4、投げサバイバル開始!
水に浸かったまま、しばらく思考停止状態していた。
真っ先に思い浮かんだのは水切り大会のこと。
「帰らないと!……でもどうやって?」
何事もなかったように広がる夜空に帰る手がかりは一切ない。
「中止…だろうなぁ」
湖の水はなくなっただろうし、湖畔も荒れただろう。
看板の俺も行方不明。
チャンネルスタッフのみんなと大会開催にむけて携わってくれた人々の顔が浮かぶ。
申し訳ない。
俺が水切りをやったばかりに…。
そしてお師さんのことを思い出す。
あの人は大丈夫だけど、できれば声をかけたかったな。
異世界に行ってきますって。
無理か。
……はぁぁぁ。
これは不可抗力。
もうどうしようもない。
投げ遣りに思考を切り替える。
「ここはどこ?というか、どんなとこなんだ?」
水に揉まれたせいか服は何も身につけてない。
素っ裸だ。ウケる。
水は冷たいが気温は温暖なようで寒くはない。
そういえば呼吸も普通にできる。
とりあえず立ち上がる。
身体が重くなったような気もしない。
あれ程高い位置から落ちてきて、幸運にも怪我はしていないようだ。
俺は大丈夫だ。生きてるぜ、シュナイデック!
周りを見渡しても、ほんっっとうに何もない。
なだらかな黒っぽい岩だけだ。
そこに突然現れた湖という感じだ。
水が落ちてきたところがすり鉢状になっていたのか、水は流れ出ていくような気配はしない。
違う星にきたのか、タイムスリップしたのか。
何でも一緒か。
俺にとっては異世界に来たことは確かだ。
ここで生き延びないと。
未だ見ぬ投げを求め世界を旅してきたが、とうとう異世界まできてしまうとは。
「それはそれで面白いじゃないか」
エムブロで中継できたら、超バズるのにな! なんて、悪い癖だ。
さて、サバイバルはお手の物だが、ここは本当に何もない。
周りの岩は崩れているところもなく、石や砂もない。地面も同じ岩だ。
飲み水だけはあるとしても、これではお手上げじゃないか。
俺と一緒に何か流れてきてないかな?
どこかに服も漂着してたり。
何も生き物はいなさそうだし、とりあえず湖畔を探索してみるか。
この湖は姫神湖よりは小さいようだ。
ざっと500mほどの大きさだろうか。
30分もあれば一周できるだろう。
水際を裸でペタペタと歩く。
人っ子一人いないので良いが、日本なら通報案件だ。
身にまとうものプリーズ!
「ん?」
しばらく歩くと石を発見!
ただの石だ。
でもこの石は姫神湖の石。
一緒に流れ着いた同胞だ。
拾っておこう。
石は平たいがあまり摩耗していない、カクカクした石だ。
やや黒く縞模様が少し入っている。
確かチャートといわれる種類だったような。知らんけど。
「なかなか投げるのに良い石じゃないか」
水切りもできなくはないだろう。
貴重な石なのでいまは投げないケド。
どんどん探そう。
一周する間にさらに2つの石を発見した。
どれも同じくらいの拳ぐらいの大きさだ。
2個目は少し丸くなった焦げ茶の泥岩?
3個目は赤っぽい石だ。花崗岩?わからん。
石は詳しくないのだ。
投げやすい石か、投げにくい石か、だ。
ただ石しか発見がないのが残念。
二つの月明かりで探索できなくはないが、水中はよく見えない。
色々あって疲れたし、安全に休める場所を探そう。
といっても何もない岩場が続くばかり。
このあたりで一番高い場所に行こう。
もし外敵が来ても一番に発見できるだろう。
湖から少し離れた高台になってる岩場の頂上付近の窪みに横たわった。
ゴツゴツして身体が痛くなりそうだが、体力を少しでも回復したい。
生き物の気配が全くしない。
あるかないかの風。
空には大きな満月と小さな満月。
身体の芯がキューッとなる、懐かしい心細さ。
独りでいろいろ放浪してきたし、異世界も似たようなもんさね。
そう思うと焦燥感が和らいだ。
異世界に落っこちるという衝撃的なことが起こったのにも関わらず、目を閉じるとすぐに眠りに落ちた。
眩しさに目が醒める。
太陽が昇ってきていた。
「朝か…、朝は同じだな」
こういう草木が一切生えない土地は、もしかすると灼熱地獄になるかもしれない。
日陰になるような場所も探しておかないといけないようだ。
でも砂がないとはどいうことなんだろうか?
明るくなって遠くまで見渡せるようになったので、高台に立ち上がって見渡してみる。
見える範囲では何も変化がない。
山も見えない。なだらかな地平線が続いている。
「……これは詰んだな」
サバイバルの心得があっても流石にこれはナイわ!
草や木などの使えるものが何もない。
湖の水を飲んで凌いだとしても、1ヶ月ももたないだろう。塩もないし。
「あれ?何かあるぞ」
少し焦りながら湖を見ていると、湖畔に昨日は発見できなかった黒い大きなものが見える。
行ってみよう。
昨日拾った第一発見石、チャート(仮)を持って行く。他は重いのでここに置いておこう。