63、手合わせ
「こんなステータス、見たことねえ…!」
「称号多すぎだにゃー?」
「面白い…!」
「補正カッコ神って、どういう事だ…?」
「投神くん、すごいね〜!」
投神殿の鑑定で視えたステータスの能力値は一般人のそれだが、解析にかけると摩訶不思議なものであった。
称号の『界を渡りし者』とはどういう意味だろう。
世界を越えてきた…、外国から?
いや外国から来る者なんていっぱい居るし、我らもこの国とは違う国から来ている。
それだけでこんな称号がつく筈がない。
この状態異常抵抗率の高さはかなりのものだ。
超越者たるレベル50以上の聖騎士の灮闡能力でパーティーメンバーに対して状態異常抵抗率の付与ができるのだが、この高レベル聖騎士である私の付与値に匹敵している。
職業を持たない一般人としては有り得ない数値だ。
この不死之王とは終絶に至る道の未開拓ゾーンに出現するという噂のアンデッドの王のことか…?
「投神殿、貴殿は不死の王を討伐されたのか?」
「???…マチニツレテッテ」
「……ジェーメ」
「はいはい、投神くん、不死の王と戦ったの?」
「フシノオウ…、コッカクヒョウホン…、ホネハタオシタ」
「?…骨の魔物を倒したんだね?」
「アア」
「そんな馬鹿な!
不死の王はあの超難関ダンジョンのダンジョン主ですよ!
よく分からない称号や補正で倒せる筈がない
証拠は…、不死の王の残留物はあるんですか!」
「???」
「あ〜、もう!ジェーメ様、翻訳をお願い致します!」
「骨を倒して、なにか残った?」
「ア〜、コイシトツエガノコッタヨ?」
「魔石と杖かぁ…」
「その杖は何処に?」
「ブキコニアルヨ」
「見せて頂けますか?」
「投神くん、見せてくれる?」
「アイ、ワカッタ」
投神殿は石切場に皆を連れていき、手製の槍などと一緒に置かれていた杖を手に取った。
「コレダ」
「失礼、『鑑定』」
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名称:不死王之杖
命中:6
攻撃力:8
装備可能職業:白黒錬賢召薬
SP:転生
その他:
属性攻撃率 / 闇+100%、錬金魔術+100%
属性防御率 / 火+100%、聖+100%
※呪い解除済み
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「本物だ…!
しかも何という高性能!」
「SPの転生ってヤバそうだにゃ」
「噂では死を超越、つまりアンデットになる為の力を得るらしいですよ」
「へ〜、それは死んじゃうってこと?」
「そうみたいです」
「絶対SP解放したらダメなやつにゃ〜」
「コレハキケンダ
ツカウナ」
「分かってますよ
SP解放しなければ良いんです」
「……」
「投神様、これを譲ってはくださいませんか?」
ヨゥトが切羽詰まった表情で懇願する。
「対価が必要だよ、ヨゥト」
「くっ…」
「おやっ、この槍とかに使ってる布、血頭巾のじゃねーか」
「え?」「は?」「本当だ…」
「投神くん、この布どうしたの?」
「アァ、ゴブリンガアタマニツケテタ」
「ゴブリンって…
それも倒したの?」
「アア、イッパイタオシタ
デッカイノモタオシタ
デッカイヤツノケンガコレダ」
一振りの大剣を引っ張り出す。
「か、『鑑定』」
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名称:皇帝之大剣
命中:8
攻撃力:40
装備可能職業:戦貴重聖天竜神魔
SP:生贄を捧げることにより攻撃力上昇※
その他:
属性攻撃率 / 聖+10%、闇+10%
状態異常抵抗率 / 睡眠+100%
※浄化時にSP能力を喪失
※呪い解除済み
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「これもすごい強力な武器だ…」
「これは血頭巾のロードが持っていたものに違いない」
「ちょっと壊れちゃいるが、むしろもっとランクの高い奴が持っていてもおかしくない程の大剣だ…」
「ということは投神くんが、ロード率いる血頭巾の大群を独りでやっつけたってことだね!」
「「「………」」」
「フフッ面白い…!」
珍しくジンズが笑った。
「勇者様方がこの地に異変を感じて調査を依頼されたが、その異変とはこの投神殿かもしれないな」
「た、確かに…」
「じゃ、投神くんを勇者様のとこに連れて行けば万事解決?」
「まぁ異変の原因そのものを持ってきたんだから、解決っちゃ解決だな」
「『瞬間移動』で跳んで帰るにゃー」
「ここは魔素が乱れてるから、ゲートダンジョンに入ってからだけどね」
「やたー!」
「ちょっと待ってください
まだ異変の原因が投神様と決まった訳ではありません
せめて今日はこの終絶の地を調査しましょう」
帰る方向に話が進んでいたのをヨゥトが冷静に引き止める。
「そして投神様が終絶に至る道のダンジョンボスである不死の王を倒したのが本当なら、未開拓ゾーンを我々パーティーで探索することを提案します!」
「な…、未開拓ゾーンの探索だと…」
「未開拓ゾーンの地図を埋めることができれば、ギルドに多大な貢献となるが…危険だぞ?」
「その危険なゾーンに入ってダンジョンボスを討ち取られた投神様がおられるんですよ
ですよね投神様?」
「?オレヲツレテケ?」
「はいはい行きましょう、未開拓ゾーンへ!」
「ちょっと待つにゃ、本当に強いかどうか試してみれば良いじゃん」
「お、そうだな〜ハハハッ」
「護衛依頼対象者を危険に晒すな!」
「寸止めの試合だ、リーダー!」
「そうだにゃー!」
「脳筋め…」
「投神殿は強い…」
「ほら、ジンズもそう言ってるんだから大丈夫だよ」
「投神くん、この二人が試合をしたいんだって」
「???」
「ん〜手合わせ?」
「オォ〜、テアワセ、ヨキヨキ!」
投神殿は嬉しそうにブンブンと手を振っている。
本当に分かっているのか?
「じゃあ投神ちゃん、私と素手でやるにゃー!」
「スデスデ!」
闘士のティーが嬉しそうに開けた場所にいく。
投神殿も荷物を降ろしてそれに続く。
「さぁやろうにゃ!」
「ヤローヤロー」
「かかってきにゃ!」
「カカッテキニャ!」
余裕を見せるティーだクイクイと指で合図を送るが、投神殿は分かってるのか分かってないのか同じ動作をする。
全く緊張もしていないリラックスした様子だ。
「へっ、じゃあ先にいかせてもらうにゃ」
ティーは素手での戦闘に特化した闘士という職業を持っている。
闘士の持つ魔技に『連続攻撃』があり、高レベルになればなるほどコンボ発生率とコンボ回数が上がっていく。
ましてやティーは超越者。
灮闡能力を得た高レベル冒険者だ。
一度コンボが始まれば倒し切るまで攻撃は終わらない。
一つ一つの攻撃力は武器を持った戦士系職業には敵わないが、物理攻撃が通る敵ならば総ダメージは武器を上回る時もある。
実際に攻撃を当てることはないと思うが、戦闘狂なところがあるから注意だ。
「いくにゃ」
バッ! ズダーンッ
「な…⁉」「なんだと⁉」「あら?」
軽く腹に打撃を入れるように打ち込まれた手の勢いを利用したのか、地面に転がされたティーがいた。
「ドウシタ、ドンドンコイ」
「……投神、お前ナマイキだにゃー」
ヤバい、ティーの目が座っている!
本気になってしまった。
獣人族は素手による戦いが強い者ほど地位が高いという。
序列を決める為に力試しはよく行われるらしく、手加減した試合とはいえ格下の投神殿に転がされたことはティーのプライドを傷付けたようだ。
「おら!」
寸止めではない打撃を打ち込む!
「ティー、手加げ…」
ズダーンッ
「ドウシタ、ドンドンコイ」
「にゃんだとコラ!」
ズダーンッ
「……!」
ズダーンッ
「な、なんで…!」
馬鹿な…。
素手の戦闘で全くティーの打撃がかすりもしないなんて。
何か混乱や魅了の状態異常でも食らったかのように、目の前の光景が信じられない。
ゴウも恐ろしく真剣な顔で二人を見つめている。
「ドウシタ、オワリカ」
ギリギリと歯ぎしりの音がティーから聞こえてくる。
ドンと一つ地面をなぐるとティーはスッと立ち、静かに構えをとった。
「闘気!」
ティーの全身が光を纏い、その一見華奢に見える体に恐ろしい程の力が漲った。
「本気でいくにゃ」
「ヨイナ、ヨキヨキ」
寸止めどころか、真剣な戦いに発展しまった。
しかしもう誰も二人を止められない。
傷付いた者をいつでも回復できるように呪文を唱え始めることしか私には出来ないのであった。