5、異世界第一投目!
高台から見えたものは大きな流木だった。
「これは嬉しい!」
少し水を含んではいるが、サバイバルでは重要な木材をゲットだぜ!
いまのところ加工する術がない訳だが。
水に浸からないところまで引き上げてっと…。
「うおっ!なに?」
流木をひっくり返した時に、水中の影から何かが猛スピードで泳ぎ出てきた。
ビビっているとあっと言う間にシュンシュンと泳ぎ去り、もう見えない。
「なんだ、いまの…?」
大きさは30センチぐらいなんだけど、魚ではなかったように見えた。
この世界では初めての生命体との遭遇…。
ちょっぴり嬉しい。
姫神湖から一緒に落ちてきたのかな。
さて、行ってしまったものはしょうがない。
流木を乾かしておこう。
生き物がいるのがわかった。
魚も一緒に落ちてきている可能性がある。
つまり食料を得ることができる!
テンションあがってきたー!
裸だけど。
魚を見つけたとしても、石を投げるしかないってのが辛いな。
いや、熱帯雨林でも草原の川でも現地の人と投石で漁をしたことあるじゃん。
頼むぜ相棒、チャート(仮)!
水際を生まれたままの姿で歩く。
湖面に映る自分の姿は大変恥ずかしい。
オレンジ色の頭が恨めしい。
鬼プロデューサーが『ブロキャサーなら髪の毛は派手に染めないとねっ』なんて言うから…。
なかばヤケクソでオレンジ色にしました。
なぜかって?
橙は投に繋がる尊い色なのだ!
……このくだり、エムブロで何回かやりました。
寂しい。
ところで喉が乾きました。
お腹も減りました。
ちょっと怖いけど湖の水を飲むか…。
煮沸したいが、何も道具がない。
ないったらない。
姫神湖は山頂付近にあり、あたりに民家や畑は存在しない。
水は綺麗と信じたい。
腹を決めて、手で水をすくい、飲んでみる。
「うめぇ!」
ごくごくとお腹がチャプチャプになるまで飲んでやった。
心なしか身体が軽くなり、空腹も紛れた。
よし、探索再開!
「お、また石発見!」
今度は赤い石だ。
鮮やかで綺麗な赤い色をしているが、これもチャートなのかな?
わからん。
君は赤石と命名しよう。
一番最初に拾ったのは角石とします。
利き腕の右手に角石、左手に赤石を握りしめ、探索再開。
いまでちょうど半周したあたりかな。
少し高くなったところから湖を見下ろすと、中心は結構深いようだ。
黒々として底は見えない。
ここら一帯の黒い岩肌と相まって、なかなか禍々しい雰囲気だ。
さらに湖畔を進んでいくと、少し深めのところにまた石を発見した。
軽く潜れば届くだろう。
真っ裸だし少し暑いぐらいだから、ちょうど良いか。
「よし、行くか……って、何だ?」
水の中に足を入れた瞬間、何かが猛スピードで近づいてきた!
急いで水から離れる。
ジュバッ!
「こ、鯉?」
水面から俺を吸い込まんと大きな口をあけて襲ってきたものは鯉!
てか、2m以上ありそうなんですけど。
ヒゲもやたら長くてブンブン振り回してやがる!
水からは離れられないようで水際で暴れているが、デカ過ぎて気持ち悪い。
でも食料確保という意味ではめったにないチャンスなんだが…。
勇気をふり絞って、角石を構える。
頭に当てれば気絶させられるかも。
「おらっ!」
ズドン!
いやいやいや、なにこの威力!
おかしいって!
ただの石ころ投げただけなのに、エラいことになってるよ!
脳天を潰されているのに、鯉はなおも暴れる!
沖に行かれると面倒なので、赤石でとどめをさす。
ズドン!
だから威力がおかしいって!
ズブズブズブ…
「なんで燃えてるの!」
赤石があたったところを中心に火が上がっている?
水の中なのに?
あ〜こういうタイプの花火もあるよね。
なんて現実逃避をしていると、火は収まり、鯉も力尽きたのかおとなしくなった。
「ちょっと一旦落ち着こう」
色々いっぺんに起こり過ぎ。
異世界の第一投目は混乱するばかりだった。