58、ついて行きます!
「異世界からコッソリこんにちは
徹底投擲チャンネルの投神です…
俺はいま、なんと現地の人達と一緒に行動してます!
あ、皆さんに白い目で見られてますので、ちょっと喋るのは控えておこうと思います
世界を投げ投げ…」
コソコソとオープニングをプロアウェイで撮影していたのだが、気がつくとメンバー全員から不審な目で凝視されてしまっていた。
ダンジョン内って声が響くよね。
スミマセン…。
「行くぞ」
はい。
ついて行きますとも!
しかし、こっちは俺が来た方向ですが…。
何もないよ?
ダンジョンから出ても岩しかないし。
まぁ連れてってくれるなら、どこへでも行きます!
この6人組はイケメンエルフをひとり先行させ、罠や敵がいないかを確認しつつ進行するスタイルのようだ。
罠を発見するとリーダーに報告し、時間をかけて解除する。
なかなかこれは時間がかかるね…。
しかし、郷に入れば郷に従え。
この世界の人にはこの世界のやり方があるのだから、黙ってついて行くのみだ。
流星錘を操りながら、のんびりとこの6人組を眺めるのであった。
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「やっぱあいつ変じゃね?」
ゴウがつぶやく。
あいつとはもちろんゲスト枠の投神殿のことだ。
涼しい顔で大量の荷物を背負い、謎の武器のような物を弄びながら最後尾を歩いている。
「なんであんなに余裕あるんだにゃ…?」
ティーも彼の異常さに気づいているようだ。
何の力も持たない一般人がダンジョンに潜るというのは、常に死が隣り合わせの恐怖の体験でしかない筈だ。
以前、パーティーでギルドの護衛依頼を受けた際に一般人をゲスト枠に加えてダンジョンに潜ったことがあるが、ゲストは半狂乱に陥ってしまった。
あの時は収拾がつかなくなってしまい、ゲストを魔術で眠らせてダンジョンを踏破したのだ。
それと比べると投神殿はリラックスし過ぎている。
まるで自分の庭を歩くかのようだ。
彼は職業も持たず、ステータスの数値も多少高いが一般人のそれだ。
なのにこの余裕…。
「玄室だ!」
先行するヨゥトの声が聞こえた。
私たちは7人揃って門の前で装備を確認し、玄室の中に足を踏み入れた。
「魔物は……現れない、か…」
ここは玄室の筈。
魔物が現れないということは、最近魔物が討伐されたということだ。
皆の視線が投神殿に向かう。
皆の注目を浴びた投神殿は、よく分からないが親指を上に向けて胡散臭い笑顔をみせた。
何故だろう、少し怒りを覚えます。
しかし一般人がこの超難関ダンジョンの玄室の魔物をソロで倒すことが出来るのだろうか?
勇者様あたりなら出来るであろうが、あの方々は基本的にペアで行動されている。
補給や休憩もあるのにソロでこんなにも深く潜れるものだろうか…。
何か魔物を回避する特別な方法があると考えたほうが良いでしょう。
そんな方法があるのなら、聞き出さねば!
「小休憩の後、出発しますので各自準備を」
「「「了解!」」」
「投神くん、質問しつもーん!
どうしてソロでこんな深く潜れたの?」
「ソロ?」
「うん、1人で」
ジェーメがなかなか良い質問をしてくれた。
屈託なく行動できるのが彼女の良いところだ。
「ア〜…、オレハイワノダイチ二オチテキタ
ソコカラダンジョンヲトオッテキタ」
「どこから落ちて来たの?」
「ドコカラ?
ウーン…、テン?」
人差し指を天に向けて、投神殿は答えた。
何故かジェーメの言葉はよく通じるらしい。
「天?お空か〜。
痛くなかったの?」
「イタク?
アァ、イタクナイ
ミズトトモニオチタカラ」
「ふ〜ん、良かったね!」
「アァ、ヨカッタ」
成る程。
投神殿は何と言うか、子供言葉を喋ると通じやすいのかもしれない。
私もなるたけ難しい言葉を使用しないように気をつけないと。
「魔物はどうしたの?」
「???
キキトレナイ…」
「え、魔物だよ、ま・も・の!」
「……ダメダ…」
「何でだろ?」
「ジェーメ、もしかすると彼が持たざる者だから…
魔声帯を使った言葉は話せないし、通じないのかもしれませんね」
博識なヨゥトが一つの可能性を示した。
確かにそうかもしれない。
「え〜、じゃ投神くんは古代人?」
「いえ、持たざる者とは先祖返り…、遺伝的な病と云われています」
「そうなんだ可哀そう!」
そうだ。
魔声帯を持たない者は極稀に生まれ、今なお差別の対象となっている。
同じように魔人をルーツに持つ魔族も迫害の対象であったが、属性が善の者が現れ、次第にこの世界に受け入れられつつある。
それは魔族が率先して魔人と戦う姿を人々に見せることで築き上げた信頼なのだ。
しかし持たざる者は魔声帯を持たないから、冒険者登録ができない。
だからダンジョンや戦いで活躍することができないのだ。
あからさまな迫害は因果応報により悪堕ちするから表立ってはされていないが、風当たりは非常に強いと聞く…。
「じゃ魔声帯を使わない、古い言い方なら通じるのかな?」
「一般的に、聞き取ることは普通にできたと思いますが…
投神様の場合は話しかける際も古い言い回しのほうが伝わりやすそうですね」
「念話は?」
「あ〜、念話ね…
良いアイデアですが、今はダンジョン内ですし、貴重な魔術回数を消費するのは避けたいので、街に戻ってからにしませんか?」
「うん、そうだね」
そうだ。
投神殿も不思議だから勇者様たちやギルドに報告せねばなるまいが、調査対象は終絶の地だ。
立ち上がり、声を張る。
「みんな、そろそろ行こうか」
「「「了解」」」
「おかしい…
罠が少ない」
少し前を行くジンズが珍しく呟いた。
確かに投神殿と会ってから罠や魔物に遭遇していない。
罠までも解除できるのか?
また、あの親指を立てるヤツ!
腹立たしい笑顔を睨みつけると、投神殿が少し真剣な顔をした。
そう、最初からその顔をしていたらかっこ良いん…
「クル…
ギンロウガクル…」
「ギンロウとは?」
「デカイイヌ?オオカミ?」
彼は肩に担いでいた長物の束とリュックを地面に降ろした。
何を始めるんだ?
「オテナミハイケン」
異様な投神の行動に、否応なく緊張感が高まる。
この通路で何があるというのだ。
その時、先行するジンズの鋭い警告が飛ぶ!
「前方から足音!
恐らく魔物だ!」
通路での遭遇戦!
一番避けたいものだが、そうは言っていられない。
駆け込むように戻ってきたジンズを後衛に戻し、前衛の左右をゴウとティーが担い、正面には私が入る。
「投神殿は下がっていて下さい!」
「アァ」
その時、軽快で小さな足音をさせて姿を現したのは…、
「放浪する神狼…!」
伝説のフェンリスウルブ!
「最悪にゃ…」
弱音を吐いたのはティーか。
無理もない。
猫系の獣人族にとっては神狼は本能的に勝てないと思ってしまうらしく、全く動けなくなると聞く。
犬系獣人族に至っては信仰の対象にさえなっている程だ。
「ティーは後衛に!
ジェーメ、氷雪之障壁の発動準備!
ヨゥトは奴の敏捷値を下げろ!
ジンズは矢で隙を突け!
みんな、出し惜しみするな!
ゴウ、行くぞ!」
「「「おおう!」」」
ヘイトを稼ぐように大きな声で指示を出して、前進する。
チラリと一般人の投神殿が心配になるが、聖騎士の“灮闡能力”でゲスト枠へも状態異常耐性向上、防御力向上の効果がある。
私がいる限り誰も死なせはしない!
こうしてS級魔物との絶望的な戦いが始まった。
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6人組と銀狼の戦闘を後ろから観戦させてもらう。
この世界にはこの世界の戦い方がある。
異文化の地では先ず現地の人々がどのように行動するかを観察し、その行動に倣うのが正解である。
自分の尺度で判断し、行動するのはトラブルを招く場合があるからだ。
しかし…、
「危うい、な」
なんだろう…、組み合い過ぎている。
正々堂々というか、真面目というか…。
俺ならば、遠距離からの一方的な攻撃だけで終わらせる。
相手のやりたいことをやらせない、付き合わないのだ。
しかし、これがこの世界のあり方なら、俺は卑怯者と罵られるかもな。
本当に危なくなったら介入しよう。
人が死ぬよりはマシだろう。
俺は石をお手玉にしながらハラハラとみんなを応援するのであった。