいつは俺と同類だ。
同類の癖に、何でそんなに汚れてねぇんだよ!
ギッタギタにして絶望の淵に蹴り落として泣き叫ばしてやる。
「シェレン、あれを呼び出せ!」
召喚魔術師のシェレンに指示をだす。
召喚魔術師自身は攻撃力も防御力もカスだが、強力な魔物を捉えることができれば使えるロールだ。
不死王之杖のSP開放で不死之王を量産して捉えたのだ。
実験で奴隷が数百ぐらいおっ死んだが、不死之王を使役できるなら十分に元はとれたぜ。
「ヒヒッ…………召喚『不死之王』」
召喚魔術の魔法陣が光り、不死之王が現れる。
骸骨の顎が開き、この世の全てを呪うかのような耳障りな声が発せられる。
スケルトンを召喚したようだ。
数十体のスケルトンは主である王に呼応するようにカタカタと顎を打ち鳴らしていやがる。
「ヒヒッ、さっさと殺れ!」
その声が号令となり、スケルトンは一斉に動き出した。
なかなか素早い動きからすると、かなりの上位種のようだ。
ボロボロの投神ではひとたまりもあるまい。
その時、歌が聞こえてきた…。
「…死は安らぎの中
とこしえの闇の揺籃
あなた達の安寧は地の底にこそある
さあ眠ろう
ここは明るすぎるよ
さあ眠ろう
すべきことは何もないよ…」
薄暗いダンジョンの中にか弱くも響く歌声。
それを聴いたスケルトンがカタカタと崩れ落ち、土に還っていく。
「吟遊詩人の鎮魂歌か!」
ちっ!あの野郎、息を吹き返しやがった。
「ヒカリヲ…、ハラエセキエイ」
シュンッ! シュバンッッ!
「なんだとっ!」
不死之王がいきなり消滅した!
投神が何かを投げたのは見えたが、あの不死之王が一発で消滅させるとは…。
キラキラと神聖な光が漂っているから聖属性攻撃だろうが、吟遊詩人の歌が地味に効いてるのか。
「シェレン、もう一度召喚しろ!」
「ヒヒッ…、ヒィッ⁈」
投神が突っ込んできた?
返り討ちにしてやる!
「魔剣『炎之槍』付与、おらぁ!…って、いねぇ?!」
シュンッ バギンッ!
「なっ?!シェレン!」
投神に向けて剣を振るったが、その先に投神はおらず、いつの間にかシェレンの隣にまで来ていやがった。
シェレンに飛びついたと思ったら、首をねじ切るようにして投げ飛ばしやがった!
『首切り』ならぬ『首折り』の即死攻撃なんざ聞いた事もねぇ!
「お前は後衛職じゃねぇのかよ!」
「魔技『必中』」
シュンッ
ジンシャが狩人の魔技を使った!
この矢は絶対に当たる!
「ヤハナゲルモノダッツーノ」
シュゥンッ! ズダンッ!
馬鹿な!
飛来した矢と共に回転して投げ返しやがった!
しかもさらにスピードが増してやがる。
ジンシャは咄嗟に左手で庇ったが、矢は腕を貫通して鎖骨を砕きやがった。
「無茶苦茶だ!」
こんな戦い方があるなんて…!
冒険者のセオリーが、ルールが、常識が通じねぇ。
破壊者だ…。
「まさか!…盟主が言ってた予言の『破壊者』とはお前のことか?!」
「タタカイサイチュウニホウケルナ」
まただ!
投神が妙な動きをして、急に接近してきやがった!
投神の手が伸びてくる…。
その手を見て、ようやく俺は理解した。
投神は強いんだ、と…!
この世界の常識をルールをぶっ壊すのが、悪のギルドと呼ばれる俺たちの使命。
それなのにロールやレベルやスキルの範疇でしか考えられてなかった。
常識に縛られちまってた…。
あぁ、死に直面すると過去の行いが頭を駆け巡るって言うけどホントだったんだなと、一瞬の世界の中でぼんやりと感心している自分がいる。
投神という死神の手が俺に触れる。
死んだな…
「させません!」
ズガンッ!
「…ヤルナ、メイド」
盟主から貸し出されている家政婦のティシィが斧で攻撃を加え、間一髪のところで投げられるのを防いだ。
「ティシィ、手前ぇ…」
見殺しにしても良かっただろうに…。
そんな必死な顔をみせるとは思わなかったぜ。
ティシィが持つ斧は呪われていて、強力な威力を発揮する代償にきついペナルティがある。
そんなもんを収納から出して振るうとは…。
「ハイ、スキアリ」
シュンッ ゴキンッ
「なっ⁉」
俺たちと対峙してたと思ったのにいつの間にかジンシャに近付き、首投げしやがった。
レジストできていない、即死だ。
俺は投神が心底恐ろしい…。
掴めないのだ。
何の感情も映さず、何の脅威も感じない。
単なる自然現象を見ているだけのような感覚だ。
まだ魔人と戦ってるほうが実感というか手応えがある。
ゆっくりと投神が近付いてくる。
気がつけば隣にいるんじゃないかという恐怖感がある。
「投神、大丈夫かい?」
吟遊詩人と忍者が回復したのか起きて来た。
さらに状況が悪化しやがったか…。
「フウ、ダイジョウブダ」
吟遊詩人のフウ…、『両極のフウ』か!
鑑定かけずに開幕ハズィーロかましたから気付かなかったぜ!
「ッハァ!投神さんよ〜、手前ぇはそういう趣味か!」
俺はあまりの滑稽さに腹を抱えて笑い転げた。
魔剣士/男/ロンター・イー・オタン
家政婦/女/ティシィ・ウー・ティエン
黒魔術師/女/エンマ・ジティ・イエ
賢者/女/チョンティ・エンド・イエ
狩人/男/ジンシャ・シャン・ミー
召喚術師/女/シェレン・シャン・チー