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39、青い人魂

 ダブルヘッドの巨人を倒した。


 手の内にあった頭部は実体感がなくなり、軽くなっていく。

 そして水になりボトボトと手の平をこぼれ落ちていった。




 銀狼に続いて強敵ばかりだな。

 足が遅いから俺的には相性が良かっただけで、このタフさと攻撃力は銀狼よりも上かもしれないな。


 水溜まりを見ると、そこには小石とダブルヘッドの槍だけが残されていた。

 金属でできたはずの他の武器も溶けてしまったようだ。

 残る物と残らない物の差はなんなんだ?

 異世界は深く考えてはいけないのか?


「まるでゲームみたいだな…」


 こんな薄暗いダンジョンで戦いばっかりしてると、現実感が無くなってしまう。

 何かのゲームの中に入ってしまったんじゃないかという疑念に囚われて、抜け出せない。


 ダンジョン、モンスター、宝箱、消える死体、残るアイテム……。


 経験値とかレベルアップとかHPMPもあるのか?


 フィフドラで転移はなかったけどな…。

 あんなダブルヘッドの巨人も出てこなかったし。

 いや俺は1作目しかやってないけど。




「あ〜、もう!

 俺は生きてるぜ!

 ここがゲームだろうが、異世界だろうが、生き抜く!

 それだけだ、シュナイデック!」



 出口のない思考を投げ捨て、ダブルヘッドの槍と小石を拾う。

 小石の大きさはそれ程でもない。

 なぜ、とか思ってはいけない。


 そういうもの、なのです。


 槍は総金属製で180センチ程か。

 構えて、重心をとってみる。


 ふむ。


 投げより突きに向いてるけど、投げられなくはない。

 ゴブ槍よりは断然良いか。

 今日持ってきたゴブ槍は全部壊れたし、丁度良い。




 この広間でも休憩を取り、今後の探索をどうするか考える。

 もう少し進むか、そろそろ引き返すか。

 まだ進める体力も武器もあるが、帰りの時間を考えると引き返したほうが安全か。



 ()()進める、という思考は危険というし、帰ろう。

 2体の強敵と戦ったんだからな。



「はい、今日の探索はここまで、ということにしたいと思いますっ

 安全第一、命を大事に!でね、探索を進めていきたいと思います

 ここまでのご視聴、ありがとうございました!」



 こうして俺は今日のダンジョンアタックを終了するのであった。






 罠を越え、スライムを投げてダンジョンから出ると、外はもう夕方だった。

 やっぱり時間の感覚がズレるから早めに引き返して正解だったな。





 湖の近くまで帰る頃には、辺りはもう暗くなっていた。


「ん?あれは何だ?」


 静まり返っている湖面に一つの光が浮かんでいる…。

 

 投げ集中で見てみると、なんと人魂?


「今度はホラーか…」


 青みがかった炎の光が湖の最深部がある中央付近を揺ら揺らと漂っている。


 水際まで近付いてみる。


「……………ぁ!」


 何となく、こっちを見てる気がする。



 奇妙な見つめ合いは数分ほど続いただろうか。

 不意に人魂は湖の底に沈んでいき、見えなくなった。

 水に触れても炎の揺らぎが変わらないから、実体ではないのだろう。

 恐怖よりもどこか神秘的なものに遭遇した気分だ。


 それにしてもあの人魂はこの世界のものか、前の世界のものか…。


「まさか川上さんの魂じゃないよね?」


 チャンネルのカメラマン、川上さんを思い出して不安になる。

 プロアウェイを握り、彼の無事を願った。







 翌朝。

 投げ集中するまでもなく、湖の水の少なさに驚いた。


「これは一気に進んだな……」


 遠浅だった部分は干上がり、急勾配の中心部のみ水があるという感じか。

 それでも湖の直径は200m以上あるだろうが。

 地上を進むか、ダンジョンを進むか、決断しないといけない時は思ってた以上に早くにやってきそうだ。



 そろそろこの世界に来て1週間。

 無事に健康を維持している。

 異世界投げパワーと湖の水のお陰で調子が良いぐらいだ。

 だが、現状維持はできないのは目に見えている。

 開拓あるのみ!




 今日も干上がって現れた地面に何か落ちてないか確認。


「流木発見!……あれ?」


 少し水に浸かっている1m程の流木を発見したが、流木の周りに何かが見える。


「釣り糸?」


 透明なラインが流木に絡まり、よく見ると流木に疑似餌が引っ掛かっている。

 スプーンという種類の金属製のルアーだ。

 トラウト系を狙う時によく使うルアーで、食器のスプーンのお玉部分に針がついてるような形状だ。

 誰か釣りをしてて、流木に引っ掛けてラインが高切れしたんだろう。

 ラインを巻き取ってみると5m程もありそうだ。


「これはもしかしてお宝ゲットじゃないか?」


 劣化具合にもよるけど、色々使えそうだ。

 流木を担いでウキウキで探索を終えた。


 深場は急勾配のすり鉢状になっているようで、物があったとしても深場に転がり落ちるはず。

 ほとんどの場所で急勾配のフチにまで干上がったから、しばらくは何も見つからないかもしれないな…。


 武器庫で流木を乾かしておく。

 特に不思議な力は何もないようだ。

 調理用か、武器の柄にしよう。


 ラインのついたスプーンを投げてみる。


 シュンッ  ゥウンッ!


 投げた直後にラインを手繰り寄せてスプーンを手元に戻す。

 中国武術の縄鏢や流星錘の技だ。

 投げた物が手元に戻ってくるという素敵仕様に惹かれて、中国の達人に教えを乞うた時期がある。


 この銀色のスプーンは軽すぎて扱い難い。

 反対側のラインブレイクした方に何かを結びつけよう。

 宝箱から出てきたゴブ剣ぐらいで良いか。

 スプーンの針が危険だからミズカマキリの節の中に入れて、外側にラインをクルクルと巻き付けておけば良い。

 これで使い勝手が良くなっただろう。

 どうせなら節に剣の柄を差し込めるようにできるようにしようか。

 普段は短い短槍で、柄から先端を抜けば縄鏢となる。


「何それロマン武器」


 作りましょう。

 宝箱産ゴブ剣ではバランス悪いし、加工もし辛い。

 選抜ナイフはバランス壊したくないし…。



「よし、大量にあるゴブリンのナイフを鋳潰してみようか」


 鏢や錘は、要するに重りだ。

 赤石の温度は高そうだし、なんとか溶かせるんじゃないかな。

 このゴブリンナイフが普通の鉄だとしてだが…。

 まぁ失敗しても良いから気楽にいこう。





「はい、今日も始まりました!

 徹底投擲チャンネルの投神ですっ

 今からこのナイフを溶かして別の武器にできるか、という実験をしたいと思います!

 それでは〜、世界を投げ投げー!


 先ずは石板4つを合わせて四角い溝を作ります。

 その上にこのナイフを4つほど置きましょうか。

 これがもし上手く溶けたら、下の溝に流れ込んで四角い金属の塊ができるんではないかな〜と企んでます。


 火はですね、この赤石の力で起こしていきます。

 ちょっとブースト材料としてこの流木も一緒に燃やしましょうか。

 ではバラしますね。


 オラッ!





 ということで薪ができましたので溝の上に並べて、その上にナイフを置きましょう。

 それでは燃やしていきたいと思います!」


 俺は赤石を握り、金属が溶けるほどの灼熱の炎が上がるイメージを持って投気を練りこんでいく…!


 うっすらと赤石が光りだした。

 変化に驚くものの集中は途切れさせない。

 光りはどんどん強くなり、俺の中の何かが限界を迎える。


 投げるっ


 …ストン ゴオウウゥゥゥゥゥウウウウウウウウゥゥ…!


 置きにいくようなアンダースローで投げられた赤石がナイフの上に落ちた途端、爆発するような激しい炎を発生させた!


「うわっ!」


 熱量と光量がヤバい!

 鉄を溶接してる時のようだ。

 慌てて下がって距離を取る。



「投気を思いっきり込めたけど、ここまで効果がアップするなんて思わなかったな…」


 燃焼時間も長そうだ。

 薪が仕事をしているのかは、全く分かりません。

 まだまだ火は治らなさそうなので、他にやれることをしておこう。




 雑務をこなしていると漸く火が消えた。

 ナイフは見えず、僅かな灰の下に落ちているようなので上手く溶けたようだ。

 しかし熱は放出していて近付くとキンキンとした熱線が飛んでくる。

 待っている間に流木を割って作っておいた長い火箸で石板を動かしてみると、まだ赤く輝いている四角い塊が出てきた。


「上手くいったっぽい」


 叩いて形を整えたいんだが…、ここはやはり異世界。

 投げでいきましょいう。

 選んだのは泥石。

 当たったところがなぜか重くなる効果がある。

 それを投気を込めて……、


「投げる」


 コン グシャ!


「あ、ぺったんこ!」


 ヤバいっす。

 円盤投げには良いけど、これは回転させたくないんだ。

 火箸で縦に立てて保持しながら、


「投げる」


 コン グシャ!


 難しいな、これ!

 またぺちゃんこやんけ。


「もう一回、投げる」


 コン グシャ

 コン グシャ



 角度を変えながら泥石を投げ、少しずつ形を整えていく。

 冷えてきたのか、少し硬くなってきた。


 コン ガン

 コン ギン





「なんとか形になったかな?」


 円錐形を二つ背中合わせにくっつけたような感じで、一方が先端が鋭く伸びている。

 なんとか錘といって良い形状にはなったか。

 根元になる方はミズカマキリの節に差し込めるように細長い棒状のようなものを出しておいた。


「次は焼き入れだな」


 あんまり詳しくはないが、水をかけて急激に冷やすと硬くなるらしい。

 アクエルオー様を出してかけてみる。


 バシュウゥゥゥゥゥ…! ジュンジュン シュン…シュワー…


「おーおー、すげー」


 モクモクと熱い水蒸気が一気にあがる


 これで強度があれば良いんだが。

 冷えた錘の横っちょを岩に投げつけてみる。


 シュッ ギンッ!


「お〜!…お?欠けた⁉︎」


 横の角っこが少し欠けてしまった…。

 残念ながら硬いんだけど脆いようだ。


「ん〜、もう一度火にかけてみよう」


 確か焼戻しだったかな?

 まあ、前の世界の金属じゃないからトライアンドエラーでいこう。


 赤石、頼むぜ!


「おぉぉ〜燃えろ!」


 ストン ゴオオオオォォォォ…!




 …よぉし、今度は早めに冷却してみよう。


 バシュゥゥゥゥゥ…! ジュンシュワワァァー…






 こうして色々試してみて、納得できるものが出来上がったのはお昼をとっくに過ぎた時間になってしまった。



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