前へ次へ
48/159

48、ポエム

 高速で投げ出されたゴーレムのロケットパンチの勢いを利用して、さらに加速して投げ返してやった。

 超硬い謎の金属の塊だが、俺の異世界投げパワーで強さが強化された腕のほうが硬かったようで、頭部を含む上半身は粉々になった。


 ロケットパンチが投げ出されたものと思えば、投げ返せる。

 投げられたものは投げ返せる、これは真理だ!



 ゴーレムは全く動かないが、投げ集中は切らさない。

 いつでも投げられるが、俺の【投げ眼(なげめ)】にはゴーレムは金属製のモニュメントにしか視えない。

 力の流れが視えないのだ。


 つまり。


 あんなに硬かったゴーレムが水のように溶けていく…。


「俺の勝ちだ」







「はいっ、ゴーレムとの戦いをご覧いただきましたが、いかがでしたでしょうか?

 かなりの強敵でしたね〜!

 何回も再生されて心が折れそうでしたが…

 まぁ何とかね、投げで勝ちを拾えましたが、まだまだダンジョンは続きますっ

 これからも応援のほど、宜しくお願い致します!

 それでは、ご視聴ありがとうございました〜!」



 ふぅ。

 ホントに強敵だったな。

 しかし勝ちパターンが掴めてきた気がする。

 この世界のモンスターは、()()()()()()()()()()()()()()()


 修業不足じゃー!


 投げ返されてこそ、投げを理解できるというのに!

 俺なんか投げられる物の気持ちを理解する為に、ブランコジャンプから始まり、棒高跳びやバンジー、スカイダイビングなんてものまでやって研究したというのに!

 ワシが稽古つけたる!


 投げは心のキャッチボールじゃーー!





 ……ん?


 投げへの愛ゆえに心を乱してしまったが、水となって溶けたゴーレムの水溜りに何かが残されているのに気づいて我に返った。


「溶け残り…?」


 ゴーレムの体が上手く溶けなくて残ったような謎金属の四角い塊と、いつもの小石があった。

 槍とかナイフのほうが有り難かったが、また鋳潰して武器にできるかな?


「しかし嵩張るな〜」


 ビニール袋に入らなくはないが、パンパンだ。

 しかも重いし。

 ビニール袋を腰に結わえておくのは無理なので、ミズカマキリ槍に吊るして担ごう。





「さて、進むか」


 ロケットパンチでやられたところや足の裏の傷は、投げるのに影響はないほどには癒えている。




 流星錘を操り、ダンジョンを進む。

 罠は相変わらずワンサカある。

 それを鼻歌まじりで発動させながら快調に飛ばす。


 分岐点をさらに右に進み、不死の王と遭遇したところまで来た。


 さらに進むと開けた場所があった。

 部屋だ。


「行き止まりか…」


 位置的に不死の王はこの部屋にゾンビとともに居たのかな。

 何の生活感もないのだが、この部屋の壁に目が惹きつけられる。


「水晶…?」


 再奥の壁には複雑に描かれている魔法陣があり、その中心には巨大な水晶のようなものが埋め込まれている。

 その美しくも怪しい光景に、水晶を取り出すか、もしくは破壊するかという考えが頭をよぎる。

 少し悩んだが、どうするのが良いのかわからないので処分は保留することにした。




 それ以上はこの部屋で何も発見できなかったので、分岐点まで引き返すことにした。


 今度は違う方向に行ってみよう。

 いつもは右を選んでいるところを左に進む。

 罠を発動させながら行くと、また狭くなっているところ、【門】があった。

 これは確定で敵が出てくるやつだろう。

 手持ちの武器は宝箱から出た小剣を失ったぐらいだから問題ないし、体も大丈夫。


「やるか」


 門をくぐる。


 どうせ戦うことになるだろうから、ミズカマキリ槍を構えて投気を込めていく。

 さらに進むと地面に魔法陣が浮かび、輝きだした。


 さぁここはどんな敵が出てくるだろうか。


 多重になった美しい光りが消えたとき、そこには複数の影が現れていた!


「え、人数制限ないの?」


 出現したのは6人!

 物々しく武装しているが、ほぼ人間に見える…んだが…。

 1人は本来首があるべきところになく、なんと首を手持ちしている。

 他の者はパッと見は普通だが、透けている。

 生気が、ない。


「幽霊か…」


 ゾンビ、骸骨、人魂ときて幽霊ね。

 怖くはない。

 俺にとって大事なのは、投げられるかどうかだ。

 投げが通じないならピンチです。


 バックステップし距離を取る。

 向こうは殺る気だ。

 生気のない面で殺気だけはギラギラとたぎってやがる。


 遠距離から先手を打つ!


「水の刃、切り裂け!」


 前衛3、後衛3で陣を組んでいる、ど真ん中後方の首手持ち鎧に向けてミズカマキリ槍を投げつけた!


 シュバーー!


 ん?

 槍自体は貫通して、遥か後方にまで飛んで行った。

 水刃は脅威のようで、前衛の二人が盾で防御したが、いくらかダメージは通ったようで血を流している。


 幽霊にも血があるの?



 物理的な攻撃は効かないが、武器の特殊な効果によるダメージは通ると。


 などと観察していると、前衛の盾持ち二人が何か喋っている。

 てか、呪文か!


 何かしらの呪文が完成し、六人組が薄い光に包まれる。



 ……よくわからん。

 よくわからんが、存在感が安定した?

 血は止まっている。


「…分かった!

 今のは回復呪文ですね!」


 6人小隊にビシッと指をさして今の魔法を言い当ててやる!


 …回答はなしか。

 別に良いけど。


 回復できるなら、さっきのゴーレムみたいにズルズルと戦闘が長引く恐れがある。

 それはこの6対1の状況においてジリ貧になる可能性が高い。

 回復役を先に処理したいところだが…。


 この6人小隊は連携が上手い。

 それぞれの役割分担がちゃんと出来ている。


 前衛中央は剣を構えた戦士。

 剣だけじゃなく、ナイフやらが見えるので柔軟に対応しそうだ。


 前衛両サイドは同じような重装備の騎士のような出で立ちで、剣と大きな盾を持っている。

 そんで回復の魔法も使えると。


 後方中央で一際目立っているのが、首手持ちの騎士っぽい奴だ。

 何となく偉そうで、他の5人を戦わせて自分はあんまり働いてない。

 ちゃんとやれ!


 後方右手は女性かな?

 兜で顔は見えない。

 槍持ちである。

 槍は突くもんじゃない!

 投げろ!


 後方左手は軽装のイケメンで弓を構えている。

 射程距離に入ってないようで、打ってこない。

 矢は投げるもの!





 近づくと先ずは弓矢で攻撃、盾二枚で防御を固める。

 戦士と戦ってる間に槍で突く感じか。

 そこに首持ちがどう関わってくるかが謎だが。


 皆それぞれ手練れの空気を纏っている。

 乱戦に持ち込んでも直接投げられないのが辛いな~。

 ん?

 でも、向こうの攻撃は俺に当たるの?

 あいつらの武器もうっすら透けてるんだけど。

 そんなもんで斬られても、槍みたいに素通りじやないの?


 試しに斬られてみる勇気は、ないな…。

 魂的な何かを斬られちゃいそう。


 一方的に攻撃ができるなんて不公平だ!


 卑怯とは思わないが。

 わが天現捨投流は生き残る為にはあらゆる卑怯な手を使うのだ。

 武道のように精神や礼儀を養ったりしない。

 ひたすら勝って生き残る為の技術や発想が基本理念だ。

 だからこういう状況に陥るのを避けるのが、我が流派の教えなんだが…。



 せっかく普通サイズの人型なんだから、異世界投げパワーで向上した接近戦を楽しみたかった!

 生命をかけて投げ合う、素敵な時間を俺に!

 あ、相手は幽霊で死んでるけど。


 ピシュッ!


「おわっと!」


 投げへの慟哭で心が乱れていた!

 もう少しで胸に矢を受けるところだったが、投げ集中は切らしていなかったから何とか避けられた。


「弓使いくん、君の射程距離はそんなものかね!」


 俺の石はもっと長いぜ!


 幽霊なら石英と赤石が効くはず。

 それをいつ投げるかだな。


 縞石や花崗の効果も期待できる。


 何かの歌に幽霊を冷蔵庫に入れて凍らせて倒すのがあったような…。

 面白いじゃん、それでいこう。


 俺はバックステップを重ねて、弓矢が届かない範囲をキープしながら投気を込めていく。


 何もかも凍らせるイメージを高める!




「凍れ

 凍れよ

 全てよ凍れ

 魂までも凍らせて

 白き静寂に

 時までもが立ち止まる


 齎せ、花崗」


 シュンッ! ピシィィィィィィィィイイイインッッ!






 そこには全てが凍てつき停止した世界が出現していた。

 凍るはずのない幽霊たちが水晶でできた像のように突っ立っている。





 そして俺は調子にのって()()ポエムを披露したことを血を吐く思いで後悔していた……!


「なんて恥ずかしいマネを…、俺はしてしまったんだー!」



前へ次へ目次