35、トラベリング
「ふぅ、もうスライムは打ち止めかな」
10匹以上は倒しただろうか。
直接投げて倒し、赤石で燃やし、雷石を試してみたりとやりたい放題である。
お陰で洞窟の壁はひび割れたり煤けたりしている。
雷石はやはり強い電流が発生するようで、当てられたスライムは痙攣するように細かく震えたあと、煙を上げながら溶けていった。
スライムが溶けたあとをよく見ると、小さくて綺羅な石が落ちている。
これはゴブリンを弔ったときに出できた小石と同じものだ。
最近はもう気にも留めてないが、スライムも体内に持っていたのか。
綺麗でもすぐに壊れる小さな石より、元世界産の投げごろサイズの石のほうが何百倍も良い。
わざわざ拾うこともないな。
あ、でもあのゴブリンの王のは後で探して拾っておこうかな、デカそうだし。
よし、進もう。
ゴブリンやスライムが出るなら、他のフィフドラで出てきたモンスターも出てくる可能性がある。
俺の投げで遠距離攻撃はアドバンテージを取れるはずだから、不意打ちだけは避けなければ。
ゴブリンの巣の広場に出た。
スライムは、いる。
何となく気配でわかるようになってきた。
スライム以外の異変がないことを確認してスライムを倒していく。
「違う!投げとはこうやるんだっ!」
ズダーンッ!
「投げをなめるなっ!」
ズダーンッ!
「投げられるほうの気持ちを理解しろっ!」
ズダーンッ
ズダーンッ
ズダーンッ……
……つい、熱くなってしまったぜ。
辺りはスライムの残骸と思われる謎の液体の水溜まりが点在している。
そういえばゴブリンの排泄物が無くなっているな…。
臭いもない。
「スライムは洞窟の掃除屋さんか…」
襲ってこなければ放っておくんだがな…。
こんなにスライムがいるんじゃ、ここで寝るのは危険だ。
ここを拠点にしたかったんだがなぁ…。
「それじゃ、あの6人組みがやって来た通路に行ってみるか」
ピーン、パシ… ピーン、パシ… ピーン、パシ… ピーン、パシ…
角石お手玉の代わりに、スライムの小石を連続コイントスの要領で投げながら進む。
これの有効利用法はこれだね。
手のひらにジャラジャラと小石を握りながら親指で上に弾き投げてはキャッチ。
何か違和感があれば指弾でぶつけてみる。
気楽に使い捨てできるから便利だ。
通路を進んで行くと、また広間に出た。
スライムはいない。
しかし広間の中央には盛り上がった部分があり、あからさまな違和感がある。
まるで洞窟が産んだ岩でできた卵のような感じだ。
注意しながら近付いてみる。
…変化なし。
「石を投げてみようか……縞石っ」
シュッ バキン! …ゴトンッ
「何だ?……槍?」
卵に縞石を当てて割ってみると、中には空間があり、1本の槍が入っているようだ。
注意しながら取り出してみる。
「普通の、ゴブリンの槍……?」
ゴブリンはこうやって槍を得ていたのか?
いや…、これは使い込んだ跡がある。
新品じゃない。
入口のところの武器が無くなってたし、誰かがこれを持ってきて岩の卵の中に入れたのか?
「わからんな~」
そんな無駄なことするかね。
ゲームなら宝箱ゲットで済むんだけどな。
「……!、宝箱か⁉」
シュナイデックも迷宮の中で宝箱を発見してたな…。
ここはもしかして本当にフィフドラの世界なんじゃ?
ないな。
ドラゴニック・ファイヤー使えないし。
いや、あれはドラゴンの血を引くシュナイデックだからできる魔法だったっけ?
まぁいい。
とりあえずこの槍も持っていくか。
あんまり良い槍じゃないけど。
また通路をコイントス歩法で進む。
違和感。
「指弾」
シュッ ガン ドスドスドス!
「おおおおっ⁈」
何だこれ!小石が当たったところに槍のようなトゲが何本も落ちてきた!
怖っ‼︎
トゲは自然物のように見えるが、こんな大掛かりな罠の仕掛けは誰かが作らないとできない。
「だから誰がやってんのよ?」
しばらくするとトゲは唐突に引っ込んだ。
哀れな犠牲者が来るのを待ち構えているのだろう。
投げ集中していないと全く違和感を感じないのも恐ろしい。
あれ?
投げ集中って罠も見逃さないのか。
異世界投げパワーの適用範囲の広さよ!
罠を刺激しないように大回りして避け、コイントス歩法でさらに進むとまたもや違和感。
床の広い範囲が怪しい。
「指弾」
シュッ ガン
………。
うーん、打撃力が足りないか。
ゴブリン槍、君の出番だ。
「…投げる!」
シュッ! ザンッ! ガラガラガラガラ…
「ぬおっ!床が落ちた!」
殺しにきてる!
数メートルほど落ちた底にはさっきと同じようなトゲが何本も立っていて、落ちてきたものを串刺しにする罠のようだ…。
飛び越せる距離なので、飛んで渡ろう。
「…いよっ!っと」
…ふむ。
思った以上に飛べたな。
投げながら飛べば、これはもっと飛べるのではなかろうか。
やってみよう。
競技のやり投げの要領か。
バスケットボールのレイアップシュートが良いか。
…いや、俺にレイアップシュートをさせてはいけない。
あれは高校一年生のときでした…。
陸上部だった俺は放課後はグランドにばかりいたのだが、ある雨の日に体育館での練習となった。
そのときに目に飛び込んできた美しい投げ。
バスケットボール部のスリーポイントシュートだ。
美しい放物線を描き、リングに吸い込まれる。
上がる歓声。
バスケットボールというものは知っていたが、こんに美しいものとは知らなかった。
当然、俺も混ぜてもらった。
陸上部の先輩やコーチ、そしておかしなことにバスケ部からも怒号が上がっていたが、知らん。
バスケットボールを投げてみるが、なかなかリングに入らない。
砲丸投げでもドッジボールでもない投げ方が必要だ。
やはりその競技に適したフォームがあり、動きがある。
面白い。
怒号はいつしか消え、バスケ部の先輩が俺に投げ方を教えてくれた。
「おいお前、力で投げんな
直線的な軌道じゃなく、大きな弧を描くようにすれば入る確率があがる
指先でボールを感じながら支えて、手首のスナップで投げる
下半身をブレさすな!」
この先輩の言葉を聞いてるうちに何かがカチリとはまった。
投げる
投げる
投げる…
ボールはそれが当たり前のように連続してリングに入っていく。
もう何も聞こえない。
この世界にはボールとリングしか存在しないようだ…。
気付けば相当時間が経っていたようで部活は終わり、なぜか陸上部とバスケ部コーチの先生が話し合っている。
「赤峰、もうわかったから!
明日からバスケ部に来い」
そうしていつの間にか俺の所属する部活が変わっていた。
解せぬ。
解せぬが、まあ良い。
投げるまでよ。
次の日から俺はバスケ部で練習をし、さらにスリーポイントシュートの精度が上がっていく。
どこの位置からでも投げて入れられる。
そして練習試合の日。
俺もスタメンで出場し、シュートをバンバン決めてやった。
しかしそのうち俺が目立ち過ぎたのか、俺をマークするものが増え、いつしか相手選手に常に囲まれるようになった。
当然のように俺はドリブルを練習してないし、先輩方からボールをもらうのをボーッと待っているだけだ。
後半になると相手チームは俺を完全に封殺し、一度もシュートを打たせなかった。
試合は僅差で逆転負け。
課題の残る試合内容となった。
そしてドリブルなどの基本的な練習が始まったのだが、全く身につかなかった。
何度やってもトラベリングという反則をとられまくる。
解せぬ。
レイアップシュートを決めてもトラベリング。
解せぬ。
多分、流派の走法が勝手に出ちゃってるんだと思うのだが、いつしか赤峰にレイアップシュートを打たせるなという指示が出る始末となった。
そしてスリーポイントシュートにも飽きてしまい、俺は棒高跳びの世界に行くことになるのだ…。
っと、やばいやばい!
危険が危ないの洞窟内で昔のことを振り返っていてはダメだ。
バスケはやめて、やり投げのステップで飛んでみよう。
「よしっ」
ザッザッザッザッザッザッザッザッ、ザンッ! ………ズサァー!
おぉ〜めっちゃ飛べる!
幅跳びの世界記録を狙えるんじゃないかな、これ。
あ〜、勢いでミズカマキリ槍を投げてしまったな。
水の刃の力を使ってしまったよ。
もったいない。
グオオオオオゥウウウォオオオ〜‼︎⁉
「わっやべっ!」
槍が飛んで行った辺りで何かの声というか咆哮が聞こえる!
もしかして攻撃しちゃった?
人なら大変なことしちゃったぞ…。
念のため装備を整えて、いつでもミズカマキリ槍を投げられるよう集中して声の方に向かう。
そこには見たこともないような者がいた!