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24、投気

 赤石を握りしめ、丘の上に立つ。

 丘から見下ろす一帯はゴブリンの亡骸で埋め尽くされている。

 多すぎて途中から数えるのをやめたが、およそ100人弱という感じだろう。

 ゴブリンは大きくても140cmほどの身長で細身なのだが、結構筋肉質で意外に重かった。

 それをここまで運ぶのは大変だったが、俺が奪った命の重みを心に刻むように、1体1体丁寧に運んだ。

 自己流で悪いが荼毘に付し、弔おう。


 深く深く礼をし…


 投げる!


「南無阿弥陀仏っ!」


 赤石を握る手に、祈りと浄化の念を込め、亡骸の山に投げつけた!


 ドガッ!  ゴゴオオオォォォウウウゥー……


 一切を焼く業火の炎が高く高く舞い上がった。






 不動明王はたとえどんな悪でも炎という最後の慈悲によって浄化するという、仏の愛と優しさの表れ方なんだよと、忍者先輩は言っていた。

 忍者を極めるうえで修験道や密教などの宗教にも精通していた忍者先輩の話は当時よく分からなかったが、いまはそれがなんとなくわかるよ…。


 不動明王さま 力を貸して下さい


 炎は消えるどころかますます高く上がり、ゴブリンの亡骸を燃やしていった。








 長い長い時間がかかったが、赤石の力で全てのゴブリンを荼毘に付すことができた。

 すごい煙と匂いが立ち込めているが、強い風が吹いているので風上に立てばそれほど気にならない。


 赤いバンダナは状態の良いものを10枚ほど残しておいた。

 多分このゴブリンたちにとって意味のあるバンダナだろうから、一緒に燃やしてやるべきなのは分かっている。

 しかし布系の素材がないので許してくれ。

 それとあのデカいゴブリンが着ていた鎧は、オニヤンマにバラバラに噛み砕かれて使い物にならなかったので、一緒に燃やした。



 まだ所々燻っているが、赤石は熱くなかったので拾いあげた。

 本当に不動明王さまの力が宿っているかのような石だ。




 灰や焼け残った骨のようなものをぼんやり眺めていると、キラキラと輝くものがあるのに気がついた。

 拾ってみると、それは小指の先ほどのサイズの宝石のような物だった。

 これでは小さすぎて投げても威力がでぬわっ!


 ……ゴブリンの残したものだから残しておこう。

 

 同じような宝石は、探すと結構見つかった。

 ゴブリンが隠し持っていたのか、体の中にあったものか。

 指弾で使えなくもないが、『虚』をつかないといけないシチュエーションはほとんどない。

 強化されている投げによる『実』の一撃あるのみだ。

 わざわざ掘り起こして探す必要はないだろう。




 赤石の力の使い方がだいぶ分かってきた。

 同じ投げでも心の持ちようというか、意思で炎の強さが変わる。

 何か正確にはわからないが込めれば込めるほど、炎が強くなる。


 …そう投気(とうき)だ。

 投げる者による投げるための気。

 私はそれを投気と名付けたっ。

 湖の石はそれに応えるのだ!




 ……ふぅ、熱くなり過ぎたぜ。

 一旦落ち着こう。

 そういえば戦闘中に他の石を投げたときに不思議な現象が起こっていたっけ?

 どの石かわからないから、もう一度全部検証しよう。

 それと槍を作り直さないと。

 全部破損している。

 全力で投げる壊れるんだよなー。


 武器庫と名付け、激しく地形をかえられた採掘場。

 そこにゴブリンが残した武器が集められている。

 槍の穂先やナイフの刃には、石のような金属のようなものが使われている。

 歪で粗末なものだが、裸の人間には充分に危険なものだ。

 これらを加工しようかと思ったが、どうせ思いっきり投げると壊れる。

 使い捨てと割り切ろう。

 形の良い、使えそうなゴブリンナイフを選別し、石板の加工をする。

 角石でやるより繊細な加工ができるので、前よりも優れた石槍の穂先ができた。

 ゴブリンの赤バンダナで固定し、新石槍3本が完成した。





「はい、どうも!徹底投擲(てっていとうてき)チャンネルの投神(なげがみ)ですっ!

 世界を〜投げ投げ!

 今日はね、湖で拾った石の検証をしたいと思いますっ

 パッと見は普通の石なんですが、不思議な力を秘めてるんですよね〜

 さらにですね、投気を込めて投げると、その不思議な力が変化するんではないか…、という実験をね、したいと思ってます

 さぁ、どうなるか!

 それでは〜スタート!」


 検証といえばエムブロでしょう。

 カメラも回ってないがテンション上げていきますっ。


「先ずは角石(かどいし)

 拾った順番でやります

 投気を込めない、込めるで違いをみたいと思います


 投げる!」


 シュッ ズカン!


「安定の破壊力!

 ありがとうございます

 また石板が産出されましたよ

 どうすんだよ、こんなに石を切り出して!



 では〜次に投気を込めて、投げる!」


 ……シュッ ズカンッ!


「おー、破壊力が上がってるね〜。

 ん?

 石板が切り出されずに、粉々に砕けてる…


 破壊した…?


 破壊力アップってことかな?

 わからないけど、なかなか強力な力です


 お次は焦げ茶色の泥岩(でいがん)泥石(どろいし)いきまーすっ


 シュッ ズガン!


 素晴らしい!

 角石と同じく石板を産出しました


 ……シュッ ズカン!


 投気を込めた角石とは違う壊れ方だ

 当たったところを中心にゴソッと岩が落ちてひび割れていますね

 んー、よく分からん

 保留っ


 はい、3番目は赤っぽい花崗岩(かこうがん)、花崗

 確かこの花崗が乱戦中に妙な現象を起こしていたと思うのですが…

 これは期待できますね


 シュッ ズカン!


 はい、OK!


 ……シュッ ズカン!


 見た目は変化なし?

 でも石が当たった岩壁を触ってみると、氷のように冷たい!

 なんで?

 わからんけどやるな!異世界不思議パワー!」





 誰もいない岩場に俺の明るい声が響く。

 寂しくはない。

 孤独を越えた先に理想の投げの境地があるのだ!


「4番目に拾ったのは赤石(あかいし)ですが、これはもう検証済みなので〜割愛っ

 5番目の緑石(みどりいし)は、癒し、です

 以上っ


 6番目の石英(せきえい)は投気によってキラキラが増しました!

 綺麗!

 以上っ

 

 さて、次が最後です

 まだ一度も投げていない7番目の白い筋が入った縞石(しまいし)はどんな効果があるのでしょうか?」


 投げる!


 シュッ バシッ!


「おおぉぉ〜!

 これは分かりやすい!

 当たったところに衝撃波みたいなのもが発生して亀裂が深く入っております!

 この石の模様に相応しい力が宿っているようですね

 もうひたすらファンタジーですが、異世界ということで納得するしかないです、ハイ

 それでは投気を込めて投げてみます。」


 投げる!


 ……シュッ ズバシンッ!


「おぉ〜!

 亀裂が深く、大きくなりました!

 まぁ予想通りな結果ですが、これは石切り作業が捗りますね!

 これ以上の石板は要らないのですがっ



 はい、というような結果になりましたが、皆さんいかがでしたでしょうか?

 ちょっと検証しきれてない石もありますが、おいおいね、その秘密に迫っていければと思います

 そしてまだまだこの湖の中に石は落ちてると思いますので、見つけ次第検証していきますね

 それでは、ご視聴ありがとうございました!」


 という感じで検証を終えた。

 テンションはあがるが、ストレスも溜まった気がする…。


 もう今日は日が暮れてしまった。

 疲れてしまったので、緑石を投げて寝てしまおう。




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