37、銀狼
拠点に戻ってきた。
途中、ゴブリンの王を火葬したところから小石を回収しておいた。
今まで見つけた小石の中では最大の大きさだ。
お供のデカいゴブリンのものと思われる小石もなかなかの大きさである。
コイントス要員に追加だ。
さて、そろそろ夕方という時間だろうか。
暗くなる前に工作をしておこう。
先ずはプロアウェイを首掛けにするための縄を取り出す。
何となく怨念とかついてそうなので、お祓いの意味を込めて石英を投げつけておいた。
キラキラとした輝きに包まれて、何となくサッパリしました。
さらに水で綺麗に洗おう。
「お〜何か美しくなったぞ」
適当な太さと長さにしてプロアウェイをベンダントのように首に吊るした。
揺れると思うが、プロアウェイの手振れ補正能力に期待しよう。
それと対人武器として毒棒手裏剣の鞘の中に取っておいた鯉の苦玉を入れて。吻の先端に毒が付くようにした。
ミズカマキリと鯉の二重の毒でいざという時の備えだ。
お次は干しておいたオイカワの皮を肩掛けというかポンチョにした。
少し生臭いが水で洗うと気にならない程度になった。
対人で目を惑わしてくれることに期待。
やっぱりあの魔人といい、6人組といい、前の世界では達人レベルの者がゴロゴロいる戦いに満ちた世界のようだ。
対人戦の手数は用意しておいた方が良い。
あとは迷路対策だが、やはり手描きの地図かな〜。
紙が欲しいとこだが、そんなものはないので、もう1枚のオイカワの皮をA5サイズ程度に切って魚皮の内側を紙として使おう。
あとは調理場の炭を拾えば筆記用具の完成だ。
それと鯉の焼干しを切り出して携帯食とした。
「よし、これで明日はもっと奥まで探索できるぞ」
工作作業に満足し、寝ぐらて二つの月を見ながら眠りについた。
翌朝、いつものルーティンをこなす。
「水がめちゃくちゃ減ってる!」
中心部は依然として黒々とした深淵のごとく底は全く見えないが、遠浅の部分はかなり陸地となってしまった。
「しかし、なんでここだけ唐突にすり鉢状に凹んでるんだ?」
周りを見渡してもこんな地形はここだけだ。
そしてそこにちょうど前の世界から湖の水が注がれた。
何かしらの理由がありそうだな…。
いずれにせよ、この場を離れないと詰む。
謎解きをしている暇はない。
外周が短くなった湖を1周してから、ダンジョンに行こう。
「本日の拾得物はこちら、食パン『超やわ』の袋!
皆さん、ゴミを捨てるのは辞めましょう!」
でも食パンの中で一番好きです!
有り難く使わさせてもらいます。
特に変わったところはなさそうなので、普通に携帯食入れにしよう。
よし、装備を整えてダンジョンアタックだ。
「本日の装備はミズカマキリ槍1本、ゴブリン槍2本、ブーメラン2本、選抜ナイフ1本、石八つ、小石少々
ポンチョ、パレオ、首掛けプロアウェイ、ビニール袋、アクエルオー様、パン袋入り携帯食、そして筆記用具となっております」
床の罠を作動させるのに、槍をロストしてしまう可能性があるのでゴブリン槍を持っていく。
毒の棒手裏剣はもし自分を傷付けたら洒落にならないので、今日は置いていく。
よし出発!
「はい、異世界からこんにちは!
徹底投擲チャンネルの投神ですっ
世界を〜投げ投げ!
昨日に引き継ぎ、今日もダンジョンに挑戦したいと思います!
プロアウェイを身に付けておりますので、臨場感のある動画をお届けられたらと思っております
今日はどんな発見があるのでしょうか?
最後までご視聴をお願いしますね
それでは、スタート!」
良いね!
何か気分がノる。
寂しくない。
客観的に観ると悲しくなるから、客観的に観ない!
入口の砲丸投げで崩れた場所は、ほぼ直っている。
スライムや罠に注意しながら進む。
今日はスライムが少ないようだ。
「投げるなら投げるときっ!」
ニュンッ ビターン!
今日もつまらぬものを投げてしまったか。
体の一部を投げつけるように攻撃してくるスライムを投げ飛ばしつつ、ゴブリン広場を越え、昨日の岩卵があったとろこまで来た。
「今日もある…」
きのう縞石で真っ二つにした卵状の岩が復活している。
よし、今日も縞石を投げて割ってみよう。
シュッ ガン!バキンッ!
「お〜、今日は剣か」
出てきたのは槍ではなく、ゴブリンの小剣。
普通のゴブリンが持ってるやつだ。
投げバランスは腰の選抜ナイフのほうが数段優れているが、罠作動用に持っていこう。
しかし、どういうシステムなんだろう。
入口のところに落ちていた武器が消えて、この広間の卵の中に移動する。
ダンジョンという生き物がダンジョン内の死骸や物を一度吸収して、不要なものを排出しているのか…?
だとしたら俺はいまダンジョンの腹の中か。
ますます気が抜けないな。
罠を回避しつつ通路が2つに分かれているところまで来た。
途中の罠は昨日とは配置が違たり、種類が違ったりしていた。
全く油断できん。
先ずは右に進もう。
魚皮ノートと炭ペンを取り出し、簡単な地図を書き、進んだ道のりを記していく。
だいたいの歩数も数えたほうが良いか。
罠が変わるなら道も変わるかもしれないが、短時間では変わるまい。
分岐点は予想よりは少なく、今のところ迷う心配はない。
「ん?」
広場に出たとき、何かが近付いてくる気配がする…。
早いっ!
「もう来たっ!」
シタタンッと軽やかな足音を響かせて現れたのは一匹の巨大な銀色の狼!
体長4m程の巨大で神々しい。
しかし顔には皺が刻まれて恐ろしい牙を見せつけるように威嚇している。
流れるような美しい毛並みは神々しく輝き、畏怖すら覚える程だ。
銀狼は威嚇をやめ、俺を獲物と認識したようで飛びかかる隙を伺っている。
デカいが、鯨よりは小さい。
師匠よりは素早くない、…よね?
先手必勝!
「ゴブ槍っ!」
バシュゥ! ビヨョョョョゥ!バキンッ!
「なんだと?うおっ!」
投げつけたられた槍は、突如として発生した吹雪によって勢いを殺され、銀狼によって噛み砕かれてしまった。
そしてその吹雪の余波で俺も吹き飛ばされてしまう…!
「こいつ魔法を使うのか?」
ほぼ裸だから寒いって!
吹雪とともに銀狼が突っ込んでくるっ!
俺は前方にヘッドスライディングするように滑り込み、恐ろしい牙を寸前で躱した。
そして下から腹を蹴り上げながら投げ飛ばす!
「オラッ!」
ブォン…! タシンッ!
流石は四足歩行の獣。
上方に投げてもバランスをとって綺麗に着地した。
まぁ距離を取る為の投げだ。
腹に蹴りも入れてやったし、あの神々しい銀狼に対してはなかなかな滑り出しと言える。
しかし、直接投げてダメージを与えるのは難しそうだ。
武器を投げても吹雪で減衰される。
「投神、ビンチですっ」
……よし。
覚悟を決めろ。
たとえこの銀狼が神に連なる者だとしても、戦いの場においては喰らい尽くすのみ!
「天現捨投流 投神、参る」
バシュゥッ! ビヨョョョョョョオォゥ!
俺の投げたゴブ槍はやはり減衰されている。
「まだまだ!ブーメラン!」
ブォンンンッッ! シュシュュュュュ… ザシュ!
「命中」
先ずはゴブ槍で吹雪を誘発させ、その吹雪の流れを呼んで2本のブーメランを投げた。
先着の1本目は躱されたが、本命のブーメランは狙い通り当てさせてもらったぜ。
太腿あたりを強打し、かなり血も出ている。
さっきみたいに素早くは動けないはず。
戦いの流れは俺に傾いてる。
でも、手負いの獣は手強い。
ここからだ!
グルルルルルルル……!
初めて声を出したな。
巨体に見合った、腹の底に響くスケールのデカい重低音だ。
「ッ!ヤバッ!」
銀狼の唸り声に応えるように、銀狼の周囲の空中に氷の塊がキラキラと輝きながら無数に出現した。
それらは大きくなるにつれ、氷柱の先端をこちらに向けるように伸びて回転を始める!
バシュバシュッ!
そして弾丸のように打ち出された!
「うがっ!」
完全には避けられず、二の腕を削られた。
距離をあけていたから何とか命中は避けられたが、氷柱はまだまだある。
バシュバシュバシュッ!
「角石!縞石!」
ゴガンッ!バギン!
角石の破壊力と縞石の切断力で何とか3本の氷柱を迎撃!
たが、まだまだ来るぞ。
主力級を投げてしまったから次は厳しい!
バシュバシュバシュッ!
また3本来た!
…しかしこの氷柱はどうやって飛んでるんだ?
物理・慣性の法則は全無視ですか?
魔法と言えば何でも許されるのですか?
だったら俺もあんな風に投げたいわっ!
……投げる?
氷柱を投げてる…?
「投げるなら……投げ返されるのを覚悟しろっゴラッ!」
俺は氷柱に寄り添うように抱え、その勢いのまま回転!
他の2本の氷柱を弾き飛ばして銀狼に向かって投げ返した!
ブゥオンッ!! ギャンッッ!
氷柱は銀狼の胸に深く付き刺さった!
「命中…!」