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69、俺の投げが必要なら「投げろ」と言え

「異世界からこんにちは!

 徹底投擲チャンネルの投神ですっ

 今日はね、異世界の人達と一緒にダンジョンを探索しております

 いやー今までひとりで探索してたから、みんなで行くと楽しいですね!

 遠足みたいでワクワクすっぞ!

 いや、ちゃんと働いてますよ?

 ほら、スライムちゃんを処理してます。

 はい、ビターンっと

 若干、皆さんの目が呆れてるように見えますが、大丈夫でしょうか?

 彼らのやり方じゃ時間がかかってしょーがないから、良いですよね、ね!

 あ、鎧美女がこちらを見ている

 この視線はうちのチャンネルのプロデューサーを彷彿とさせる絶対零度…!

 ごめんなさい、嘘です、そんなことありませんて

 あ、うるさかったてすか?

 すみません、黙ります

 沈黙は金ですよね

 あ、第一宝箱部屋ですね

 やっとか!

 どんだけ時間かかってんねん!

 ……はい、すみません、黙ります


 それではオープニングはここまで

 最後までご視聴のほど、よろしくお願いします

 世界を〜投げ投げ!」



*************************



「モウスグタカラバコベヤダ…」


 首飾りの四角い部分を掲げながら、ブツブツと呟いていた投神殿が前方に宝箱部屋があると告げた。

 あの四角い物体は特殊なアーティファクトに違いない。

 さっきのはもしかしたらある種の呪文を詠唱をしていて、未知の効果を発揮させているのかもしれない…。

 何か特殊なアイテムの力を利用しているとしか説明がつかない索敵能力とスライム殲滅力だからだ。

 今も特に視線を向けるでもなく、金属の塊をまるで生き物のように縦横無尽に操りスライムの隠形を解いている。

 かと思えば、いつの間にかスライムに接近していて、初撃を誘発させてカウンターで投げ飛ばす。

 そしてそれはすべからく一撃必殺の即死攻撃だ。


 タフで有名なスライム、それも上位種を、その辺に落ちている小石を投げる程度の気軽さで屠っていく投神殿を見ていると、アサシンスライムがまるで雑魚のようにさえ錯覚してしまう。

 しかし紛れもなくアサシンスライムは強敵だ。

 現にジンズさえ発見できていないスライムがこんなに大量にいるのだから。

 発見できても囲まれてしまえば全滅の恐れさえある。


「投神殿の力は本当に常識の埓外だな…」


「だな…」

「投神サマ、すごいにゃ」

「スライム死すべし!」



「宝箱部屋だ!」


 前方のジンズから報告だ。

 皆で宝箱部屋に入る。

 ダンジョンが生み出した石の卵のような通称“宝箱”。

 学者が言うにはダンジョンに取り込まれた冒険者の遺物が吐き出される場所とされる。

 稀にダンジョンの体内を通る際に、特殊な効果を付与される場合があるので、冒険者にとって重要なものである。

 遺物だけでなく、異界の品々や魔人の強力な武器なども手に入ることがあるので、一攫千金を狙う宝箱専門の冒険者も多い。


「よし、ジンズは宝箱の罠を解除してくれ」


「了解」


 高レベル斥候の罠解除能力は全職中で最も優れている。

 事故を起こすことなく解除してくれるだろう。

 投神殿も食い入るように見ている。


「………解除した」


「ありがとう、ジンズ」


「で、中身は?」


「これだ」


 ジンズが手にとって見せたのは1本の槍だ。

 少し歪なフォルムだが総鉄製のようだが、見たこともない槍だ。


「これは…?

 鑑定します……………『鑑定』」


「共有頼む」



+++++++++++++++++++++++++++++++


名称:水蟷螂之槍

命中:8

攻撃力:37

装備可能職業:戦狩軽重聖侍天竜神魔

SP:水生成※

その他:

属性攻撃率 / 水+50%

属性防御率 / 水+50%

※SP解放後は破損


+++++++++++++++++++++++++++++++



「お〜良いじゃねーか

 レアっぽい!」

「水属性とは珍しいな」

「ゴウなら使えるにゃ」

「そうだな、ゴウ、収納に空きはあるか?」

「あることはあるが…」

「私が預かっておきましょうか?

 空きは十分にありますし」

「そうだな…、水属性が弱点の敵が出た時に出してもらおうか」

「わかりました、収納しておきます……“収納”」


「投神殿…良かったのか?」


 ジンズが投神殿に確認をとっている。

 我らパーティーで得たものは協議の後に誰が所有するかを決めている。

 確かにゲストとはいえ、ここまでの道程で一番貢献しているのは投神殿であったから投神殿にも所有権があることを失念していた。


「???」


「勝手に話を進めてしまって申し訳ない、投神殿

 さっきの槍はゴウが所有することに異論はござろうか?」


「???」


「投神くん、さっきの槍、この子にあげてもよい?」


 ジェーメがゴウを指差して尋ねる。


「アァ、カマワヌ」


「そお?ありがと!」


 話が纏まって良かった。

 大事なことを指摘してくれたジンズに目礼を交わす。




「それでは探索を再開する!」


 小休憩の後、探索を再開したが進行スピードは遅い。

 投神殿のスライム処理能力は異常に早いのだが、大量の罠が行く手を阻むのだ。

 罠も投神殿に頼めば何とかなってしまいそうだが、そこまでしてもらうと我らが寄生する立場になってしまう。

 それはSランクパーティーにまで到達した我らのプライドが許さない。


 しばらく進むと前方のジンズから報告があがった。


「分岐点だ!」


 合流すると二股に通路が分かれている。

 先日通ってきたのは左側の通路だ。


「これを右に行くと未開拓ゾーンか…」


「行きましょう、リーダー」


 ヨゥトが力強く頷く。


「腕が鳴るぜ!」

「スライム相手にスキル使ってたのに威勢が良いにゃ」

「んだと⁈

 おめーはスライムから逃げ回ってたじゃねーか!」

「だってスライムは打撃が無効なんだにゃ!」

「闘気を纏えばイケるだろ?」

「もったいないにゃ!」


「ストップ〜!投神くんが呆れてるよ?」


「ん…、すまねぇ」

「ごめんなさいにゃ」


「…もう良いか?

 それでは未開拓ゾーンに挑戦する!

 各自、念のためマッピングをするように」


「「「おおう!」」」





「ここはまた罠が多いな!」


「さすがは未開拓ゾーンというべきか…」


「ジンズくん大変そうだね…

 投神くんはどうやって罠をやり過ごししてたの?」


 ジェーメ、聞くんだ…。


「ドウ?…コウダケド」


 シュゥウン ボカーンッ!


「うわっ!」

「にゃにゃっ!」

「ひえっ」


「何事だ!」


 前方のジンズが戻ってきた。


「見落とした罠が作動したのか⁈」


「い、いや…、投神サンがわざと作動させたというか…」

「投神くんにいつもどう処理してたか訊いてみたら、あの武器で作動させちゃった」


「お、漢解除⁉︎」


「「「漢解除?」」」


「あぁ、昔いた頑樽(ドワーフ)族の高レベル冒険者の話なのだが…

 その男は戦士、重戦士を経て、忍者としてパーティーの罠担当になったのだが

 罠を解除するのが苦手だったそうだ…

 ある時ひたすら面倒になってしまい、わざと罠を発動させてダメージを食らった

 しかし危惧したほどの高いダメージではなかったらしく、それ以降はわざと発動させてはダメージを受けることを繰り返したそうだ

 そして彼はHPが最も高くなる戦士に戻り、防具を固め、自らダメージを受けながら探索を重ねたという伝説の漢となった

 それからいつしかダメージを覚悟して罠を発動させる解除の仕方を漢解除というようになったのだ…」


「なんか…すげぇな、その漢」

「アホだにゃ」

「んだと!」

「だって罠の中には転移罠もあるんだにゃ!」

「あ、そうか…、その漢はもしかして…?」


「そうだ、ランダム転移罠を踏んで行方知れず」


「やっぱアホだにゃ」

「馬鹿野郎!ロマンだろ⁈」

「ここにもアホがおるにゃ」


「投神くんも漢解除派なのかな?」


「いや…、投神殿は罠の場所を判別できるようだし、かなり距離をあけて発動させている

 爆発や転移に巻き込まれないじゃないだろうか」


「真・漢解除…!」


 ジンズが目を大きく開いて驚愕している…のか?


「投神サン…、あんたやるね」


「ナゲルカ?」


「い、いや投神殿!罠は我らで何とかしよう

 そこまで面倒を見てもらったら我らが寄生となってしまう

 それに罠の中には有益なものもあるから、全部が全部破壊しするのもどうかと思う」


「???」


「投神くん、罠は投げなくてよいって」


「アイワカッタ

 ソコノヨロイビジョ、オレノナゲガヒツヨウナラナゲロトイエ」


「ヨロイビジョ…?

 …投げが必要な時は頼らせてもらおう

 ありがとう」


 投神殿は親指を立てて、笑顔を向けた。

 よく分からんが今回は悪い気はしない。


 まだまだ未開拓ゾーンは始まったばっかりだ。

 ここにも異変がなければ街に凱旋できる。

 しっかり探索していこう。



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