55、投神さま
「異世界からこんにちは!
徹底投擲チャンネルの投神ですっ
今日も元気に〜、世界を〜投げ投げ!
はい皆さん、ご覧になれますでしょうか?
目の前に怪物がいます!
ほらあ〜首が3本もありますよ
尻尾にはさらに蛇になってますね…
ちょっとどういう神経系統になっているんでしょうか
ライオンの体を動かしてるのはどの頭なの?
…なんて突っ込んではイケマセン
ここは異世界っ
異世界不思議パワーでどうにかなってるんです!
対する私も異世界投げパワーで戦います
最後までご視聴のほど、よろしくお願いします
それではスタート!」
今日も今日とてダンジョン探索。
いつもの敵が出てくる部屋で出現した怪物と絶賛戦闘中だ。
一度も充電してないがプロアウェイは青く光り続けている。
光っている以上、撮影しなくてはブロキャサーの名が廃るってもんよ。
今回の怪物は3本首だが、まぁやることは同じだ。
「投気!」
遠距離からの投げだ!
「貫けっ!」
4本の金属杭を右手の指に挟んで投げつけるのだが、この金属杭に石英の光を纏わせると効果的であることが判明したのだ。
シュンッ! ズガガガガッ!
貫通力が凄まじい。
そして石英の浄化の光が内部から焼きつけるように輝き、キマイラは断末魔の悲鳴をあげて溶けていった。
「はい、終了っ」
最近はダンジョンのモンスターの対処にも慣れてきた。
探索した範囲も拡がっているのだが、なかなか文明圏の手がかりはない。
拠点のなげ池の水は半分ぐらいになってしまっている。
芽吹いた柳が可愛くて、ついつい水をやってしまうのが減っている原因なんだが…。
ついね…!
柳は急速に成長し、今では高さ10mほどになった。
最近は柳の木の中で寝ている。
成長スピードが早いので、毎日寝てると寝転がるスペースが出来たので快適だ。
サワサワと風にそよぐ柳の枝垂れた枝に包まれていると、1日中でもボーっとしてられるぞ。
駄目だ。
水を、文明を探さなくてはと、ダンジョンに通う毎日である。
「さぁ、どんどん進もう!」
いつもの小石と牙を拾い、探索を再開する。
今日も流星錘は冴え渡り、罠やスライムを処理しながら快適に進む。
ダンジョンの入口からまぁまぁの範囲を調べたが、特に何もなかった。
あのセ何とかちゃんの足で進める距離なのだろうか?
それともダンジョンの中にずっと住んでたのか?
あの子、だいぶ消耗してたけど大丈夫かな…。
いまはどこで生活しているんだろう。
「セナントカちゃん、元気かなぁ…?」
「まだ寝ていないのか、セリシア」
宿の一室で明かりも点けもしないで本を読んでいるセリシアに声をかけた。
「ダーグさん、あと少しだけ…」
ダンジョン”終絶に至る道”で凄惨な体験をした彼女は、この街に来て数日の間は死んだように眠っていた。
そして目を覚ますと本を読み漁るようになったらしい。
保護している魔族の者たちは、塞ぎ込むよりは良いと判断して好きなようにさせていた。
しかし誰とも話そうとせずに、鬼気迫るほどに知識を吸収するばかりの彼女を心配して、彼女を救出した私に相談したのだ。
「なぜお前はそれほど知識を求めるのだ…?」
読んでいた本から目を離し、俺を見つめる。
暗がりの彼女は少し大人びて見えた。
「…助けたいの」
「誰を?」
「彼を」
「彼?」
「私を助けてくれた、彼…」
もちろん彼女を救出した我らSランクパーティー”星を求める者ども”のことではない。
「なげがみとかいう変な名前の、”持たざる者”の彼か…」
持たざる者と口にした途端、セリシアの視線がキッと鋭くなる。
「…だから私が彼の助けとなる」
魔族の我らはまだまだ差別される立場にあるのが現実だ。
そんな状況を打破する為に我らは日夜冒険者として活動している。
Sランクまで登り詰めた我らを見て、少しずつ街の人々は意識を変えてきている筈だ。
持たざる者も同じような差別される立場ではあるが、数も極端に少なく何の力も持てない。
そんな彼を助ける為に知識が必要と考えたのか…。
「魔族のお前にできるのか?」
「できる」
「それに彼には何やら秘密がありそうだぞ」
「知っている
彼は古代語を喋っていた」
「何?古代語だと…」
「絶望の中、何度も何度も何度も何度も何度も何度も助けを求めた
仲間に、マザーに、神に!
誰も助けに来てはくれず、みんな殺され犯され食べられたわ…
小さい私の番は最後に回された
いつ私がああなるか…
恐怖で私の心はもう死んでいたわ
そんな私を助けてくれたのは、彼よ
他の誰でもない
だから私は彼の力になるって決めたの」
目に強い意志の光を灯し、そう答える彼女は、もう子供ではない。
一人の強い女性だ。
彼女の一族は彼女を除く全てが惨殺されたのだ。
間に合わなかった我らは何も言うことはできない。
「しかし彼はいま超難関ダンジョンにいる筈だ
果たして街に来ることができるか…」
「できるわ」
さも当然のように答える。
「彼はひとりで数百の血頭巾と、そのロードやキングを倒した
だからきっとダンジョンを越えてくるわ」
「バカな!
彼は、持たざる者は職業を持てないんだぞ!
そんな力があるはずが…」
「だから調べてる」
揺るぎない眼差しが私を射ぬく。
「………そうか」
私にも彼があのダンジョンでくたばるような奴に見えなかったのは確かだ。
ツオに鑑定をさせたが、もっと詳しくステータスを見れる解析をさせたほうが良かったな。
まぁ良い。
いつかまた相見える日が来るだろう。
「お前の覚悟はわかった
だが身体を壊しては彼の助けにはならん
お前はまだ幼い
しっかり休んで、しっかり励め」
「ん、わかった」
パタンと本を閉じ、ボスっとベッドに潜り込んだ。
その様子はやはりまだまだ子供だな。
部屋を出ようとしたところ、毛布の中から声が聞こえた。
「明日、冒険者登録する」
「何?お前はまだ10歳だろう?」
「もう11歳
それに現在の冒険者ギルドは年齢制限がなくなっている」
「し、しかし早すぎるのではないか?」
「冒険者に実年齢は関係ない」
「くっ…!」
確かにステータスに記載される年齢は、実年齢と異なる場合がある。
レベルが上がれば上がるほど、実年齢は問題にならなくなっていくものだが…。
「バオリ家は許しているのか?」
「ん」
彼女を保護している一族が許しているのなら、もう何も言うまい。
「わかった
冒険者で困ったことがあれば頼るが良い」
「ありがと」
今度こそセリシアの部屋を出て、自分の部屋に戻る。
ここは聖別された『宿』ではなく普通の宿だが、清潔で心地よい。
僅か11歳で戦いに身を投じることを決めた彼女に敬意を抱く。
我ら魔族はその種族の起源ゆえに、魔物や魔人と戦うことでしかこの世界に赦されない。
いつかは戦わなければならない運命なら、それが今でも良いだろう。
「マザー、導きを」
毛布に包まりながら、彼のことを想う。
壊れた世界に燦然と現れた私だけの神様。
穢らわしい血頭巾どもを蹴散らし、戒めを解いて私の心と身体を聖なる水で癒やしてくれた。
あの方に仕えるのが私の使命だ!
待っていて。
「投神さま…」