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6、投げがおかしい

「はぁ〜びっくりしたぁ…」


 しばらく呆然としていたが、仕留めた鯉をそのままにしておけない。

 引き上げよう。


「それにしても、でっかいな!」


 余裕で鯉の世界記録じゃない?

 誰か早よ、アクションカメラ持ってきてー!

 ……ブロキャサーの悲しい性よ。


 巨大な魚を獲ったことはある。

 魚はある一定以上大きくなると、目が怖い。

 知性を、意思を、感じる。

 幸か不幸かこの鯉は、角石によって頭部は破壊されており、スプラッターな感じです。

 そして赤石があたったところは焼けている…。

 『お肉』として見れば怖くない!

 オーストラリアでもモンゴルでも家畜を捌いたではないか!

 何もないこの世界で生きていくには必要!

 鯉は古来より食用とされてきた。

 有難く生命を頂こう。


 無理やり頭を切り替えて2mの鯉を小高くなっている場所まで引きずる。

 めり込んでいた角石と赤石を取り出す。


「火が出たのも不思議だけど、あのバカげた威力は何だったんだ…」


 様々な投擲種目のアスリートとして一世を風靡した俺ならわかる!

 あれは異常だったと!

 検証をしたいところだけど、先ずは魚を捌こうか。

 包丁もまな板もないのだが。

 鱗を角石の鋭角になっている部分で剥がしていく。

 一個一個の鱗がでけぇ!

 鱗まみれになりながら、だいたい剥ぐことができたようだ。

 鯉といえば苦玉。

 苦玉を潰さないように内臓を処理しないと。

 研ぎもしていない石なので、切るというか引き千切るようにしてお腹をだす。


「これが苦玉…」


 確か毒だったはず…。

 混ざらないように分けておこう。

 三枚におろすのは諦めた!石では無理!


 生でもいけるとは思うが、焼きたいな。


 この赤石でもう一度火を起こすことできたら、焼き魚にできるんだけどね…。


「そんなことありえる?」


 もう一度投げて確かめよう。


 赤石を少し離れた岩に軽く投げてみる。


 シュッ…  ズガンッ!


「だから強いって!」


 岩が砕け、炎が上がった。


「おおお〜」


 赤石が燃えているのではなく、ぶつかったあたりが燃えている。

 原理はわからん。

 赤石は普通の石に思える。

 でも岩は砕けたのに、この赤石は傷付きもしていない。不思議だ。

 観察していると火は収まり、焦げ跡が残るのみとなった。

 何の物質が燃えてるんだ?

 水中でも火がついてたし。


「むむ〜、考えてもしょうがないかぁ」

 得意の投げ遣り思考で切り替え切り替え。

 あの流木を使って焼き魚にしよう!


 エラと内臓を抜いても2mの魚体は大き過ぎる。

 引きずりながら流木まで戻ってきた。


「はー疲れた」


 赤石で流木に火をつけるとして、流木を丸ごと燃やすのはもったいないな。


「…投石で割れないかな?」


 さっき軽く投げた赤石が岩を砕いてたし、ワンチャンいけんじゃね?

 平べったい角石のほうを持って水切りの構えをとる。


「…投げる!」


 シュンッ!  ズバンッ!


 まじでっ!一抱えもある流木が割れた!

 寝かせた流木が綺麗に真横にスライスされている。

 おかしいって。

 石がおかしいの?

 俺がおかしいの?


 小さな木片ができたので、それを投げてみよう。


 それでは…


「投げる!」


 シュッ! ズドン!


 俺だ!俺がおかしい!


 小さくて軽い木片が地面の岩を砕いてます!

 怪力とかそういう話しじゃない。

 なんで木が岩を砕いてるんだ!

 異世界か!

 異世界のせいか!


 …そうだな。

 地球の物理法則とか、常識で考えてはダメだ。

 クールに!

 クールじゃないと最高の投げ(パフォーマンス)ができないぞ、シュナイデック!



 …シュナイデックのお影で冷静になれたところで、流木をさらに細かくしようか。

 というか何本か棒状にしたい。

 流木の向きを変えながら、何度も角石を投げ込んだ。


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