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25、投神はビニール袋を装備した!

 朝だ。

 今日も良い天気だ。

 緑石を投げてはキャッチするお手玉をして羽布団で寝ると、朝まで超ぐっすり眠れるな〜。

 朝の日課になった、この高台で辺りの警戒、観察する。


「投げる!」


 アトラトルに昨日新調した石槍をセットして、周辺に異常がないかチェックする。


「おぉ〜よく見える」


 湖やゴブリンの巣を観察するが、特に変化は見つからない。

 次に地平線に目を向ける。

 投気を込めて、倍率アップ!


「う〜ん、霞んでいるな〜」


 うっすらと山並みが見える気がするが、湿度が高いのか霞んでいてよく見えない。

 湿度が高いなら、水源もあるのだろうか…。

 何百何千キロの先よりも、まずは近場から行動範囲を広げよう。


「よし、異常ナシッ」


 観察を終了し、今日やることを考える。

 先ずは、食料の確保。

 そして武器の補充もしたい。


 朝食(干魚と水)を済ませ、湖を一周する。

 これも日課だ。

 しかし水位がガクッと減った気がするな…。



 湖に魚の気配はない。

 石も見つからないが、ちょっと崖になっているところで面白いものを発見した。


 あのオニヤンマの脱け殻だ。


 乾いていて少しパリパリになっているが、しなやかな部分もある。

 そして驚くほど軽い!

 これも何かに使えるだろうから武器庫に保管しよう。


 自分の身長ほどの脱け殻を担いで歩く。

 軽いので全く疲れない。


「あ、水の中に白いものがある…」


 膝まで浸かって拾い上げてみると、お馴染みのビニール袋である。


「コンビニの有料のヤツ!」


 これは良き物を拾った!

 今まで複数の石を持ち歩くのが面倒で面倒で…。

 ビニール袋にこれほど有難がる日が来ようとは!

 異世界に似合わないが使わさて頂きますっ!


「はっ!もしかして四次元ポケットみたいに何でも入ったり…?」


 アクエルオー様のような不思議な力があるかもしれないので、持っていた角石を入れてみる。


 …普通だ。


 次は槍を入れてみよう。


 ……入らない。

 当たり前か。


 水は?


 はい、普通。

 普通のビニール袋です。

 本当にありがとうございます。

 入れているものが軽い、とかもないです。

 でも結構頑丈な気がする。

 試しに袋を手で引っ張ってみたが、全く伸びない!


「あったよ不思議なパゥワーが!」


 頑丈なら安心して石を運べるよ。

 良きものを拾った〜。



 頭の毛がオレンジ色の上半身裸の男が、槍と石を入れた白いビニール袋を下げている。

 そしてそいつは着ぐるみのような大きな虫の脱け殻を担いで、湖畔を歩いている…。


 静かな湖面に映った自分の姿のシュールなこと!

 だが、ここは異世界!

 構うことはないっ!


「イャー!朝からツイテるぅ!」




 

 足取りも軽く探索を終え、武器庫に戻った。


「よし、この勢いのまま武器を作ろう!


 取り出したるはミズカマキリの殻!

 固くて使いやすそうな部分だけ乾燥させておりました。

 この足の節のパーツは一番長い物で80cmほど。

 それが大小あわせて9本あります。

 このミズカマキリの足なんですが、なんと竹のように真っ直ぐなんです。

 もうこれは槍にしてくれと言っているようなものです。

 加工も簡単ですし、ぱぱっと作ってしまいましょう!」



 ……最近どうも独り言が多いようだ。

 槍の柄となるミズカマキリの足は筒状なので、穂先の根本が差し込めるようにするだけで良い。

 固定をするのはゴブリンの赤バンダナでも良いが…、脱け殻を使ってみようか。


 脱け殻を適当に切って水でふやかす。

 柔らかくなったら穂先と柄の連結部に巻いて固定。

 乾かすと締まるのでガッチリと固定される、という感じだ。

 9本のミズカマキリ槍を作成し終える頃には、太陽が真上にきていた。


「よ〜し完成したぞ!

 具合を確かめたいところだけど、乾燥が必要だな。」




 工作作業を終え、まったりとしていると湖から大きな水音が聞こえた!


 ザッパーン‼  バシュッッ! バシュッッ!


「何だ?!」


 何かが湖で跳ねている!

 さっきまであんなに静かだった湖面に大きな波が幾重にも広がっている。

 目印付きの石槍、石の入ったビニール袋を持って飛び出す。


「魚が跳ねてる!

 何かから逃げてるのか?」


 いつもの狩り場の高台に着くと、沖のほうで大きな魚の群れが水面をジャンプして逃げ回っているのがハッキリ見えた。

 あの大きなナマズから逃げてるのか?

 こういう状況は釣りや漁をしていると偶に出くわすが、魚を得る大チャンスなのだ。

 この機会を逃してはならない!


「魚を横取りしてやる!」


 目印付きの石槍を構え、投気発動!


 水面を爆発させるように跳ねる巨大な銀色の魚がこちらに近付くのを待つ。



 バシュ、バシューン!


「な、なんだ?俺まだ何もしてないよ!」


 投げるタイミングを計っていた時、少し沖で水面から魚に向かって何かが発射された!


 水?


 水のロケットか?


 水鉄砲を何百倍も強力にしたようなものが放たれている!


 その内の何本かが魚に命中した!


 やるじゃない!


 感心していると、俺の近くにも魚が1匹逃げてきたので慌てて槍を投げる!


「よいしょっ!」


 バシュ!  ズバンッ!


 こちらも命中!


「よしっ!」


 沖を見ると謎の水ロケットで数匹の巨大魚が撃ち抜かれて浮いている。

 あの付近に謎の攻撃をした者がいる…。


「あっ!なんか浮いてきた!」


 シュゴッ! シュゴッ!


 何かが水面の魚を吸い込むようにして飲み込んでいる。

 ナマズではなさそうな感じがするが…。

 魚が2mほどの大きさなので、それをひとのみにできるとはかなりの大きさだろう。

 ガサガサとビニール袋から石を取り出し、投げ集中して観察してみる。


 ……黒っぽいけど、ときおり黄色や赤のどぎつい色が見える。


「あれは亀、なのか…?」


 亀だとしたら相当デカいぞ!

 大き過ぎて鯨サイズのナマズと比較ができないが、同じぐらいはありそうだ…。

 大きな湖ではあるが、こんな超巨大生物がひしめき合ってるのは何かが間違ってる!


「なんて湖だ…!」




 あの亀とは距離が離れている。

 いまのうちに仕留めた魚を回収しよう。


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