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60、ようこそ!

 6人組と銀狼の戦闘を見せてもらった。

 猫耳少女が危なかったので、思わず小石を指弾で投げてしまった。

 勝手に介入して怒られるかと思ったが大丈夫だったようだ。

 死んじゃうより良いよね。

 あ、まさか死んでも魔法で復活できるのかな?

 いやぁゲームじゃあるまいし、ないか〜。


 戦闘は高い個々の身体能力や、魔法を使った見応えのあるものだった。

 ただこのスタイルがこの世界の主流なら、俺の戦い方は異端に映るかもしれない。

 距離をとって石などを一方的に投げる。

 こちらは基本ノーダメージ。

 俺にもアクエルオー様はあるが、あんなに急激に治るわけではないし、受けるダメージと与えるダメージを天秤にかけて調整するなんて戦い方は、流派の使い手としては本能的にできないものだ。


 現状、俺のことは非戦闘員扱いにしてくれているようだし、前に出て戦う必要もない。

 俺の戦いを見て異端過ぎて連れていってもらえない、というのだけは避けたいから大人しくしておこう…。



 銀狼の牙をゲットしたみなさんは大喜び、という感じだった。

 やっぱり価値があるのか。

 牙ならもう20本以上持ってるし、連れていってくれるお礼とすれば喜んでもらえるかも。

 拾っておいて良かった〜。




「κΧν◇σγするぞ!」


 恐らくリーダーである全身鎧の美人さんがみんなに号令をかける。

 出発するようだ。


 分かってきたことがある。


 俺には熟語か、もしくは音読みの部分が聞き取れないんだ。

 なぜかこの世界の人は普通に発音するだけじゃなく、高いような低いような機械音のような何とも言えない奇妙な音を交えて話す。

 そんな音を加えて話すのは複雑だし面倒じゃないの?と思うんだが…。


 こういう分かる部分と分からない部分がある会話では、分からない部分に囚われてはいけない。

 分かるところだけに集中して、会話全体を理解することが肝心だ。


 鎧美人の言葉は本当に分かりづらいが、フワッとした不思議系魔法使いの女の子の言葉は比較的分かりやすいのだ。

 俺の言葉はこの世界の人にとって滑稽で笑ってしまうもののようだが、この魔法使いちゃんは笑いもせずに話しかけてくれる。

 マヂ天使!


 あ、はい、行きます。

 置いていかないで!



*************************



 このダンジョンはやはり誰かが踏破済みだ…。

 地図やギルドでの情報よりも随分と罠の数が少ないし、スライムの上位種であるアサシンスライムもいない。

 やはり本当に投神殿が全ての罠を解除し、スライムや玄室の魔物を倒しながら進んできたとしか思えない。

 だとしたら斥候系の職業を持っている筈なんだが…、彼は冒険者登録すらしていない。

 投神殿は何か強力な固有魔技(ユニークスキル)か、噂レベルのものだがEXダンジョンで異界の神の影を倒した者が得られるという“加護”のような力を持っているのではないか…?

 そんな特殊な力を持っていてもそれを周囲に明かすことはないと思うが、教えてもらいたいものだ。

 危険や不合理なこともあるが、不思議に満ちた世界を見たくて“森”を出たが、このパーティーにいると本当に色んな体験ができる。

 この場でしか味わえない、高揚がある。


「森を捨てた甲斐があった…」






「ジンズ、どうかしたか?」


「いや、問題ない…」


「そうか」


 珍しいジンズの独り言だったようだ。

 そんな彼が先導しているダンジョン探索は順調に進んでいる。

 玄室からも魔物は出現せず、徘徊する魔物にも遭遇していない。


「分かれ道だ!」


 ジンズから声がかかり、駆け寄ると道が左右に分かれている。


「この地図によると、ここは右だ

 しかし噂の未開拓ゾーンが近い

 気をつけろ」


「あの侵入した者は、生きては帰れないという恐ろしいゾーンか…」

「噂では死を超越したという、あの不死の王が支配しているという」

「まぁ門は越えてこないだろうが、気を引き締めないとな」

「ゾンビは嫌い!」


「投神殿、貴殿はどちらから来られたのだ?」


「?…オレヲツレテイッテクレ?」


「だめだ…、ジェーメ頼む…」


「投神くんはどっちから来たの?」


「アァ…、コッチダ」


「右か…」


「やはり終絶の地から来られたのかもしれませんね」


「……」


「よし、行こう」


 投神殿は未開拓ゾーンではなく、我らが進む先からやって来たようだ。

 もしかすると何かの原因で魔物や罠が少なくなっているのかもしれない。

 だから一般人の投神殿も半日で踏破できた、ということだ。

 そういう異変も含めての我々の調査だ。



*************************



 分岐点を越え、しばらく進むと門が見えてきた。

 ライオンベースの怪物がよく出現するあの部屋だ。

 まぁさっき俺が倒したから、今日はもう出ないだろうけどね。

 この6人組は慎重に慎重を重ねた歩みでダンジョンを進む。

 日が暮れちまうな…。

 まぁ良いんですが。


 部屋に入るのにもたっぷり時間をかけ、恐る恐る侵入した。

 何も現れませんって。

 さっさと行きましょう。




 不死の王が出現した方面には進まず、やはりダンジョンを出るのが目的のようだ。

 岩ばっかりて何もないないよ?


 いや、今は素敵なランドマークがあったわ。

 湖の跡地に生えた柳が。

 無謀にもせっせと水をやり、今では30mほどの大きさに成長した。

 垂れ下がった無数の枝かサラサラと風に棚引く様子は圧巻だぜ。

 なげ池には少しだか水は残っている。

 我が拠点に招待しようではないか、諸君!



 はっ!?注目を浴びている…?

 声が出てました?

 ブロキャサーの癖なんです。

 自分の心の中で思ってることを口に出しなさいって、氷の視線で攻撃する凶悪なモンスターが俺の世界にもいましてね…?



 さらに空気が冷たくなったようなので、ハつ石をトスジャグリングして誤魔化す。


 おお〜不思議魔女ちゃん、超食いついてくれてます!

 マヂ天使!




「行くぞっ」


 しばらく俺のショウ・タイムをみなさん堪能された後、少し怒ったような声で出発の号令がかかった。


 ついて行きますとも。


 …あれ?

 貴族の王子様っぽい方、何か落としましたよ。

 てか、捨てた?

 投げ目を持つ俺じゃなきゃ見逃しゃうが、この世界の慣習かもしれないので、華麗にスルーだ。


 王子様と一瞬目があった俺はサムズアップで応える。

 分かってるって!


 あ、殺気の籠もった目で睨まれた。

 貴族、怖い。

 何だよ、『これ、落としましたよ!』って拾って渡してやろうか?

 いやいや、こちらは連れて行ってもらう立場。

 大人しく見なかったことにしておこう。

 年齢も俺が一番高そうだしぃ。


「大人の余裕だ」


「………」


 王子様はフッと目をそらし、他のメンバーの後を追った。



 世界は違っていても、人がいればどこも同じようなもんだな〜。


「やれやれ」




************************



「出口がある!」


「「「おお〜!」」」


 とうとう超難関ダンジョン“終絶へ至る道”を踏破した!

 大崩壊があった後、このゲートダンジョンを踏破したパーティーは数える程だという。

 比較的新しいSランクパーティーである我ら“未だ見ぬ地平線”の金字塔となる偉業として評価される。

 これで悲願に一歩近付いた。


 しかし、勇者様方からの依頼はこの先だ!


「出口付近にて小休憩!

 装備を確認して10分後に出発する!」


「「「了解!」」」



 各自興奮と緊張を高めながら、無言で装備を整えている。

 今までは迷宮型ダンジョンだったが、これからはこの地域一帯がダンジョンだ。

 あまり経験したことのないタイプであり、そしてここは魔力が狂っているといわれている。

 何が起こるかわからない危険な場所だ。

 柔軟で臨機応変な指示を出さなければ…。



「時間だ…、出発!」


「「「おおう!」」」


 ゲートダンジョンを出る。

 外は夜だ。


「こ、これは!」

「キャア!」


 悲鳴があがる!

 何たる魔力の乱れ!

 魔素が集まったと思えば、急にゼロになったりと目まぐるしく変化する。

 これでは高位の魔術は行使できぬ!


「大丈夫か?!」

「噂では聞いてたけど、気持ち悪いところだにゃー」


 魔術師系の職業ではないゴウとティーとジンズはそれほど影響を受けていない様子。

 純粋な魔術師系のヨゥトとジェーメは立っているのも辛そうだ。

 聖騎士の私はその中間という感じか…。


 投神殿は…、全く影響がない様子で体調を崩した我々を心配そうにしている。


「ダイジョウブカ?」


 そうか…、彼は魔力がゼロだったな。


「あの木!」


 ティーが何かに気づく。


「何と大きい…!

 こんな巨木の情報はなかったぞ⁉」


「木の周りだけ魔素が落ち着いてる…?」


 賢者のジェーメには分かるらしい。


「あの木の近くに行こう!」


「おお…」

「……」


 私も含めてみな元気が出ないようだ。

 あそこまで行けるだろうか…。

 ジェーメは特に立ち上がることも出来ないようだ。


「ノレ」


 長物をダンジョンの出口付近に立てかけた投神殿がしゃがんでジェーメを背負ってくれるようだ。


 いくら小柄とはいえ、成人女性を一般人の彼が背負って行ける距離ではない。

 ないはずなのだが、おんぶした途端ものすごい早さで走り出した。

 しかもあの変な武器を振り回して…。


 あっという間に見えなくなった彼らは、またすぐに投神殿だけになつて戻ってきた。


「ノレ」


「わ、私は大丈夫だ。

 ヨゥトを乗せてやってくれ…」


「ノレ」


「………、ありがとうございます」


 ヨゥトがしっかり掴まったのを確認すると、またあり得ない速度で走り出した。


『ひえ〜、これは早い!』



 結局全員が投神殿に背負ってもらい、巨木の付近まで行くことができた。


 なぜこんな冒険者登録もしていない普人族が力強いのか不明だ。

 おんぶしてもらう時にちょっとドキドキしてしまったのは気のせいだろう…。




「ヨウコソ、オレノキョテンヘ」


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