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42、忍者ロールでござる

 頭が粉々に砕かれた理科室の骨格標本のような不死の王を見下ろす。


「筋肉も無いのにどうやって動いてたんだ?

 ……いやっ、ここは異世界。

 前の世界の物理とか科学で考えてはいけない!」


 軟骨も見えないから、それぞれの骨が浮いてるなんてこともツッコんではいけない!

 落ち着け!




「ふぅ~危なかったぜ

 もう少しで疑念の波に飲まれるところだった」


 伸ばしたルアーを巻き取ると、ズルズルと王のローブが引き摺られてきた。


「こいつぁよく分からんが、強力な力を感じるぞ……」


 何となくだけど、石の効果を打ち消してたのは、このローブの力なんじゃね?






『装備解除して盗むとは、貴様はそんな成りで神与職(ロール)盗賊(シーフ)か?』


 ローブを手に取って調べていると、念話が届いた!


 振り返ると頭蓋骨が綺麗に復活した骨格さんが立ってこっちを睨んでいる…ように見える。

 骨は再生できるんですね…。



『鑑定』


 あ、これよく掛けられるやつ!

 体を光が包み、()()()()という感覚を覚える。



『莫迦な!冒険者登録してないだと!?』



 何故か驚いていらっしゃる。

 今は戦場ですよ。


「隙あり」


 シュン! ガインッ!


 何やら狼狽している骨格さんの頭に流星錘を投げるも、不可視のバリアー的なものに防がれた!

 どうも自動っぽいぞ。



『面白い

 貴様は面白い!

 ますます欲しくなったぞ!

 最高の眷属にしてやる…!』


「だからゾンビは嫌だって」



『魅了之雲』


 王は顎をカタカタと鳴らし杖をこちらに向ける。

 とたんに俺の周りに紫がかった煙というか雲が立ち込めた!




 雲は佇むのみで攻撃を加えるようなものではないらしい。

 魅了する雲…?

 雲になんか見惚れませんが?

 見惚れるなら、そう、この不死の王のような崇高な存在。

 いつ見ても素晴らしい、尊いお方だ。

 今までのように王の為に戦うのだ!

 王の敵を倒すのが我が使命なり!






『ふん、他愛もない

 …しかし神与職を持たぬヒトがなぜ魔技を使えるのだ?

 どれ、もう少し深く視てやるか…


 解析』


 呪文を唱え、解析の魔術でこの奇妙な男を視る。

 そこには驚愕の【現状能力(ステータス)】が記されてあった!


『有り得ん!


 不死の王となりて幾星霜

 このようなステータスに巡り会うたことはない!

 勇者などではなく、或いは此奴がこの星の行く末を左右する存在となるか…』









 王の為に。

 敵を倒す。

 王の為に。

 敵を倒す。

 どうやって?

 そりゃ投げて倒す。

 投げて倒す。

 投げ。

 投げ…。

 俺の投げ?

 俺の投げの果てはこんなものか?

 俺が追い求めた投げはこんなものだったのか?

 熱い!

 何かが燃えてる!

 太腿に当たるビニール袋が熱い!

 これは…


 緑石…?




「俺の投げはこんなもんじゃねー!」


 ビニール袋から熱と光りを放つ緑石を掴みだし、自らの額に投げつけた!


 ガンッ!



「ありがとよ、緑石!」


 額から血が流れるままにビニール袋からもう一つの石を取り出し、投気を込める!


「雷石、頼むぜ!」


 バシュッ ガインッバリバリバリバリバリバリ!


『ば、莫迦な!

 雷…属性…なのか?』


 不可視の壁で直撃は防いだが、雷石の電撃は効いている!



「今度は全身粉々だぜ!」



 動揺している不死の王にスッと近づく。

 そっと手を取る。

 攻撃じゃないですよ?

 何も投げつけませんって!

 あ〜お疲れですね。

 どうぞお座り下さい。


『お?あ?』


 攻撃に対しては反射的に対応してしまうものだが、敵意のないゆっくりした動きには反応できないものだ。


 ましてやこの不死の王は肉弾戦は並の兵士程度。

 優しくエスコートしてやると、


「かかった」


 ヌ…ゥ ゥォオゥンッ! ズバーンッッッ‼



 ()()()と王のバランスを崩し、背中から全身に衝撃が伝わるように地面へと投げつけ、全ての骨を粉々に粉砕した!


「投げるのは、お前だ」




 粉々に砕いたがまた復活されては困るので、石を拾ってきて石英で清め、さらに赤石で骨を燃やした。


 しばらくすると骨は消えており、いつもの小石が残されていた。


「あ、ローブがぁぁ…」


 残念ながらローブも一緒に溶けるように消えてしまった。

 着たかったのに…!

 ローブの代わりに残されていたものがある。


「杖、かぁ…」


 杖で殴る?

 いやいや投げるしかないよね?

 杖は投げるモノ!


「おらぁっ!」


 あ、投げてしまった。

 トップヘビーだから、一応まっすぐ飛んだよ。

 拠点にもどったら武器庫で調整しよう。





「…しかし今までで一番の強敵だったな」


 よく生き残ったものだ。

 しかも傷らしい傷は、自分で打ち付けた額にしかないとは。


 不死の王は本当の力を全く発揮していなかったと思う。

 俺を眷属?にするのに必要な手順を踏みたかったようで、直接的な攻撃はしていない。 

 最初から殺す気でもう一度戦ったら、絶対俺のほうが負ける自信がある。

 舐めプに付け込んで、ローブを奪えたことが大きかった。


 ゴブリンの王の大剣や不死の王のローブ。

 この世界は武器や防具による恩恵が強いのかもしれない。


 そっか、俺も八つ石とかミズカマキリ槍とかに助けられてるもんな…。


「強力な力をもった道具を上手く使った者が強者となる世界か…」



 やっぱりゲームのようだ…。



 そう言えば、不死の王は色々喋ってくれたな。

 文明圏の情報は得られなかったが、理解不能な言葉が出てきてた。


 高レベル冒険者、ユニークスキル、ロール、シーフ…。



 冒険者は[冒険する者]というふわっとしたものではなく、明確な括りというか、確固としたシステムがあるようなニュアンスだった。


 ユニークスキルってのは八つ石の特殊な効果のことか。


 ロールは?

 RPG、ロールプレイングゲームのロール?


 シーフは英語で泥棒だよな。

 前の世界で海外を旅していると、よく泥棒に出会ったな…。

 直接スってくる奴は気配でわかるか対応できるが、詐欺は引っ掛かっちゃうんだよね〜。

 大小あわせてかなりの額をとられてる。

 日本だけに住んでると平和ボケしちゃうんだよね。

 オーストラリアの大会で得た賞金を丸ごと寄付という名の詐欺にお支払いしたのは、授業料か。

 その結果、巡り巡ってアボリジナル・オーストラリアンの師匠に出会えたのだから、今となっては良い思い出だ。

 良い思い出…。


 ……あいつら次に出会ったらブン投げる!

 異世界来ちゃったから、もう会えないがな!



 おっと前の世界の苦い思い出はどうでも良い。

 何だっけ?

 シーフだ。


 ロールがシーフなの?で、俺を調べてみたら冒険者登録してなかったよ、ナンデ?


 という感じで王様は驚いてた。


「はっ!そう言えば忍者先輩の話の中で、異世界行って冒険者になってかわいい女の子を救うとか何とか…!」


 くそう、真面目に聞いとけば良かった!

 いつもいつもゲームやら何やらの話しばっかりだから華麗にスルーしてたんだよな。




 秘匿道場での修練後に忍者先輩と話してたのを思い出す…




『おい投げバカ殿、知ってるでござるか?

 とうとうフィフドラ15発売されたでござるよ!』


『へぇ~、フィフドラってもうそんなに出てるんですか

 1だけは子供の頃にやったんですが…』


『なんと勿体ない!

 至高の2、革新の5、復古の9、滑らか3Dの11、コケちゃった13をやらずしてフィフドラを語るべからずでござる‼

 人生の半分を損してるでござるー!』


『いや、コケたのは要らんやろう…』


『それも含めてのフィフドラでござる!

 それぞれのハードに合わせて進化してきた歴史を識れー!』


『はいはい』


『3からは忍者も出てきて、某はいつも忍者キャラを自分の名前に変更してるでござるよ』


『忍者大好きですもんね…

 だからその黒装束にござる口調なんですか?』


『これは忍者ロールでござる』


『ロール?』


『普段から忍者に成り切ることによって、本物の忍者に少しでも近づきたいのでござるよ』


『ふーん分からん』


『分かれよ!この投げバカ!』


『カッカッカッ投げバカで結構!』


『あ、そうそう、同じ日にマジック・ザ・ダンジョン14も発売されて、これにも忍者が…』


『はいはい、それより苦無って……』





 …つまりロールとは成り切ること?

 演じること?

 …分からん。



 あのとき王の念話から届いたのはロールという音と、それと重なるように《神によって与えられた人の在り方》、という漠然としたイメージ。



 総合的に考えてみると何となく掴んできた。


 冒険者に登録すると神から演じるべき在り方を与えられる。

 その一つがシーフである、と。


 そして俺は冒険者に登録してない。



 どこで登録できるんだ?


 それはやっぱり人の居るところだな。




 やっぱり文明圏に行かなくては。





マジック・ザ・ダンジョン


通称マジダン。もしくはMTD。

フィフドラと人気を二分するRPGゲームである。

シリーズ初期は、ひたすらダンジョンに潜って敵と戦うダークな内容で子供の受けは今ひとつだった。

ダンジョンも簡易な表現で難易度が高過ぎるという不満の声もあったが、一部の大人の熱狂的な指示もありシリーズが存続した。

最近では子供受けを意識した明るくて取っ付き易い内容に変わり、日本を代表する人気タイトルへと成長した。

※赤峰渉は本シリーズを未プレイ

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