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70、触るな危険!

 ようやく右手側ルートの最初の門が見えてきた。

 顔が二つの巨人やら頭が二本ある犬やらが出現した部屋だ。

 ぶっちゃけひとりなら小一時間もあれば到着できる距離だが、もう半日以上も経過している。

 しかし、この世界にはこの世界のセオリーがあるのだろう。

 門のある部屋はやはり警戒度がMAXなようで、皆さん緊張されている。

 今日は誰も倒してないだろうから、出てくるだろうね、敵が。

 こっちは人数が多いから大丈夫でしょう。

 俺は後方に配置され、見学者扱いのようです。

 さいですか。

 心を込めて応援しましょう!


「皆んなガンバ!」



*************************



「ミンナガンバ」


 後方の投神殿が何か叫んでいる。

 何だろう、無視しても良い気がする。


「みんな、未開拓ゾーンの玄室だ!

 出現する敵は神狼クラスの可能性がある

 気合を入れろっ!」


「「「おおう!」」」


「侵入!」


 前衛の両翼のゴウとティーが最初に玄室に入る。

 続いて私が入り、皆の安全を確保する。


 中央に差し掛かると、我々に反応して魔法陣が展開する。

 光の中から影が立つ。

 デカい!

 皆に緊張が走る。

 光が収まり、そこに現れたのは…


「両面宿儺鬼…!」


 恐れていたことに、神狼と同じくらいヤバい奴だ!

 巨人の如く大きな身体に腕が四本。

 それぞれに種類の異なる強力な武器を操る強力な魔物だ。

 頭の両側面に顔がついているという不気味な姿ではあるが、東方の一部地域では信仰の対象とされるという噂だ。

 それ程に強い!


「両翼は展開してガンガン削れ!

 メインタンクは私が担う

 後衛は魔術効果範囲ギリギリで叩け!

 敵は物理攻撃メインだから物理障壁を張れ

 前衛は敵は一体だが、二体いると思って戦うんだ!」


「「「おおう!」」」


 大鬼がその大剣を軽々と振りかざし、斬りつける。

 体の芯まで痺れるような衝撃がくる!

 意識をしっかり保て!

 私はタンクだから防御に徹すれば良い。

 皆を信じて耐え抜くんだ。


「おらっ!」

「闘気!連続攻撃にゃ!」

「………『炎之槍』」

「………『氷之障壁』」


 皆の波状攻撃が敵に殺到する。

 並の魔物ならオーバーキルになる程のダメージを与えた筈だ。


 ウゴオオオオオオオオォォォォ!!


「なっ⁉」


 あれで仕留められるとは思っていないかったが、傷を負いつつも奴の動きは衰えるどころか、怒りで攻撃力が増したほどだ。


「あ、傷が塞がっていくよ?!」


「なにっ⁉」


 かなりの深手を与えた筈だが、傷口から煙を立てて高速で回復していっている。

 長引かせるとこちらが不利になっていく。


「マズい!攻撃の手を緩めるな!

 奴の回復スピードを上回るダメージを与え続けるんだ

 火属性の攻撃を!

 それと毒攻撃を試せ

 ヨゥトは奴の攻撃命中率と回避率を下げさせろ!」


「「「おおう!」」」




 戦況は膠着している。

 ダメージと回復値がほぼ釣り合っているのだ。

 奴の攻撃の威力は高く、誰かが一発でももらえば一期に戦況が傾く危うい状態だ。

 打開策を練らないと…。

 高階位の攻撃魔法を食らわすか…?


「ガンバ!ガンバ!」


 打開できそうな者がいる…。

 またゲストに力を借りるのは忍びないが、このままでは危険だ。

 投神殿は紙防御だから、遠距離攻撃を頼もうか…。


「もう!やっぱり毒は効かないよ〜!」


 奴の毒異常抵抗率は高いらしく、高レベル賢者の魔術でも無理なようだ。


「ドク…?」


 投神殿は何かを思い出したような感じで、背嚢から一本の筒のようなものを取り出した。


「ソウイヤタメシテナカッタナ…」


 何言かを呟いている。

 あ、投げた。

 あれは鞘に入った投擲武器だったのか。


 ウオゥゴァアァアアア…!


「あれ?なんで?毒状態になったよ!」


「好機!たたみ掛けるぞ!」


「「「おおう!」」」


 皆の激しい総攻撃!

 私も攻撃加わる!


「お前の力を示せ!聖剣ライトディフェンダー!」


 聖騎士の灮闡能力には聖剣を強化するものがある!

 高レベル聖騎士の聖剣を受けてみよ!


「いけぇーー!!」


 オゴオオオオオオオオォォォォァァ……





「ハァハァハァハァ、勝った……!」

「両面宿儺鬼を討伐できたにゃ…」

「きょ、強敵だったな…」

「ふへ〜、疲れたぁ」

「やりましたね、皆さん!」

「……見事!」


「オー、ヤッタネー!」


 投神殿もパチパチと手を叩いて祝福してくれるようだ。

 魔物はダンジョンに還元されていき、水とアイテムが残された。


「おー!残留物(ドロップアイテム)は大剣と魔石と…、こりゃなんだ?」


「サワルナキケン」


 細い棒のような刃物を取り上げようとしたゴウに警告を与え、投神殿は慎重にそれを拾い上げて鞘にしまった。


「投神サンの武器だったのか

 ってゆーことは、毒状態になったのはその武器のお陰?」


「きっとそうだよ

 ジェーメの毒魔術、全然通らなかったもの!」


「ヤバい武器だにゃ…!」

「素晴らしい!」

「か、鑑定を…」


「サワルナキケン」


 投神殿でさえ慎重に扱う毒武器、興味深いが、誤って毒状態になってしまえば危険だ。

 今は追求すべきではないな。


「今はダンジョンアタック中だ

 毒や呪いの武器を調べるのは街にかえってからにしよう」


「…はい」


 投神殿は背嚢の奥に収納した。


「この大剣は俺しか扱えねぇな」

「そうだにや、ゴウが持つべき」

「皆も良いか?」


「「「異議なし」」」

「カマワヌ」





「異議あり!

 …なんちゃって〜」


 我々が通ってきた門から冒険者らしき者たちが現れた!

 先行者が居るのに玄室に無断で入るなど、明らかなルール違反!


「誰だっ!

 ヨゥト、鑑定!

 戦いか!休息か!」


「休息だよ、休息」


 その6人パーティーは戦う意志がないことを示す、休息を口にして両手を上げてみせる。

 前衛職と思われる3人は男性、後衛職と思われる3人は女性という編成だろう。


「あちらのパーティー、属性は全て“善”!」


「…そうか」


「当たり前だろ?」


 この荒っぽい戦士系の男がリーダーのようだ。


「念のため共有してくれ」

「はい」


「疑り深いね…ハッ」



「……かなりの高ランクパーティーだな…」

「の割には聞いたことのない奴らだが…」


「あー、俺ら面倒臭くてギルドとかに顔出してねーんだわ…ッハァ」


「そのようなスタイルの冒険者もおられると聞いています」


「そう、それ、そういうスタイル」


「しかしどのようなスタイルであっても、断りもなしに玄室に入るとはマナー違反だぞ」


「怖え〜!そんなに怒ると美人が台無しだぜ?ハルゥーカ…」


「……いつの間に鑑定した?」


「あ?さっき後ろからな…怖いじゃん?

 もし悪のパーティーだったらよ…ッハァ

 まぁ、善同士仲良くしようぜぇ」


「ここへは何しに来たのだ?」


「おいおい冒険者なんだぜ!

 宝探しに決まってるだろ?」


「トレジャーハンターか…」


「それだって立派な冒険さ!ッハァ

 珍しいアイテム拾ったのなら、適正価格で買い取るぜ?」


「ここまで深く潜れる冒険者なら、自分でいくらでも獲得できるだろうに」


「まぁーな!

 でも面倒じゃん?いちいち魔物と戦ったりすんの」


「冒険者が魔物を討つのは責務だ」


「カタいなぁ〜!

 堅苦しい女リーダーは嫌われるぜ?

 なぁ?おい」


「「ふふふっ…」」


 奴らのパーティーメンバーが小馬鹿にしたように笑う。


「貴殿らと理想のリーダー論議をする暇は持ち合わせていない

 そしてどうやら売却できるアイテムは持ち合わせてないようだ

 お引き取り願おう!」


「ちっ、つれないねぇ

 わかったよ、先に進みな

 俺たちはここで休んでから帰るからよ」


「くっ、後追いや横入りはルール違反だぞ!」


「しねぇよ

 帰るっつってんだろ?」


「……行くぞ!」


「おー頑張れよ!ッハァ」


 一刻も早くこの場を立ち去りたい感情に囚われ、奴らに背を向けて玄室を出ようとした。


 しかし投神殿は警告するように奴らに指を差した。



「サッキガダダモレダ

 ヤツラハキケン…!」


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