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34、スライムを投げます


「よーし、ブーメランは良い感じに仕上がったな!」


 ブーメランの調整と投げ込みは結局日が暮れるまでやってしまった。

 砕けた岩が散乱していて、岩肌には大きな亀裂が幾筋も刻まれている。

 自然破壊だな…、すまぬ。

 またゴブリンか何かがが攻めてきたら有り難く使わさせてもらうよ。


「今日はもう寝て、明日に備えねば」



 寝ぐらがある高台に向かおうとしたその時、湖から大きな水音が響いた!


 ドバッシャー! ジャバッ!バシャバシャ…! バシュバシューン…!


 暗くて分からないが巨大な生き物が暴れている!

 音のスケールから察するに、巨大ナマズや巨大亀クラスの大きさだ。


「奴らが戦ってるのか…?」


 巻き込まれないように湖から距離をとる。

 あんな鯨サイズの生物の激闘に巻き込まれでもしたら、命がいくつあっても足りやしない。

 暗くて見えないので、余計に恐怖感が増す。

 水に入らない限りは安心だが、もしこないだ見たのが本当に巨大亀なら陸上も危険になってくる。

 あんな巨大なものとまともに戦う気はない。


 早めにゴブリンの巣の奥を調査して、拠点を移したほうが良いかもな…。




 その日の夜はいつまでも大きな水音が聞こえ続け、恐怖で眠れないと思ったのだが、緑石お手玉ですぐに快眠することができた。

 緑石たんマジ癒やし………









 翌朝も快晴である。

 先ずはアトラトル&槍で警戒!


「湖は静かだが……なんか地形が変わっとる!」


 水際の崖になっていた俺の漁場が砕かれてしまっている。

 それに一気に水が減ったのが見て取れる。

 もうあそこから魚を捕るのは難しそうだ。



「なんちゅう激しい戦いだったんだよ…」


 自然破壊はやめろ!


 ……他人のことは言えないか。




 湖はやはり()()()()になっているようで、湖面の位置がだいぶ下がっている。

 このままこのペースで減ってしまうなら、残された時間は少ない。

 のんびり漁なんてしてられないかもな。

 今日はゴブリンの巣の先を探索しよう。



 一通り周囲を観察し、湖以外に異常がないことを確認した。

 よし、朝食を済ませて早速出発しよう。



 今日の装備は吸水済みミズカマキリ槍3本を持って、ブーメラン2本と選抜ナイフを腰に差す。

 そしてビニール袋に石7つ、アクエルオー様とプロアウェイを入れた。

 これであの6人と同じぐらい強さの相手と戦えるかと言えば、なかなか厳しそうだ。

 何せ向こうには魔法という未知の技がある。


 もしまた人と出会ったとしても平和的なものになりますように。

 そしてどうか俺を文明圏に連れて行ってくれ!

 もしくは調味料か情報だけも良い!






 水が少なくなっているので、何か落ちていないか確認しつつ湖畔を歩く。

 もちろんお手玉歩法だ。

 昨日あんなに荒れ狂っていたのに、今日は波一つない穏やかな湖面。

 ぽかりと浮いている空の雲を綺麗に映している。

 それが却って少し薄気味悪く感じてしまう。





「おっ!石発見!」


 やったぜ!

 前の世界の石は貴重だ!

 拾い上げてみると黒くてツヤツヤしている。

 黒い水晶のような感じで、その辺りの河原に落ちているような石ではない。

 そして触っていると少しピリピリする感じがする。


「電気石?」


 いや、どこかで見た電気石の標本は確か透明感のある美しい宝石のようなものだった気がする…。

 それに電気石がピリピリするかも知らないし。

 とにかく投げてみよう。


「ほいっ」


 シュ ズカン!


 良いね〜、石が壊れないという安心感。

 石が当たったところに妙な変化はないように見える。

 投げ集中もやっとくか。


「……投げる!」


 シュッ ズカン! バリバリバリ…!


「おぉぉ〜!何かスパークしてる?!」


 火花とかは飛んでないが、電気の力で溶接するときのような音が聞こえる!

 あそこには絶対近付きたくないな。


「よし、八つ目の石は『雷石(かみなりいし)』と命名する!」


 新入りの雷石をビニール袋入れ、角石お手玉歩法で探索を再開した。

 みんな、仲良くやっとくれ。



 他には特に新しい発見はなく、ゴブリンの巣穴に向かう。

 何故か昨日より早く着いたように感じる。

 ほう、我がお手玉歩法も進化しておるのか。

 フッフッフ…。




 洞窟の入口に降り立つ。

 ここからは真面目に行くぜ。

 先ずは暗闇に目を慣らしてから、慎重に入っていく。



「あれっ?ゴブリンの死体がない!」


 入口付近は瓦礫砲丸投げによって撃ち抜かれたり、崩れた瓦礫で圧死したゴブリンが多数いたのだ。

 それが綺麗になくなっている。

 瓦礫に挟まっていたゴブリンの武器もなく、少し崩れたところも直されているように思う。


「いったい誰が…?」


 そして何の為に…。

 

 何かがいるのなら不意打ちに注意しなければ。



 警戒度を上げて進む。

 何も音は聞こえない。

 投げ集中中なので暗闇でもよく見えている。




 っ!、壁に違和感!

 角石先輩を握り締め、観察していると、壁がぬらりと動いた…!


「な、なんだコイツ?!」


 壁と保護色になっていて判別しにくいが、柔らかいアメーバ状のものが壁を這っている。

 かなり大きい!


「こ、これってスライム?!」


 ゲームのフィフドラに出てくる『スライム』はシュナイデックが初めて倒すモンスターであり、雑魚中の雑魚だ。

 レベルアップを重ねたシュナイデックたちには経験値の足しにすらならず、時間を取られるだけの迷惑な存在でしかない。

 それがリアルで見る巨大なアメーバは、何と奇怪な生き物で危険な感じがプンプンする。

 これは強敵!


「スライムやべーな!」


 表面は柔らかそうだが、岩石のように硬そうにも見える。

 俺の体をスッポリと覆える容量は充分にあるので、飛び付かれると危険だ。

 ここは赤石にしておこう。

 素早くビニール袋から石を出してチェンジし、投げ集中!


「投げる!」


 シュッ! ズカン ボオオオオオォォォォ


 やはりアメーバ状の生き物に炎は効果的らしく、縮むように小さくなって消えていく…。


「恐ろしいな…って、おいっ!」


 いつの間にかもう1匹のスライムが近くに来ていたようだ。

 スライムの中央が盛り上がり、それを投げ出すようにして飛びかかってきた!


 恐怖!

 今までで経験したことのないような原始的な気持ち悪さに立ち竦んでしまう。


 あれに取り付かれたら死ぬ…。

 投げるように飛んでくるとは…。


 顔に貼り付かれそうになる前、ぼんやりと考えてしまう。


 投げるように…?



「投げるなら、投げられるのを覚悟しろっ、この野郎!」


 ニュンッ ズガン!


 顔に届く寸前で、伸びてきたスライムの体の一部を巻き取るように回転して後方に投げ飛ばした!

 壁にひびが入るほど強く打ち付けられたスライムは表面張力を失ったように力なく地面にダラダラと流れていった。



 俺は今まで対戦相手と投げ合う競技もしてきた。

 そして格闘技として投げ合い、秘匿道場でも生死をかけて投げ合った。

 だから、わかる。

 投げるとは投げられることで、逆も然り。


 投げられる覚悟がないものに投げる資格はないっ!

 っと、ただの液体になったスライムの残骸に説教しても意味ないか。


 それよりもよくあんな液体のようなものを投げられたな、俺。

 やはり異世界投げパワーか。


「んんっ?」


 よく見ると結構いるじゃねーか!

 これがゴブリンの死体を掃除したのか?

 でも崩れた洞窟の壁をを元に戻したのはスライムではないだろうし……。


「ってゆーか、ゴブリンってスライム食べてたんじゃ?」


 スライムってちょっと水分ありそうだし。

 いやいや試さないよ?

 俺にはアクエルオー様のがついてるから、今のところ水は足りてます!


 鬼プロデューサーがいたら、『飲め』って冷たい視線で指示されてるな!

 面白い動画撮れるなら、いくらでも冷徹になれる女だ。

 幸いここは誰もいない異世界だ。

 ちょっぴり異世界に感謝しちゃうわ。


『あ、でも動画撮っとこう』


 プロアウェイを洞窟内にセットする。

 暗くてよく分からないだろうが、俺のモチベーションアップの為だ。

 スライムは気持ち悪過ぎる。



「はい、今日も異世界から始まりました!

 徹底投擲チャンネルの投神ですっ


 俺はいま、とある洞窟の中に来ています

 ちょっと画面が暗いと思いますが、ご了承下さい


 みなさんスライムってご存知ですよね?

 ゲームではお馴染みのキャラクターです

 実は現在進行形でそのスライムに襲われてまして、ですね

 今からそれを撃退していきたいと思います

 もちろん投げ、でね!


 それではポヨポヨしたあのスライムを投げられるか

 最後までご視聴頂ければと思います


 それでは、世界を投げ投げ〜!」




 そうして俺は湧き出てくるスライムを投げまくるのであった。



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