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8、石を投げて岩を切り出す

 俺自身の投げが強化されているのは、わかった。

 あと不思議なのは角石、赤石だな。

 角石は明らかに硬いし、赤石は当てたところを燃やすことができる。


「それにこの巨大な鯉」


 姫神湖は風光明媚なところだが、ものすごく秘境にあるという訳でもないし、特に巨大魚の噂も聞いたことはない。

 見た感じ外来魚ということもなさそう。普通の鯉だ。

 突然変異か。


 それとも、異世界に落ちたことによる影響…?


「そう、かもしれないな。」


 天現捨投流の秘匿道場に通っていた、忍者の木坂さんがよく話していた小説によくでてくる『異世界転生』。

 主人公が異世界に転生して、女神に不思議な力をもらって大活躍するのがよくあるパターンらしい。

 俺は女神なんか出会ってないし、水切りしただけだけど、異世界と思われる場所にいる。

 何かしら変化があってもおかしくはない…のか。

 こんなことなら木坂さんの話しをちゃんと聞いとけば良かった!

 ごめん、あの時はあなたの投擲術にしか興味がなかったんだ。


 おっと魚をひっくり返そう。

 焦げすぎてはイカン。

 この鯉はだいぶ大きいので、干物っぽくすればしばらくは飢えを凌げるだろう。

 だけどこの見渡す限りの荒野を超えるには、心もとない。

 他にも食料を確保したい。


「水中の魚を獲るなら、やっぱり槍か銛だな」

 この鯉は運良く水際に留まって俺を襲おうとしてくれたから石で仕留められたけど、やっぱり投石で漁は厳しい。

 不恰好だが棒状の木材もあるし、槍を作ろう。

 木の先端を尖らすだけでも良いが、穂先となるものがあるとなおよろしい。

 そういえば湖一周の途中だったから、もう一度行こう。

 その前に魚の向きを調整してっと…。


 よし、探索再開!




 鯉に遭遇したところを越え、しばらく行くと何かが岸辺に浮いている。


「お〜枝か、枝発見!」


 長さ50cmぐらいの何の変哲もない木の枝だ。

 片方の枝は折れているが、根元は二股のようになっている。


「これも何か特別な力があったり…」


 ブンッとスナップを効かせて投げてみた。

 相変わらず投げ威力は高いが、枝自体に異変はなさそうだ。

 槍には短いが斧の柄には良いかもしれない。

 もちろん投斧だ。

 刃の部分も調達せねば。



 一周する間にまた手のひらサイズの石を発見しました。

 これは綺麗な緑色をしている。

 こんな色の石、姫神湖にあったっけ?

 焼魚のポジションを変えてから試し投げをしてみよう。


「よっ」


 シュッ  ズガン!


 はい、この威力ですね。素晴らしい。

 少し期待したが、炎が出るとかの異変はなし。

 特殊な力はなさそうだが色味のない岩ばかりの大地に、この鮮やかな緑は見てるだけで気分が高揚する。

 植物がないからストレスを感じているのかもしれない。

 この世界に植物が一切ない、なんてことなら精神的にヤバいな。

 発狂しそうだ。

 心のオアシス、もとい緑石と命名した緑の石を回収する。

 そういえば寝ぐらに置いてきた2つの石も何か不思議な力があるかもしれない。

 一度戻って検証しよう。



 このあたりでは一番背の高いであろう、我が寝ぐら。こんなとこで良く寝てたな、俺。

 角石、赤石、そして新たに得た緑石を置き、2番目に拾った焦げ茶と3番目に拾った赤っぽい石を持ち出す。

 石を投げるのに検証しやすい壁になったところを探そう。


「よし、ここで検証しよう」


 だだっ広いところだと投げた石を拾いにいくのが面倒なんです。

 先ずは焦茶石。


「よっ」


 シュッ  ズガン!


 異常ナシ!

 威力は異常だけど。

 続いて赤い花崗岩。


「よっ」


 シュッ  ズガン!


 これも異常なし。

 どちらも威力はすごいので岩が砕けております。


「で、石は無傷と…、あれこの砕けた岩は…?」


 石が当たったところの岩が板状に剥がれている。

 岩をよく見ると地層のように横に線が入っている所がある。

 それに沿って岩が剥がれやすいようだ。

 これを加工して槍の穂先や斧の刃にできないかな?

 とりあえず、切り出せるだけ切り出そう。





「よっ!」 ズガン!


「ほい!」 ズガン!


「まだまだ!」 ズガン!


 炎が発生する赤石と心のオアシスたる緑石以外の3つの石を投げては回収するのを延々とループ。

 面白いほどに石が削れていく。

 小さな板状の石から3m四方の大きな壁のような石も切り出せている。

 当初の目的を忘れ、投げのゾーンに入ってきた。

 だって投石でこんな破壊活動ができるなんて、地球じゃできない。

 いや、これは投げが強化されているという現象を自分の中に落とし込んでいくのに必要な作業。

 色んなフォームで、時には走りながら、座りながら、寝ながら投げるのだ。


 どの投げも素晴らしい。

 こんな投げができるなんて、異世界に来て良かったかも。



 …ふと我にかえると、完全に地形が変わっていた。


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