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40、流星錘

 

 (おもり)はできた。

 根本の方にラインを結んで、鞘というか柄になるミズカマキリの短めの節にセットしてみる。

 若干の微調整を加え、武器は完成した。


 柄にスプーンを入れてから鞘でクルクルとラインを巻き取る。

 最後に錘を柄に差し込んで極短めの短槍スタイル。


 そして、錘を抜いて流星錘スタイル。


「うーん、微妙?」


 スタイルをチェンジすることで、対人戦で一度は虚をつけるかもしれない。

 流星錘としては、ラインが細すぎて掴みにくいのが難点。

 あと連続で扱うと摩擦で熱くなるのが辛い。


「あ、でも罠発動用に丁度良いかも!」


 小石の指弾ぐらいでは作動しない罠も、この打撃力なら問題ない。

 床が落ちたとしても、錘は回収できるからダンジョン探索用として活躍できるな。


「よし、じゃあダンジョンアタックだ!」


 今日、持っていく武器は、ミズカマキリ槍、ゴブ槍、ダブルヘッド槍を1本ずつ、ブーメラン2本、選抜ゴブナイフ、八つ石、そして流星錘となっております。


「ちょっと遅いけど出発!」


 練習がてら新しい流星錘歩法で進む。


 ちょっと難しい。

 意識的に。

 錘を回してはダメだ。

 投げるのだ。

 これは投げている。

 投げ…。





「はいオッケー!」


 慣れたら快適じゃん!

 槍を担ぐ左手にラインを持ち、右手で軽めの投げを打つ。

 そしてそれを右手で手繰って戻す。

 それをリズムよく繰り返すと楽に歩ける。

 落とすことがない分、一度感覚を掴んでしまえば無意識に行えるようになった。

 これでダンジョン内も問題無いだろう。





 ダンジョンの入口に立つ。

 もう砲丸投げで崩れたところは完全に修復されている。

 目を慣らして進むと、今日もいますな。

 スライムがわんさかと。


「ほいっ」


 流星錘を投げる。

 直撃したが、ゼリー状のボディには全くダメージが入ってないようだ。

 近付いくと体を投げてくる。

 ソレニ合わせて、片手で投げる!


「投げれば投げる時!」


 ヌンッ! ビダーンッ!


 もう慣れたもので、ゼリーのようなスライムが投げに転じる瞬間に固くなる部分を掴んで、投げる。


 流星錘で岩に擬態しているスライムを小突いて擬態を解除させ、襲ってきたところを投げる。

 非常にシステマチックになってきて、早いペースで進めるようになった。


 あっと言う間に岩卵の宝箱がある部屋だ。

 流星錘で殻を砕く。


「今日はゴブリンのナイフか…」


 ハズレ枠?

 まあ鋳潰せることが分かったから、もらっておこう。

 選抜ナイフと反対側の触覚ベルトに差しておく。





 ほいっ そこっ ここはどう?


 ダンジョン内の移動は流星錘のお陰で快適である。

 罠をバンバン作動させ、ガンガン進む。

 トゲやらガスやら崩壊やら爆発やら色々発生するが、5mも離れてると余裕で対応できる。

 極稀に魔法陣が発生して輝くことがある。

 何も出てこないが、あれは何なのだろうか?




 分岐点は今日も右を選ぶ。

 あのダブルヘッドがまた出現するのかが気になるのだ。



 銀狼には遭遇せずに門のところまできた。

 門といっても狭くなっているだけだが。


 門をくぐる。

 何もいないが中央付近に違和感が、ある。

 あと一歩踏み込めば、魔法陣が光るのだろう。


「眩しいけど出てくるタイミングわかってるから、攻撃しちゃえばいいんじゃね?」


 やっちゃう?


 いや可能性は低いけど、もしこの世界の善良な人間がひょっこり現れたら、取り返しのつかないことになる。


 駄目だ駄目だ!

 やめておこう。


 一歩踏み込んだ。

 やはり魔法陣の光が立ち上がる。

 ちゃんと待ちますとも。


 魔法陣の光が消えたとき、そこに現れているのは人ではなく、巨大な四本足の獣!

 黒い犬のような生き物だが、その胴体からは頭が二本横並びで生えている。


「ここは頭が二つの奴が出てくる部屋なの?!」


 銀狼ほどモフモフではなく、より邪悪な面構えで二つ同時に唸り声を上げている。

 サイズは銀狼と同じぐらいの3m強。

 俺のことが憎くて堪らないって感じだ。


 …犬には好かれるタイプなんだけどな。


 この両頭の巨大黒犬、何かの物語に出てきたような…。

 神話?

 ……よく覚えてない。

 投げに関係ないことは、すぐに忘れちゃうんだよね。


 それにしも、頭が二つあるから、当然脳も二つ。

 胴体は一つなんだからどっちの意志で体を動かしてるんだ?

 喧嘩しないの?



 なんて考え事をしていると、両頭が大きく息を吸い込んでいる。


 なになに?


 ゴオオオオォォォォ!


「ぬわっ!っちっちっちー!」


 二つの口から火を吐きやがった!

 バックステップで躱そうとしたが、完全には避け切れない!

 灼熱の炎に左半身を焼かれてしまう!

 慌ててアクエルオー様の水で消火と治療。

 両頭犬が突っ込んできたので、ビニール袋から掴んだ石を投げた!


 ガン! ボオオォォォォ


 投げたのは赤石だったようだ。


 左前足の付け根辺りに当たり、燃え上がった。

 しかし投気を込める間がなかったので、すぐに消えてしまう。


 驚いた隙に距離をあけることに成功したが、大したダメージは与えられていない。


 奇しくも同じような火傷を与え合った感じだな。

 俺のほうが重いか…。


 両頭犬は俺の奇妙な攻撃に少し警戒しているようだ。

 この距離のほうが有り難い。


 火傷は痛いが、投げられない程ではない。

 アクエルオー様の水の回復力に期待しよう。


 さぁ仕切り直しだ。


「天現捨投流 投神、参る」


 打破する糸口はやはり両頭の連携の虚をつくことと見た。


「ブーメラン!」


 強力な回転を加えたブーメランを両サイドから同時に当たるように投擲!

 そして素早く流星錘を正面に投げつけた!


 両サイドのブーメランはそれぞれの頭が口でキャッチされてしまった。

 流星錘は胸元を少し抉るように当たったが、体を捻って直撃を避けられてしまった。


 ダブルヘッドよりも随分避けるのが上手い。

 胴体を狙った投擲物は比較的反応が遅いようだ。 


 俺の攻撃を避け切ったと判断したのか、両頭犬はこちらに向かって駆けようとする。


「かかった」


 俺は流星錘のラインを後方に投げるように強く引っ張った!


 ギャン!


 地面にラインを這わせていたのた。

 それに前足を絡めさせ引っ張られた両頭犬は、堪らず()()の状態になる。


 すぐさま本命のミズカマキリ槍を投げる!


 バシュゥ! ズバシュュュュュッ!


「命中」


 左側の首筋を水の刃で切り裂いた!

 左側の頭はかなりのダメージを食らったようで、朦朧としている。

 勝機!


 ガルガルガルガル!


 止めを刺すべく縞石を投げようとしたとき、無傷な方の頭がもう一方の首に噛み付いた…?


 …ゴキンと音が響いた。

 首の骨を折ったようだ。


 折られた首はだらんと項垂(うなだ)れ、無傷の方は俺に向き直り睨んでくる。

 第2ラウンドか。


 両頭犬は片方の首をブラブラさせながら走ってきた!

 動きが早い!


 巨大な口で噛み付いてきたが、俺は流派の歩法で項垂れている方の首側に回り込む。

 力を失った方の首が邪魔で噛みつけないでいる間に、選抜ナイフ投げつけて前足の根本に突き刺す。

 ひたすら死角側に回り込み、さらに角石を投げる。


 ギャン⁉


 角石の破壊力に驚いたな。

 お次は縞石だ!


 バシィッ!


 後ろ足の付け根を切断の追加効果で斬りつける。


 これで機動力を奪った。


 仕上げに入ろう。


 石を投げようとビニール袋に手を入れた時、両頭犬が大きく息を吸い込むのが見えた。


 この至近距離はヤバい!

 イチかバチか、手を突っ込んで掴んだものを投げつける!


「投石っ!」


 バシィッ! ビキビキビキビキ…!


 火を吐こうとした開いた口の中に投げ込んだ石は泥石!

 口や首を中心に凍てついた部分が広がる。


 投げるっ!


「天現捨投流 御柱落とし投げ」


 ドガァッ バキィィンッ!



 動きの止まった両頭犬の腹の下に潜りジャンプ!

 凍った頭に全体重が乗るように地面に投げ落とした。


 片方の頭が砕け散り、両頭犬は完全に沈黙した。






 しかしこの巨体を飛び上がるほど投げられるって、俺は一体どんな怪力をしてるんだ…?

 なぜかあの時は『投げられる』っていう確信があった。


 俺の投げは進化している


 ゲームで言う、レベルアップしてるのか…?




 いや、普段の力やスピードはほとんど変わってない。

 投げる時だけ、投げることに関して強化される。

 そういう仕様だ。

 レベルアップとは違う気がする。




 水を飲み、火傷にもう一度水をかけた。

 赤くなっているが、重度の火傷にはなってなさそうだ。

 すぐにこの水をかけたのが良かったのだろう。

 処理が遅れたら死んでいただろうな…。





「死体が消えてる…

 残ってるのは小石と、肉片…?」



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