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27、瓦礫砲丸投げ!

 岩陰から顔を出して覗いてみると、そこは少し開けた場所で数十匹のゴブリンがたむろしていた。

 ほとんどが寝ているようだ。

 その中でまるで玉座に座るように、一段高くなった場所に座っているゴブリンに目が釘付けになる。

 デカい!

 そして強者の風格がある!

 ゴブリンの王、なのだろう。

 その王の付近に控えているゴブリンもデカくて強そうだ。


 ……ん?奥の一角に縄で縛られた者がいる。

 なんとゴブリンではない!

 より人間に近い姿をしているぞ。

 ゴブリンよりもさらに小さくて、人間の子供に見える。

 縛られているということは、ゴブリンと友好的な関係を築けてないんですね。

 わかります。わかります。

 すぐに襲ってくるからな、ゴブリン!



 あの子を救出しなければ…。



 しかしこの数とあの王はなかなか厳しい戦いになるな。


 ……腹を括ろう。


 石苦無を握りしめ、流派の使い手としてのモードに切り替えろ!



 心の中で呪いを唱える。


 闘いに臨むつわものは皆、我の前に在りて陣列をなす




「投げる!」


 裸足の俺は音もなく岩陰から踊り出て、王に向かって石苦無を投げつけた!


 シュッ!  ズカン!


 うげっ!王のやつ、近くにいたゴブリンを引き寄せて盾にしやがった!

 一斉にゴブリンが吠える!

 王は石苦無が刺さったゴブリンを打ち捨てて、鷹揚に指示を出している。


 よし、撤退!

 ゴブリンがこちらに襲ってくるのを待たずに通路が直線状になっているところまで走るっ。

 立て掛けておいたミズカマキリ槍を掴み、振り返って構え、投気発動!

 きてるきてる!

 ワラワラと血走った目で俺に向かって殺到してくる。

 それを冷静に絶対の時を計る。


 もう目の前までゴブリンが迫ってきたとき、この投げが最も効果的な瞬間と判断した!


「そこだ!オラッ!」


 バシュッ! ズパーーン!


「おわっ?!何だ?」


 放たれた槍はまるで翼を広げたように、左右に水を放ちながら進み、槍が直撃した以外のゴブリンも水の刃で切断した!


「す、すごい!」


 水…カマキリの力、か?


 直線の通路にいたゴブリンは今の一投で一掃された。

 なんという戦果だ。

 水蟷螂の槍はあと2本ある。

 この惨状を見ても、ゴブリンは絶対に襲ってくる。

 冷静に構え、狙う。

 きた。

 引きつけろ…。


「投げるっ!」


 バシュッ! ズパーーン!


 今度も槍は水の刃を放ち、洞窟内のゴブリンを一掃する。


 まだ来る…。


 最後の1本だ。

 構え…、投げる。


「そこだっ!」


 バシュッ! ズパーーン、ガキン!


「は?…やるね」


 先頭のゴブリンたちは始末したが、その後ろから来ていたゴブリンの王によって槍は弾かれた!

 何か禍々しい剣を持っているぞ。

 王の号令で、またゴブリンたちが押し寄せる。


「縞石っ!」


 バシュッ! ズパンッ!


 縞石も切断の力を発揮し、先頭のゴブリンを切り刻む!

 しかし貫通力が足りない!

 よし、ここは赤石だ。


「燃えろっ!」


 サイドスローで放たれた赤石は地面に転がるゴブリンたちを燃やしながら飛んだ!

 炎で道を塞いだ。

 これでしばらく足止めできる。


「撤退っ!」


 あいつらは火が消え次第、追いかけてくる。

 迎撃態勢を立て直さないと。


 ドッゴオォォーーン!


「なにっ?」


 ゴブリンの王の剣の振りの衝撃波で、燃え盛るゴブリンたちを吹き飛ばし、道を作ってしまったようだ!

 王は別格の存在のようだな。


「ならば取巻きを減らす!」


 角石っ、頼むぞ!


「そりゃっ!」


 バシュッ! ギンッ! ギンッ! ギンッ!


 水切りのように投げられた角石は、地面や壁を跳ねるように多角的に飛び、取巻きの大きいゴブリンを2体吹き飛ばした!


「さすが角石先輩!」


 一番最初に拾っただけのことはある!

 今のうちに洞窟を出よう。

 あの剣の衝撃波をこの狭いところで喰らいたくない。

 俺は一目散に出口へと走った。





 ゴブリンは追いかける。

 目は血走り、原始的な殺意の咆哮があがる。

 こうなるともはや破壊の衝動しか彼らの頭には存在しない。

 出口の明かりが見えてきたころ、何かが吹っ飛んできて彼らをなぎ倒していった!

 ゴブリンたちは自らの身に何が起きたか理解できなかった。

 彼らの頭ほどもある岩が彼らを押し潰してしまったからだ。





「よーし、もういっちょ行くか!」


 俺は巣穴の入口にある大きな瓦礫を穴に向かって投げつけた!


 グワンッ!  ドコーーンッ!


 武器庫まで撤退しようと思ってたけど、ここにも武器が転がっていることに気がついた。


「瓦礫投げ放題♪」


 投げのフォームは砲丸投げのそれだ。

 中学校の頃にやってたぜ!

 砲丸投げの鉄球よりも遥かに大きく重たい瓦礫を肩に担ぐように右手で持つ。

 左手を照準のように洞窟の穴に向け、力を貯めるように体を沈ませる。

 体の中にしっかりとした芯を貫き、右足で爆発するかのような蹴り出し!


「オラッ!」


 最小限の動きで、ブレのない推進力を一点に集約させるように投擲!

 普通の砲丸投げより投げる角度が低いが、異世界投げパワーにより強化された俺の投げは、大砲のような苛烈さで洞窟内を爆破した。

 中がどうなっているかわからないが、ゴブリンの気配があれば投擲を繰り返す。




「ふう、静かになったかな」


 洞窟の入口が半ば塞がるほどに瓦礫を投げ入れていたが、流石にゴブリンの勢いは衰えたようだ。

 アクエルオー様の水を飲む。


「プハーッ、うまい!」


 小休止を取っていると不意に入口が爆発するように瓦礫が粉砕された!


 ドッガーーーンッ!


 ガラガラと瓦礫を弾き飛ばしながら出てきたのは、王と3人のデカいゴブリンだ。


 やはり王はそんな簡単にいかないよね。


 決着をつけようじゃないか。


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