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54、Sランクパーティー


「流石は超難関ダンジョンと言われるだけのことはありますわね…」


 勇者様の直々の頼みとはいえ、パーティーリーダーとしてこの調査依頼を引き受けたことに少し後悔を覚えている。


 魔人との戦いにおける最前線の辺境の地にあって最強と名高い、我がSランクパーティー『未だ見ぬ地平線』をもってしてもこのダンジョンは手強い。

 ゴブリンの上位種である凶悪な血頭巾(ちずきん)電撃粘魔(イエロースライム)が数多く出現し、罠も多発する。

 そして噂では放浪する神狼(フェンリスウルブ)まで出現するという。


 もともとは地下通路だったところがダンジョン化したと言われている“終絶へ至る道”は、冒険者に単純な強さだけでなく柔軟さと継戦能力が求められる極悪なダンジョンである。



「にゃぁ〜、勇者様の頼みだからしょーがないけど、なかなかしんどいにゃー」


 我がパーティーの切り込み隊長、獣人族の闘士のティーがぼやく。

 素手の格闘に特化した職業(ロール)で、敵によっては避けタンクとしても活躍してくれる。


「そんなことは依頼を受けた時から分かっていただろ、猫娘っ」


 戦士のゴウがからかい口調で答える。

 基本職の戦士がSランクパーティーにいるのは少し珍しいことだが、万能で安定した戦いをしてくれる彼はこのパーティーの要のアタッカーである。


「ニャンだと〜、筋肉ダルマ!」


「まぁまあ二人とも!

 あの勇者様の直接のご依頼なんですから、確実にやり切りましょう!

 あのお二方が気にされるほどの()()があるですから、それを解明して報告すれば喜んでもらえますよ」


 いつもの小競り合いを錬金術師のヨゥトが仲裁に入る。

 戦闘能力は低めの錬金術師だが、彼がいることで継戦能力が飛躍的に伸び、支出も抑えられている。


「は〜い!

 ジェーメはお日様が見たいです〜!」


 白魔術、黒魔術を極めた賢者のジェーメが手を挙げて関係のない意見を述べる。

 ちょっと不思議系の女の子だが、高レベルの彼女の放つ範囲魔術は敵に壊滅的なダメージを与える。


「戯れは仕舞いにしろ、罠だ」


 少し前を歩く、このパーティーにおける罠担当の斥候のジンズが珍しく口を開いて窘めた。

 耳長族の彼はこのパーティー内では転職をしていない唯一の『一角獣(ユニコーン)』でレベルが非常に高い。

 罠や敵をいち早く発見して最初に対応してくれ、ダンジョン探索に最も貢献してくれる頼もしい存在だ。


「ジンズ、解除を」


 ジンズに指示を与え、念のために盾を構える。


「了解した、ハルゥーカ」


 気の抜けた空気が再び引き締まる。

 冒険中はメリハリが大事だ。

 それをみんな心得ていて、軽口を叩いて緊張を緩和する時とそうでない時を明白に分けることができる。

 我ながら良いパーティーだ。

 私の職業(ロール)は聖騎士だから、みんなを守り導いていかねばならない。


 そしていつか、必ず……。







「……解除した」


「さっすがジンズ」「すごーい!」


 たっぷり時間をかけて罠の種類を特定し、適切な処置を行って解除してくれた。


「ありがとう、ジンズ」


「礼には及ばん。

 これは俺の仕事だ、ハルゥーカ」


 生真面目な耳長族の男が答える。

 ダンジョンの罠は数十種類ほどもあり、それぞれに適した解除方法をしないと“事故”が起こる。

 罠によってパーティーが全滅したなんてことはよくある話しだ。

 それだけにどのパーティーにも1人は罠解除の技能を持つ者がいる。

 錬金魔術で解除も可能だが、罠や宝箱を解除していたらすぐに使用可能回数が尽きてしてしまう。

 その点、ウチは罠解除のエキスパートの職業である斥候、しかも高レベルのジンズかいるから長い時間ダンジョンに潜っていられるのだ。


「いえ、助かっているわ」


「……」


 耳長族は無口でクールと言われているが、ジンズは心に熱き義侠心を持っている。

 それが表に出ないだけだ。


「行こうよリーダー!」


 身軽で最低限の防具を着けた闘士のティーが急かす。

 華奢な身体でどうしてあのような強烈な攻撃を繰り出せるのかは謎です。

 私も転職したら使えるのだろうが、そんな自分をあまりイメージできない。


「出発しましょう。

 目指すは終絶の地!」


 目的地はまだまだ遠い。

 安全マージンをしっかりとって進もう。

 いくら勇者様たちの願いでも、死んでしまっては元も子もない。

 最悪引き返すことも念頭に入れておかねば…。









「ヨゥト、ティーに奴の攻撃を集中させて!」


「了解!」


「ゴウはサイドから攻撃!」


「おりゃー!」


「ジェーメは対ブレス障壁を張り直して!」


「ほ〜い」


 玄室と呼ばれる魔物が必ず現れる部屋での戦闘。

 急な遭遇戦よりは有利に進められる筈が、出現したのは何とキマイラ!

 キマイラの中ではライオンと蛇の首しかない下位のものだが、それでもSランク級の強敵だ。

 開幕ブレスを受けてパーティーは大ダメージを食らってしまった。

 すぐにジェーメの賢者の全体回復魔術でHPの危険域は脱したが、やや膠着状態だ。


 ブレスを吐かせないのが最優先。

 だからティーに接近戦で貼り付いてもらう。

 最大のダメージ源はゴウの攻撃だ!


「魔斧よ唸れ!

 魔技(スキル)・砕岩波ー!」


 ギャアオウゥゥ!


 ティーに気を取られていたキマイラにゴウの防御力無視の魔技が決まった。

 これで流れがこちらに傾いた。


「ティーも攻撃!

 メインタンクは私が!」


「了解ニャー!」


 聖騎士は重装備が可能な防御に優れた職業。

 盾で攻撃を防ぎながら、カウンターで攻撃を入れる!


「いっくニャー、連続攻撃!」


 バンバンバンとティーの打撃がキマイラに当たっていく!

 一つ一つの攻撃力はガウの魔斧よりは低いが、連続攻撃の総ダメージは戦士に匹敵する。


 ティーの連続攻撃が終わった際の隙を狙ってキマイラが攻撃をしかけた!


「させん」


 ジンズの放った矢がキマイラに命中!

 怯んたところに盾でカバーに入る。


「二人ともサンキュー!」


 苦し紛れに炎のブレスを吐くが、障壁に守られて無傷だ。


「いっくよー、氷之槍!」


 呪文を完成させたジェーメが巨大な氷柱を爆発させるように打ち出した!


 ギャンッ!


 氷柱は見事にキマイラの胸に刺さり、大ダメージを与えた。


「仕上げだっおりゃーっ!」


 ゴウの魔斧の強烈な一撃がライオンの額に打ち込まれ、キマイラは力尽きた。




「戦闘終了

 みんな、お疲れ様!」


 キマイラの体がダンジョンに還元され始めるのを確認してから、緊張を解いて皆に声をかけた。


「おう、お疲れ」

「ひ〜疲れたニャー!」

「強敵でしたね」

「ジェーメはお腹が空いた!」

「…お前はまたそれか」


 それぞれが答えて、反応する。

 これがルーティンとなってメンバーの結束を高めている。 

 良いパーティーに成長した。


「被害は?」


 遠征なので、HP管理には気をつけないといけない。

 特に回復魔術が必要なメンバーはいないようだ。


「最初のブレスの後、すぐに回復呪文を唱えたのが良かったわ、ジェーメ」


「でしょでしょ、エヘヘ〜」


 私に褒められて嬉しがるジェーメ。

 か、かわいい…。

 屈託のない無邪気な笑顔を浮かべるジェーメが少し羨ましい。

 私はいつも仏頂面。

 そうあれと教育されてきたからだ…。



「その時間を稼いだ僕の暗闇之雲も忘れないでくれたまえ、リーダー」


「そうねヨゥト、良い判断だったわ」


「みんな頑張った、で良いだろ?

 それよりドロップ品は何だ?」


 ゴウが還元水の中に残されているアイテムを指差す。


「これは“骨”だな

 魔石もある」


「どれどれ…〈鑑定〉!」


 ジンズから魔石を受け取ったヨゥトが魔術を使用する。


「なかなか高純度の魔石だ

 キープしておいて、エンチャントするか売却だな」


「骨は微妙だな

 牙か爪なら良かったのに…」


 遠征の場合はドロップ品の取捨選択が重要になる。

 パーティーには鑑定持ちは必ず1人は必要である。


「この骨は捨てていきましょう

 この先には、もっと重要な物を手に入れる筈だわ」


「「「おお〜!!」」」


 今はまだ終絶の地に連なるゲートダンジョンでしかない。

 本番はこれからだ。




「さぁ行きましょう、終絶の地へ!」



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