66、つながり
「それでは念話を使いますよ」
「アァ、バッチコイ」
……理解しているか少し不安ですが、呪文を唱え魔術を行使します。
「………“念話”」
《投神様、きこえますか?
私の念話の言葉が理解できますか?》
《あ、あぁ》
返事とともに投神殿は驚いたような、訝しむような感情が流れ込んできます。
《これは念話という魔術で、一定時間イメージを脳に直接伝え合うことができます》
《伝えたい内容を強く念じれば、その内容が相手に伝わります》
《……なるほど、よく分かった》
「繋がりました!」
パーティーメンバーに報告し、質問に移ります。
《あなたはどこから来たのですか?》
《……別の世界から落ちてきた》
《別の世界…?あなたは魔人ですか?!》
《魔人ではない》
《前の世界で湖に石を投げたら、湖ごとこの世界に落ちて来たんだ》
《しばらくここで生活していたが水がなくなった》
《水がないと生活できないから文明圏に連れていってくれ》
《な、成る程?》
《たまたま私たちの世界に来られた》
《文明圏、街に行くのは生活の為、ということですね?》
《そうだ》
《わかりました、パーティーメンバーに伝えます》
「そんな事あるのか⁉」
「異世界からやってきた人族か…」
「面白い!」
「良かったねジンズくん、面白いもの見れて」
「投神サマの強さの秘密を訊いてほしいにゃ!」
「分かりました」
《投神様はどうしてそんなにお強いのですか?》
《我々は高レベルの冒険者》
《本来はロールを持たない投神様では敵わない存在です》
《しかし我々は手も足も出ませんでした》
《あなた達も本気ではないだろう?》
《不思議な力を使っていなかった》
《魔法?》
《我々人族が使えるのは魔術であり、魔法ではありません》
《そうなのか?》
《はい》
《魔法も魔術もない世界から来たからよく分からない》
《そんな世界があるんですね…》
《私達の世界も大昔はなかったとされています》
《魔法も魔術もなく、どうして我々を投げ飛ばせるんですか?》
《それは…》
《異世界投げパワーだ!》
《異世界投げパワー?》
《あぁ、俺も何故できるのかは分からない》
《だから異世界投げパワーなのだ!》
《はぁ…、メンバーに伝えます…》
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「異世界投げパワー?」
ヨゥトから念話の内容を聞いたが、投神殿の強さの秘密までは分からなかった、というか投神殿自身も理解できていないのだ。
「意味が分からないにゃ…」
「カッコいい!」
「………」
「魔法も魔術もない別の世界の人族が事故で我々の世界に流れ落ちただけ…
魔人や、他の何者かの関与はなかったのだな?」
「はい、少なくとも投神様はそう思っておいでです」
「強さは謎のままだが、危険性は低そうだな」
魔人という異世界からの侵略者と戦っている最中に、さらに別の異世界から人族が来るとは…。
属性が必ず“悪”である魔人は、この世界には相容れない異質な存在だ。
しかし投神殿は“善”なる存在。
善に属するということは、神から存在を許されているということを意味している。
「よし、それならばひとまず安心して街に連れて帰れるな
後は勇者様方やギルドに判断を委ねるか…」
「じゃあ、帰る?」
「い、いえ!ですのでまだ調査が終わっておりませんっ
それに未開拓ゾーンを私たちで地図埋めをしましょう!」
「ん〜、だがな…」
「不死の王を倒した投神様もおられるんですから!
私たちで攻略すればパーティーの功績になりますよ!」
「まぁゲストがいるいないは功績に関係しないシステムだが…」
「だから今がチャンスなんです!」
「投神殿に了承を得てくれ
話はそれからだ」
「はい
…………、投神殿は未開拓ゾーンに行くことを了承されました!」
「そうか…
皆はどう思う?」
「俺は行っても良いぜ!」
「投神サマが一緒なら心強いにゃー」
「ゲストの力を頼りに攻略するのは間違ってる」
ジンズが冷静に発言した。
「ジンズ様、投神様の力は借りません
不死の王がいない今なら、私達の力で攻略可能だと思われます」
「……なぜ急ぐ?」
「は?ですから不死の王が再生する前に攻略をと申しあげております」
「不死の王を倒せる力をつけてから挑むのが本来の冒険者の在り方だ」
「そ、それはそうなんですが…」
「意見は述べた
私はハルゥーカの決定に従う」
ジンズは腕を組み、私に判断を委ねた。
皆の視線がリーダーである私に向けられる。
パーティーメンバーの意見が別れた場合、最終決定はいつも私が担う。
皆の運命を左右する決断を求められるという重責にいつも挫けそうになる。
それでも聖騎士となったときに立てた誓いが私を奮い立たせる。
私は皆を守る聖なる騎士、ハルゥーカ。
それ以上でもそれ以下でもない。
盾と剣を強く握ると迷いは消えた。
改めて皆を見る。
今日はみんな投神様に気付かされた。
レベルや魔術、魔技に頼った強さだけではない強さがあることを。
街に帰って修行のやり直しだな…。
「よし、今日はこの“終絶の地”を夕方まで調査を続け、野営
明日は早朝から“終絶へ至る道”に入り、未開拓ゾーンの調査を行う
第一目標は調査だ、良いか!」
「「「了解!」」」
「異変が見つからない、もしくは危険と判断した場合は街に帰還する
以上だ!」
「「「了解!」」」
先ずはこの依頼を完遂すること。
それが私の下した決断だ。
その結果に起きたことは私が責任を持とう。
それがリーダーというものなのだから。
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貴族の王子っぽい後衛の人との念話で、異世界から落ちてきたことを伝えた。
魔人も異世界から来てるようで、同一視されると危険なようである。
何故なら魔人は異世界からの侵略者であり、この世界の人と戦争中とのことだ。
彼は念話が得意ではないらしく、短い時間しか話せないとのことで多くの情報を得ることは出来なかった。
同行していれば街に連れて行ってくれるということは確認できたから良しとしよう。
念話か…。
便利だな魔法、じゃなくて魔術か。
便利だけど、色々怖いな〜。
ま、魔術だろうが科学だろうが、発展してても人間は人間だな!
6人はまた周辺を調査するようだ。
みんな湖の水の効果が切れると辛くなるようなので、定期的に水をあげる。
水はもう尽きかけているが、アクエルオー様に入れれるだけ入れて、あとはみんなで飲みきってしまおう。
日が暮れてきたので調査はお開きになり、野営の準備を始めた。
何もないところからポンポンと野営道具が出てくる様は、何度見ても面白い。
戦闘中に武器を入れ替えるのは、ちょっと隙ができるから辞めたほうが良いと思うが。
彼らの食事は固形携帯食のようなものをボソボソと齧り、スープで流し込むような質素なものだった。
カラカラに焼いた魚をしがむ俺よりはマシだがな。
特にグルメという訳でもないが、街に行けばこの世界の美味しい食べ物に出会えるかもしれない。
文化や風習も含めて楽しみである。
新しい“投げ”も見つかるかもだ。
ぅおー!早く街に行きたい!
就寝時間になったようで、みんなは各自1人用のテントに入り込んで、静かになった。
明日は街に向かうというここで過ごす最後の夜になるので、俺は荷物を纏める。
持っていくものと置いていくものを決める。
武器は、八つ石、八つ杭、ブーメラン2本、ミズカマキリ槍2本、流星錘改、毒棒手裏剣、アトラトル、寸鉄、針、ビニール傘。
その他に身につけるものは、首掛けプロアウェイ、パレオ、ポンチョ、サンダル、ビニール袋、アクエルオー様、パン袋、干し魚、肉玉爆弾、リュックだ。
それと換金出来そうなものとして、ゴブリンの王の大剣、不死の王の杖、大量の牙や爪、銀狼の結晶3つ、たくさんの小石を持っていく。
それ以外のものは武器庫の石で作った四阿に置いておく。
また戻ってくるだろうからな。
木の様子も見に来たいし。
あの陰険貴族王子も寝てるし、最後の水を木にやろう。
水を飲めるだけ飲んで、なげ池の底に残った僅かな水を手で掬ってアクエルオー様に注ぎ込むと、なげ池の水はとうとう尽きてしまった。
「なげ池もありがとうな」
今夜は二つの月の両方が満月だ。
ちょうどこの世界に落ちてきた時と同じように。
「この世界の1ヶ月が過ぎたか…」
月明かりの元、すり鉢状に凹んだ最深部に降りる。
成長しまくった柳を見上げ、逞しい幹に手を添える。
アクエルオー様の水をたっぷりかけてやった。
「しばらく会えないけど、達者でな!
また水を持って来るからよ」
柳は応えるように、サワサワと枝を擦り合わせる。
ーー…ー…ーーー……
何だろう
何かを感じる…
親近感というか
この木と俺が繋がっているような
あたたかな感情が
こうして触れていると流れ込んでくるようだ。
念話に似ているけど、それとは全く違う交流。
俺はどこに行っても大丈夫。
そんな安心感が芽生えた。
「行ってくるよ」
柳はただ見送るようにその枝を振っていた。