73、儀式
異世界からこんにちは!
徹底投擲チャンネルの投神です
今日は急遽念話バージョンでお伝えしております
もしかすると聞き取れない場合があるかも知れませんが、ご了承下さいませませ
なんせいま、取り込んでましてですねぇ…
この世界の人々の戦いを見れそうなんで、極力目立たないようにしてるんですよっ
パーティーメンバーの貴族の王子様っぽい人が裏切ることは分かってましたとも。
何かダンジョン内でメモ書きみたいなものを落として別の者と連絡を取り合ってたし、何より念話を交わした時に、もう!悪意ダダ漏れ!
念話って怖いわ〜!
心の奥にしまい込んだ感情までもが、ダイレクトに伝わっちゃうんですよね…。
僕の心の声も彼に届いてたのでしょうか?
主に投げの事しか考えてませんが、たまーにね、そりゃ健康な男子ですから、ほとばしっちゃうモノもあったかもしれません。
恥ずかしー!
でも何となく、俺の深いところの感情や欲望は相手には伝わってない気がします。
だから念話をすると一方的に頭の中を覗けちゃうという状況になっちゃいますよね
情報量多すぎだし、感じたくない感情もズカズカと土足で伝わってくるので、ちょっと食傷気味ですが。
まぁそれで裏切るのは分かってたし、敵パーティーが現れてからは、いつ仕掛けられても良いように注意してアクエルオー様の水を口に含んでおいたのだ!
案の定、少し変わった“銃”のようなもので毒ガスをぶっ放してきやがりましたよ!
息は止めてたんだけど、皮膚から吸収されたのか立っていられない程の体調不良に襲われました。
水を飲み込めばあっという間に回復したんですがね。
空気の読める男は静かに動静を見守っておりました。
レッツ死んだふり!
何か色々喋ってましたが会話の内容はほとんど分かりませんでした!
とりあえず話しが長ぇーっ。
まぁあの陰険貴族王子とチンピラ6人組が組んでて、この5人を嵌めたってことでしょう?
よくある〜!よきよき!
自分の有利な状況に持ち込むのは良いことですね。
やられた方はたまんないですが。
だからそういうのに陥らないように注意を払うべきですね。
ガッ!
よく喋る黒尽くめの剣士に蹴られちゃいました。
でも蹴られたように見せかけて、自らを投げ飛ばしただけなんだけどね!
ちょっと出力間違って不自然に飛び過ぎちゃったけど!
オヤオヤ何やらアッチ的に危ない雰囲気になってきましたよ…。
やめろ!垢バンされるわ!
助けに入るか?
でもこれがこの世界の文化ならどうしよう…。
間に入ったとして、みんなからちょっと空気読めよみたいになったらハズイ!
あ〜踏ん切りがつかんわ。
あ、天使ちゃんが組み敷かれた。
あの忍者ござる野郎!許すまじ!
忍者先輩に謝れ!
その時、今までに聞いたことのないほどクリアな声が胸に届いた。
「投神殿!投げ飛ばしてくれ!」
「あいわかった!」
シュンッ! ズガーンッ!
天使ちゃんをいたぶってくれちゃってた忍者ござるを引き剥がして地面に向けて投げ飛ばしてやった。
全身の至る所で粉砕骨折した筈だが、生きてはいるだろう。
次は獣娘を傷付けて興奮してる黒剣士、てめーだ!
「な、なんで動…」
シュンッ! ズガーンッ!
てめーは鎧着てる分、強めに投げといたぜ。
鎧がバッキバキだね!
「素晴らしい!俺とヤろう!」
筋肉ダルマの男が熱い目をして俺に突進してきた。
こいつは残虐行為に参加してなかったようだが、ちょっと気持ち悪い。
当然投げ飛ばす。
シュンッ! ズガーンッ!
意外にも身軽な奴で受け身を取りそうになったが、捻って後頭部直撃コースだ。
……一応、死んでないと思う。
アーメン。
「………………『×××××××××』!」
うおっ!魔法か!いや魔術か!
どっちでも良いけど、このままでは黒焦げになっちゃう。
「はい!ビニール傘!」
落ちていたビニール傘を拾い、ばっと開く。
お〜弾く弾く!
「なっ…!」
戦場に立ち殺意を持って攻撃するならば、自らも殺される覚悟ありや。
「おらっ!」
シュンッ! ズガガーンッ!
魔術を放った黒尽くめ女をもう一人の女に向かって投げ飛ばす。
二人は吹っ飛んで壁に激突した。
「むむっ!?」
どこからどう見てもメイドって感じのクールメガネはいつの間にか離脱し、素知らぬ顔で壁際に立っている。
やるね、アンタ。
「じゃあ陰険王子、てめーの番だ」
「な、投神様お待ち下さい…」
鎧美女に横恋慕してるのは識っているが、お前が取った手段はこの世界でも最低の部類のようだぞ。
とりあえず全身骨折な。
「逝ってこい!」
シュンッ! ズガーンッ!
「は〜スッキリ」
陰険な戦略はお上が考えることだ。
俺には性に合わん。
我が流派は兵士一人ひとりが戦場で戦い、勝って生き残る為の技なのだ。
将の号令に従って戦い、時には将の命令に反してでも生き残るのが奥義よ。
策略に嵌ったままの気持ち悪さから開放された俺は背伸びをひとつ。
そういえばさっきの鎧美女の言葉はやけにクリアに聞こえたな…。
文の中に投げが入ってるからか?
まぁ良い。
分かりやすいから今後もその指示で頼むわ、鎧美女さん。
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神に、投神殿に投げてという願いは届き、あっという間に敵パーティーは蹂躙された。
さっきまでの地獄も、いま起きたことも、痺れる頭でよく理解できていない。
でも投神殿は悪夢を振り払ってくれた。
投げ飛ばしてくれた。
彼はもしや、神が遣わした存在なのでは…?
「ノメ」
彼は鮮烈な青色と透明の素材でできた不思議な容器を渡してくるが、体が痺れていて受け取れない。
飲めないでいると、彼は私を恭しく抱きかかえるように上半身を起こし、容器を口に添わせて飲ませてくれた…。
その彼の水の美味なること!
終絶の地でも飲ませてもらっていたが、彼が手ずから飲ませてくれた水は神から祝福された天上の飲み物のように深く深く身体に染み渡っていった…。
すると途端に身体の痺れや倦怠感が治ってきたようだ。
私の状態を確認した投神殿は私の上半身をゆっくりと地面に横たえ、他のメンバーの介抱に向かった。
彼の体が離れていくのを少し名残惜しく感じてしまったのは、いけなかっただろうか…。
彼はティーとジェーメを先に水を飲ませ、ゴウとジンズにも同じように甲斐甲斐しく飲ませてやった。
まるで教会での儀式のように崇高で神聖な光景で、私の胸を強く強く打った…。
橙色の頭髪、服というには粗末すぎる物を身にまとっていたから気づかなかったが、彼の動作ひとつひとつに深い知性と慈しみ、そして揺るぎない自信が溢れている。
ヨゥトやこの悪のギルドパーティーといい、私の人を見る目は節穴だったようだ…。
私はリーダーとして失格だ。
「ドウスル」
投神殿が私に問いかける。
リーダーとしての去就を訊いた訳ではないようだ。
パーティーメンバーは回復して立ち上がって、倒れている敵パーティーを見下ろしている。
先ほどとは逆の構図だ。
彼らをどうする、かだな。
「ジンズ、彼らの装備を解除せよ
属性を見誤らせる装備品がある筈だ」
「了解だ、リーダー」
…リーダーか。
まだジンズは私のことをリーダーと思ってくれるのか…。
ジンズが気絶しているヨゥトの装備を解除する。
斥候系職業の専用スキルだ。
「怪しいのはこれだ」
「ジェーメ、鑑定できるか?」
まだ先ほどのショックから完全には立ち直れていないようだが、今のメンバーの中で鑑定できるのは賢者のジェーメしかいない。
鑑定精度や成功率は錬金術師には及ばないが、やってもらうしかない。
「あ、うん……………『鑑定』」
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名称:ジャヌースの金貨
命中:---
攻撃力:---
装備可能職業:全て
SP:銀貨生成(ジャヌースの金貨は消滅)
その他:
装備者は自らの属性を偽って表示させることができる。
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「こんなアイテムがあるとは!」
「これじゃ鑑定結果が信じられなくなるぜ…」
「鑑定に頼り過ぎてたにゃ」
「テキガフッカツシタゾ」
投神殿のからの警告!
敵パーティーの全員が立ち上がった。
家政婦のティシィが回復アイテムを使用したに違いない。
メイドの専用スキルは謎が多いが、アイテムを大量に持てた筈。
それを放出したな。
「ちっ、良いところを邪魔しやがって!
俺はヤるのとヤるのを邪魔されるのが1番腹立つんだよっ!
皆殺しだっ!」
戦闘が始まる!
「皆、隊列を整えろ!
奴らは私たちの知らないアイテムを所持してる筈だ
防御を切らすな!」
「「「おおう!」」」
「投神殿も、可能なら投げてくださらぬか………
いや…
投げて!」
「アイワカッタ」