46、踏ん切り
「プロアウェイのランプって青かったっけ?」
確か赤だったし、青いLEDを採用するって珍しい気がする。
ボタンを色々押してみるが、反応しない。
やっぱり壊れてるのか。
この光を見てると、川上さんの人魂の青い炎を思い出される。
よしっ。
「一緒にこの世界で暴れようぜ、川上さん!」
巨大亀の火葬はまだ続いている。
ときおりビキビキと亀裂が入るような音は、高温で焼かれている墓標のような石の塔が割れる音か…。
真夜中なのにまるで朝日が昇らんとするように、天を朱々と染め上げている。
この何もない大池に現れた篝火と狼煙を遠くの誰かが見ているかもしれない。
川上さん、幸運を運んできてくれ。
寝ぐらがあった場所は破壊し尽くしてしまったから、そのまま武器庫で気絶するように眠ってしまった。
目が覚めたのは、陽がだいぶ高くなってからだった。
こんなに寝過ごしたのは、異世界に来て初めてだな。
巨大亀は何とまだ燃えている。
亀の肉を食料にとも思ったが、亀が死んでからどれくらいの日数が経っているのか分からないので、このまま焼却しよう。
「しかし、また激しく環境を破壊してしまったな…」
武器庫にあれほどあった岩板や瓦礫はなくなり、粉々になった小石や砂となって湖の周りに散乱している。
武器を回収しないと。
八つ石とブーメランは見つかった。
しかしミズカマキリ槍は2本しか回収できなかった。
ミズカマキリの節が割れたり、燃えたりしてもう使えなくなってしまった。
主力級の武器だったのでこれは大きな痛手だ。
不死の王の杖は、不死の王に転生するという危険な能力を秘めている。
怖いから武器庫に置いておこう…。
ダブルヘッドの槍も焼かれている最中だ。
長距離用の武器を調達しないといけないな…。
大量にあったゴブリンのナイフも数本しか残ってないし。
戦力のダウンは否めない。
ゴブリンの群れを襲おうか、なんて物騒なことを考えてしまう。
湖の水が劇的に減っている。
鯨サイズの亀が湖から出たからだとしても、それでも計算の合わない減りようだ。
湖の底の栓が抜けて、どこかに水がチョロチョロと流れていってるんじゃないかと不安になる。
アクエルオー様の水の飲む。
湖で水の補給をしに行かないと。
すり鉢状の急斜面を降りやすいところを選びながら、何とか湖面まで辿り着いた。
最深部な底はまだまだ見えず、神秘的に空を映して輝いている。
少しほっとした。
「アクエルオー様に水を補給しよう」
相変わらずこの500mlのペットボトルに大量の水が入っていく様子を見ると笑えてくる。
石を投げて火が出るよりも、理不尽に感じる。
もっと落ちてないかな?
んーでも、この急勾配は何か物があっても深場に転がり落ちてるな。
「しかしこのすり鉢状の地形はどうやって生まれたんだろう…」
岩肌は黒く、スベスベしている。
まるで高温で溶かされたように…。
「前の世界の核爆弾でも、こんな大規模で深い穴があくかな?」
…難しいような気がする。
自然に出来たものでないなら、この世界の魔法によるものか……?
魔法は核攻撃と同様、もしくはそれを越えるほど強大な力を持っているのだろうか。
ちょっと文明圏に行くのが怖くなってしまうわ。
ようやくアクエルオー様の水の補給が完了した。
気のせいか前より水が入ったようだが、深く考えてはいけない。
「よし、今日もダンジョンに行くか…!」
水と魚しか口にしてないが、体調はすこぶる良い。
怪我や火傷はもう完全に直っている。
もう湖に巨大危険生物がいなくなったはずなので、安心してダンジョンの探索ができる。
亀はまだ燃えているが、周囲に燃え広がるものはないしそのままにしておこう。
今日の武器は八つ石、ブーメラン2本、ミズカマキリ槍2本、流星錘、ゴブリンナイフ(並)となっております。
張り切って参りましょう!
「はい、今日も異世界から始まりました!
徹底投擲チャンネルの投神ですっ
今からこの世界のダンジョンに行って探索したいと思います
凶暴なモンスターや死に至る罠が張り巡らせられていたりと危険がいっぱいなんですが、文明圏に辿り着く手がかりを追い求めて行きたいと思います
それでは〜、世界を投げ投げ〜!」
石の上に置いて自撮りしていたプロアウェイを首にかけ出発する。
相変わらずボタンを押しても反応しないが、川上さんを倒した後からランプの色が変わった。
もしかすると撮影出来ているかもしれない。
それならば、ブロキャサーとしてはテンション上げていかねばならぬ!
「流星錘歩法っ!
それは異世界の謎パワーにより、投げる時は肉体が強化されるのを利用した歩法である!
連続で物を投げことにより、疲れずに長距離を進むことが可能!」
流星錘をヒュンヒュン鳴らしながら進む。
今日も快適だ。
あっと言う間にダンジョンの入口に着いたぞ。
「さて、ここからダンジョンに入っていきますが、ここからの映像はショッキングな内容になるかもしれませんので、ご注意下さい
ダンジョンに入ると、はい、早速現れました、スライムです!
取りつかれと大変なので、投げてきたとろこを…
ビターンッ!
と、このように投げてやれば倒せます!
簡単ですね」
水のように溶けた後にあらわれる小石も拾わずに、どんどん進む。
「罠解除流星錘歩法!
このようにダンジョン内の罠を錘をぶつけてバンバン作動させて進むと非常に快適ですよねっ」
爆発やら崩落やら煙やら色々発生するが、余裕で回避。
もはやちょっとしたアトラクション気分だ。
「こちらの部屋は宝箱があります!
この石の玉のようなものに、ゲームでいうところのアイテムが入っています
割ってみましょう」
バキンッ
「おお〜、今日は小剣が入っていました!
ん〜、まぁ投げられるでしょう
それでは、先に進みます」
銀狼が飛び出してこないか、少し緊張しながら進む。
何も出現せずに分岐点に辿り着く。
とりあえず不死の王が出現した場所のさらに奥を目指そうか。
「さてこの門がある部屋に踏み入ると、強いモンスターが出る可能性が大です
ちょっと気合を入れて突破したいと思います!」
ダブルヘッドと両頭犬が出た部屋だ。
また顔が二つある敵がでるのかな。
何者にしろ強敵に違いない。
「よし、行くぞ!」
門をくぐり、中央付近に来ると魔法陣が輝きだす。
目が眩む程の光が消えたとき、そこに巨大な影が現れていた。
「人型だ……ロボット?」
頭が一つか…。
ここは頭が二つの者が出てくると期待してたんだが!
まぁやることは一つだ。
生き物ではないらしく、感情が全く読めないが、戦いに備えている雰囲気だ。
それにしても、これは科学か?
それとも魔法的な力で動いてるのか?
うーむ…。
「そういえば!
フィフドラでこんな奴が出できてたような気がする!」
名前は確か、ゴーレム…!
強敵だったような、雑魚だったような…?
「知ってる方はコメントで教えて下さい!
見れないけど!」
とにかく目の前の敵は金属のような光沢のあるボディで、身長3mほどのがっしりとした体型だ。
関節部はボールジョイントのようで、動きは滑らかだ。
武器は持っておらず、その圧倒的な質量による打撃で攻撃するようだ。
挨拶代わりだ!
「剣は投げるものっ!」
ヒュンッ! ガキィン!
宝箱産とはいえ投げで強化されたはずの剣がゴーレムに当たると、突き刺さるどころか刀身に大きな亀裂が入りバラバラに砕けてしまった。
「これは…、並の硬さじゃないな…!」
さて、どうやって戦いましょうか。
きっと俺はいま、獰猛に笑っているに違いない。
魂だけとなった元同僚を倒したときから前の世界の価値観から決別し、この弱肉強食の異世界で戦い抜く踏ん切りがついたんだろう。
踏切板を蹴ったら、あとは大きく飛躍するのみだ!
プロアウェイに異世界の戦いを見せつけてやる!
「金属の塊のようなモンスター、相手にとって不足はない!
行くぞ!」
天現捨投流 投神、参る!