68、スライムは投げるものですが、なにか?
「いつも通りジンズを先頭に罠を解除しながら進む
投神殿は後方へ
殿のヨゥトは投神殿をしっかりと守るように
それでは出発!」
「「「おおう!」」」
我々は超難関ダンジョンである“終絶に至る道”の探索を開始した。
しかしすぐに問題が発生する。
罠だ。
凶悪な罠が多発している。
それとアサシンスライムというスライムの中でも最も危険な魔物がそこらじゅうにいるのだ。
アサシンスライムは擬態に非常に優れ、気づかずに近づいてしまった冒険者の首を刈るという、本当に暗殺者のような恐ろしい存在だ。
2日前にはなかったその大量の罠とアサシンスライムで、探索が全く捗らない。
「このままでは未開拓ゾーンに行くことは厳しいと判断せねばなるまい…」
「待ってください、リーダー!
何か方法があるはずです
現に私たちはすんなりと通ってきたのですから」
「そうなんだが…」
「投神様なら何かご存知のはず!」
「そうだな…、ジェーメ
投神殿にどうやってこのダンジョンを通ってきたのか訊いてくれるか?」
「ほーい
投神くん、どうやってここを通ってきたの?」
「ドウ?
ナゲ、ダ」
「なげ?」
「ソウ、ナゲダ」
「ふーん、やってみせて」
「ヨイゾ、ホレッ」
シュンッ パシィ
「うおっ!ここにも居たのかアサシンスライム!」
細い糸みたいなものがついた金属の塊を無造作に壁に投げつけたと思ったら、なんとそこには擬態したアサシンスライムが居たようでウゾウゾと動きだした。
誰も察知できていなかったので、近付いていたら殺られていたかもしれない…。
ゴウがスライムとの戦闘を開始した。
隠形からの最初の一撃はスライムの魔技の効果によって、即死判定率がかなり上昇している。
その一撃さえ防げれば、それ程強い攻撃は持たないので戦闘は優位に進められる。
しかしスライムのコアが何処にあるのか判別させないタイプなので、仕留めるのに時間がかかってしまう。
「ちっ、面倒な!
ジェーメ、火之矢を頼む!」
「ほーい
…………………『火之矢』」
ジェーメは呪文を完成させ、1条の炎の矢を飛ばしてスライムを射抜く。
「オオ!カッコイイ!」
投神殿が手を叩いて喜んでいる。
黒魔術の第1階位に属する『火之矢』は最も基本的な火属性単体魔術攻撃であり、威力は低い。
しかし高レベル賢者の灮闡能力により、その威力は低レベル黒魔術師の数倍もあり、たとえ上位の魔物であってもかなりのダメージを与えたはずだ。
ましてやスライム系魔物は火属性が弱点である。
「とどめだ!」
ザザン!
ゴウは目にも止まらぬ早さで十字に斬りつけた!
魔技『ダブルアタック』だ。
HPを削り切ったようで、スライムはダンジョンへ還元されていった。
「どうだっ!」
ゴウは投神殿に魔斧を掲げてみせる。
「ゴウ、今のはスキルを使わなくても倒せたんじゃないか?」
「い、いや?そんなことねーぜ
なんせスライムの上位種なんだから、しっかりとキルしとかないといけねぇし」
「まぁ良い
しかし先が長いんだから温存も視野に入れて行動するように」
「分かってるって、ハルゥーカ」
「ふん
…しかし投神殿はジンズでさえ見落としたスライムの擬態を見破れるということだな」
「……興味深い」
戦闘音を聞きつけて戻ってきたジンズが呟く。
自分の索敵能力を凌駕しているという事実に嫉妬するということもなく、単純に投神殿に対して興味津津という感じだ。
「投神くん、なんで分かったの?」
「ソレハ
イセカイナゲバワーダ!」
「またそれですか…」
「これも投げ補正カッコ神の効果なのかもしれんな…」
「チナミニ」
「ちなみに?」
「カコマレテイルゾ」
「はぁ…?」
「ホレ、ソコ、ソコ、ソコニモ」
「ギャー!マヂかっ!」
「スライム気持ち悪ーい」
「不覚!」
「スライムは打撃が効きにくいからキライだにゃ!」
「陣形を整えろ!
スライムは足が遅い!
優位な位置取りをって、早ーいっ!」
投神殿があの変な武器で壁をつつくと、大量のアサシンスライムが蠢きだした!
その動きは意外に早く囲まれてしまう。
これは危険な状況だ!
「チナミニ」
「ちなみに何だよ投神サン!」
「スライムハナゲルモノ」
「意味わかんねー!」
「何言ってるにゃ投神サマ!」
「とりあえず炎之壁を張…」
「投げられるなら…、投げて!投神サマ」
スライムが生理的に苦手なジェーメが少し顔を青ざめさせて投神殿に助けを求めた。
「アイワカッタ」
事もなげにそう返事をすると、投神殿は散歩でもするように無防備にアサシンスライムに近寄って行った。
「危ないっ!」
案の定、スライムはスキル『初撃』を発動した!
隠形状態は解除されているとはいえ、攻撃力とクリティカル率が上昇されている危険な一撃。
普段は柔らかいスライムから槍のような鋭い突起が突き出される。
「スライムハナゲルモノ」
ニュゥウンッ ビターンッ!
「はぁ?!」
投神殿は初撃をぬるりと躱すとスライムを巻き取るように回転して、地面に投げつけた!
スライムは形を失い、ただの水になっていく…!
「カンタンナオシゴト」
「一撃死⁉」
「あり得ねー」
「スライムって投げられるものなのかにゃ…」
「すごーい、投神くん!」
「理解不能です…」
「…見事!」
「マダマダクルゾ」
「あーもー、投げちゃって投神サマ!」
「おーやっちまえ!」
「にゃー!」
「ショウチ」
ニュゥウン ビターンッ! ニュウン ビターンッ! ビターンッ…
「なんつー殲滅速度だ…」
「さすが投神サマにゃー!」
「なんか面白い音だね!」
「………」
「オワッタゾ」
息の一つも乱していない投神殿が何事もなかったように戻ってきた。
皆はあの要注意魔物のアサシンスライムを投げだけで軽く全滅させた投神殿に畏怖すら感じているようだ。
Sランクパーティーのプライドが、常識が、ガラガラと崩れていく音が聞こえる…。
「もう俺ら要らないんじゃ…」
「投神サマだけで攻略できそうだにゃ」
「いえ、投神様はスライムにはお強いことが分かりましたが、装備が紙です
投げられない大きな魔物や、魔術、魔法攻撃をしてくる敵に対しては無力であると思われます
なので、スライムは任せるとしても、他の魔物は私たちが対処しないといけないでしょう」
「そっかぁ、そうだよな」
「さすがヨゥトは頭良いにゃ」
「ゲストに戦闘を頼むのはグレーゾーンだが…
スライムとの戦闘は長引き過ぎる
申し訳ないが投神サマに助力を願おう
ジェーメ、投神殿伝えてくれるか?」
「はいはーい
投神くん、スライムいたら投げてくれる?」
「スライムハナゲル、リョウカイダ」
「ありがとう!」
「マヂテンシ」
「???」
「投神殿、貴殿が倒されたスライムの魔石だ」
「???」
ジンズがいつの間にか拾い集めた魔石を投神殿に手渡す。
「アリガトウ」
「投神くん、その石は持っといたほうが良いよ
ギルドが買い取ってくれるから」
「オォ!ソレハヨカッタ」
投神殿は魔石を背嚢に無造作に入れた。
「コイシナライッパイアルゾ」
背嚢に手を突っ込んで引き出すと、すごい量の魔石が出てきた。
しかもそのほとんどが巨大で、鑑定せずとも分かるほど大きな力を見る秘めたものだ。
これはまたヨゥトが食いつくだろうなと思って彼のほうを見ると、鋭い目線を送るだけで何も発言しないようだ。
投神殿に負担を強いることになるが、配置換えをせねばならんな。
「配置換えだ
先行はジンズ、前衛は投神殿で私とゴウは中衛で守りを固める
後衛は魔術師の二人で、ティーが殿だ
投神殿にスライムの処理をしてもらうが、出来るだけ負担を減らせ!
Sランクパーティーの意地をみせろ!」
「「「おおう!」」」
「投神くん、こっちこっち」
こうしてゲストを主軸に置いた変則的な編成でダンジョンアタックが再開された。