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31、プロアウェイ

 アクションカメラの『プロアウェイ』


 高画質と高レベル手振れ補正や防水機能で臨場感のある動画撮影を可能にした携帯用の小型ビデオカメラで、アクションカメラというジャンルがある。

 そのアクションカメラの中でも最高峰に位置するプロアウェイ。 

 動画共有サービス『エムブロ』のブロキャサーならば必須アイテムで、たいてい体のどこかに1つはくっつけているものだ。

 もちろん俺も自身の徹底投擲チャンネルの動画撮影ではお世話になっていた。

 それがどうして湖に落ちてるんだ?


「しかもハイエンドモデルのクラス10だし…ってこれは!」


 拾い上げてみたプロアウェイにはラベルが貼ってあり、そのラベルはウチの会社のものだった!


「な、なんでウチのプロアウェイが…」


 徹底投擲チャンネルを運営してるウチの会社のプロアウェイは全て、カメラマンの川上さんが管理していた。

 つまりこれは川上さんが落としたものだ。


「いつだ?いつ落としたんだ?」


 川上さんは確か、この世界に落ちてきた日の夕方に姫神湖の夕日を撮影してたはず…。

 でもそういう風景の撮影はハンディカムを使うだろうし。


「料亭での食事会のあと、もしかしてついてきてた?」


 川上さんは腕は確かだが、ちょっと変わってるところがあり、よくいたずらをされたもんだ。

 どっきりを仕掛けられて、それをチャンネルで配信されたこともあったな…。

 あの日、隠れて俺を撮影してたなら巻き込まれたかもしれない!


「はっ、ランプついてる…?」


 よく見ると撮影中を示すランプが点灯している。

 慌ててボタン操作して再生機能を使おうとしたが、全く反応しない。


「壊れてる…」


 湖を見渡す。

 もちろん人影は見えない。


「川上さん…、巻き込まれてないよね……」


 湖から返事があるはずもなく、ただどうしようもない不安感が胸に去来するのみだった。






「ん?槍が…」


 プロアウェイを拾う際にミズカマキリ槍も水に浸かったのが、色が元に戻っていた。


「もしかして…投げる!」


 シュッ! バシュシュュュュュ!


「おぉーっ、水の刃!」


 拾い上げててみると色が薄い。

 それを投げると水の刃は出ず、水に浸けて色が戻ってから投げると、水の刃が発生した。


「なるほど、そういう仕様ね」


 そりゃ無尽蔵に水が出たら、流石の異世界でもおかしいわな。


 それにしても、この強力な槍が7本もあるのか。

 ゴブリンの群れ、どんと来い!


「そういえば、作っておきたい武器があったんだよな」


 使うのは、ミズカマキリの頭部の(ふん)である。

 強力な毒を持っていたから、暗器として使えそうだ。


 それとこないだ拾った枝でブーメラン、である。






「はい、異世界からこんにちは!

 徹底投擲チャンネルの投神ですっ、世界を〜投げ投げ!」



 またこのノリで始めてしまったが、今日はプロアウェイを前に置いて、画角も考慮し、本気で動画撮影している体でやっている。

 録画中のランプがついてるからには、ブロキャサーとして気合いを入れなければなるまい!

 しかもクラス10はネットに自動で繋がり、データをアップする機能がある。

 つまり前の世界の視聴者さんにこの動画が届いているかもしれない!


 …ないか。

 ないよね?




「詳しいことは伏せますが、異世界らしき場所で撮影しております。

 この世界でもね、相変わらず投げまくって面白い動画をアップできればと思ってます

 これがホントの異世界スロー(throw)ライフ、なんちて!



 ………んんっ、さて、危険がいっぱいのこの世界ではね、武器が必要になってきます

 それをね、まあ既に作ってきたんですが、新たにいくつか作ってみたいと思います


 先ずはこの湾曲した枝!

 これを加工します

 水に浸かってたので乾かしていたのですが、相変わらずずっしりしておりまして、石のようです

 これは多分、水分を含んでいるからではなくてこういう素材みたいです

 異世界なんでね、柔軟にいきましょう


 先ずはこちらのナイフで割ります

 ちなみにこのナイフはゴブリンが持っていたものです

 ゴブリンいるんですよ〜、フィフドラかっ!

 じゃ、投げますっ!」


 シュッ! バキンッ!


 枝は薪割りのように縦に真っ二つに切断された。


「恐ろしく綺麗に割れましたね…

 それではこれをさらに薄くしていきます」


 シュッ! バキン

 シュッ! バキン

 シュッ! バキン

    ・

    ・

    ・

    ・



「はい、ブーメランが2本完成しました!

 数字の7のような形なんですが、これはノン・リターンタイプで、投げても手元に戻ってこない仕様となってます

 ただし熟練すれば軌道を自由にコントロールできて攻撃の威力が高いので、大型の獲物を捕るときや戦いのときに使っていると某ブーメラン師匠はおっしゃってました


 ブーメランの投げ検証は後にして、もう1つ武器を作りたいと思いま〜す…


 材料はこちらっ、ドン!


 虫の頭〜!


 虫嫌いな人、ごめんなさい!

 巨大な虫の頭部ですね

 どうやらミズカマキリが巨大化したもののようです

 俺の顔と同じぐらいの大きさがあります

 異世界にはこんなのがいるんですよ〜

 こんなのとね、戦っていかないといけない世界なんですよ


 さてこの口にあたる部分、鋭いトゲになってますが、これは吻と言いまして、なんとこれで毒を注入します!

 こわっ!

 なのでこの吻を使えば刺した相手を中毒させることができたり?できなかったり?


 ちょっとね、あまり危険なことをするとバンされそうなんですが、なんせここは危険が危ない世界なので大目に見て頂ければと思います…


 先ずは構造を調べて、どんな武器に合うか見てみましょう」


 頭部は外骨格なので全てのパーツが一体となっている。

 内部には毒液が入った袋や毒液が通る管はない。

 解体して乾燥させる工程で捨ててしまったかも。

 少し残念だけど、吻は鋭いから刺突武器としては優秀だろう。


 吻の部分だけに分解できた。

 ふむ、脇差しよりも小さい。

 小さめの鎧通しか…?


 いや、異世界投げパワーがあるから、ここはやはり棒手裏剣だな。

 吻の根本には同じくミズカマキリの小さくて使い道のなかった節を柄として差し込み、水でふやかしたオニヤンマの抜殻を巻いて固定した。

 そして誤って自分を傷つけないように、これもミズカマキリの節で簡易な鞘を作った。


 忍者先輩!異世界棒手裏剣っすよ!




「はい、出来上がりました!


 棒手裏剣ですっ!


 忍者が使っていた金属製のものとは全然違いますが、まぁそこは何もない異世界なので、これで良しとしておきましょう

 毒のほうは実際どうなのかはわかりませんが、これは男のロマンですから、機能は二の次ですっ


 さて今日は異世界で武器を作る、という動画をねご覧いただきましたが、また投げ検証とかもしていきたいと思いますので、そちらも動画にアップできればと思います


 ご視聴、ありがとうございましたっ!」




 プロアウェイのランプはまだついている。

 面白い動画は撮れただろうか。

 壊れていて確認もできないが。


 …って。

 鬼プロデューサーも敏腕編集さんも視聴者さんもいないのに俺は何やってんだ?

 虚しくなるわ。


 そんなに俺はブロキャサーの仕事が好きだったのか?



 ブロキャサーになる前は投擲系アスリートとして色々な競技を渡り歩き、それぞれで好成績を残していたし、話題にもなっていた。


 それでも俺は満足できなかった。


 そして日の目を見ることのない、というか表に出てはいけない殺人の為の技術を磨き続けた反動なのか、全世界に発信するエムブロでブロキャサーになった。


 楽しかった。

 手応えがあった。


 それでも投げに対するこだわりなのか、わだかまりなのかわからないが、投げを手放すことはできなくて、最近はエムブロも煩わしく感じてきていた…。


 何かを投げなければ…

 この投げではない…

 何かを投げるため、投げ出さないと…

 

 そんな強迫観念が常に心の中にあった。





「やっぱ両親のことがあったから、かなぁ」


 俺は両親の死の真相をお師さんから聞いた時のことを思い出した。




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